2019 Fiscal Year Research-status Report
変形下での有機半導体デバイスの電気的性能劣化を引き起こす機械的要因の解明
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19K04093
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
小金丸 正明 鹿児島大学, 理工学域工学系, 准教授 (20416506)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 有機半導体の機械的応力効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
p型印刷有機薄膜トランジスタ(Organic Thin-film Transistor:OTFT)を対象とし、機械的負荷に起因する電気特性変動(機械的負荷が比較的小さな領域)および電気的破壊(機械的負荷が大きな領域)を実験的に評価した。 機械的負荷が比較的小さな領域での電気特性変動評価では、まずはバイアスストレス効果の影響を評価した。バイアスストレス効果は、電気的負荷の繰り返しによりOTFTの電気特性が劣化する現象である。本研究では、無負荷の状態で連続して300回所定のゲート電圧を印加し、その際のソース・ドレイン間電流を計測した。その結果、1回目~20回目の間で最も大きくドレイン電流値が減少し、電圧印加回数300回程度でドレイン電流値の減少が飽和することが分かった。すなわち、OTFTの機械的負荷による電気特性変化を評価する際に、バイアスストレス効果の影響を考慮する必要があることを明らかとした。 次に、OTFTの機械的負荷に起因する電気特性変動現象として、電流方向に対する負荷方向依存性を評価した。その際、円形試験片を用いることにより、同一個体のOTFTにおいて、電流方向に対して異なる負荷方向での電気特性変化を評価可能とする新たな試験・評価法を提案した。この方法による評価の結果、OTFTの引張負荷による電気特性変動の応力感度には、負荷方向依存性があることを明確にした。 機械的負荷が大きな領域での電気的破壊の評価では、引張負荷下での絶縁膜の絶縁特性評価を行った。本研究では、有機半導体層を除いた半導体“レス”トランジスタ構造試験片を用いた評価手法を新たに考案した。この試験片を用いて、引張負荷下におけるOTFT絶縁膜の絶縁特性を評価した。その結果、試験片の応力―ひずみ特性(基板材料の材料特性と見なせる)と絶縁特性の劣化に相関が見られ、試験片の降伏点付近で絶縁破壊が生じることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
機械的負荷に起因する電気特性変動評価(機械的負荷が比較的小さな領域)では、まずはバイアスストレス効果の影響を評価した。その結果、機械的負荷に起因する電気特性変動評価において、バイアスストレス効果の影響を考慮する必要があることを示した。また、引張負荷下での電気特性変動評価実験では、円形試験片による評価を新たに考案した。バイアスストレス効果を考慮した円形試験片による評価によって、負荷応力に対する電気特性変化は、電流方向と負荷方向が平行の方が垂直の場合に比較して大きくなり、デバイス個体間のばらつきに関わらず、負荷方向依存性があることを明確にすることができた。これらの結果は、OTFTの機械的負荷に起因する電気特性変動を引き起こす物理的要因(現象)解明に必要なファクトデータとなる。 電気的破壊の評価(機械的負荷が大きな領域)では、有機半導体層を除いた半導体レストランジスタ構造試験片を用いた評価手法を新たに考案した。この評価の結果、試験片の応力―ひずみ特性(基板材料の材料特性と見なせる)と絶縁特性の劣化に相関があることを明らかにすることができた。さらに実験データ数を増やし、ひずみ・応力などの機械工学的指標を用いて、OTFTの絶縁破壊による不可逆な電気的破壊が生じるしきい値を明らかにすることに繋げる。機械的損傷箇所・様相の観察については、Conductive-AFM観察のための条件出し等の予備試験を行った。 以上から、概ね当初の予定通り進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
機械的負荷に起因する電気特性変動評価(機械的負荷が比較的小さな領域)については、OTFTの機械的応力による電気特性変化の負荷方向依存性のメカニズム解明のため、R1年度に新たに考案した円形試験片を用いた評価の実験データ数を増やし、かつ負荷方向の角度をさらに変化させる等、さらに詳細に検討する。またR1年度は、多結晶半導体を用いたOTFTのみを対象としていたが、機械的応力効果の物理現象解明のためには、単結晶有機半導体を用いた実験が必要である。これにより、粒界等の影響を排除することができ、結晶のひずみがキャリア輸送に及ぼす本来の影響を考察することが可能となる。さらに、半導体層と接する電極の構造(大きさや配置)が異なるOTFT試験片を用いた評価を検討する。これにより、電気特性変動における接触抵抗の影響を評価することができる。R2年度は研究協力機関とこれらの試験片の作製について協議する。以上の結果を踏まえ、最終的にはOTFTの機械的負荷に起因する電気特性変動を引き起こす物理的要因(現象)を明らかにし、電気特性変動(量)をひずみ・応力などの機械工学的指標で整理することを目指す。 電気的破壊の評価(機械的負荷が大きな領域)については、R1年度新たに考案した半導体レストランジスタ構造試験片を用いた評価をさらに進める。電気的破壊が生じた試験片に対してSEM観察やConductive-AFM観察を実施し、機械的損傷箇所・様相を同定する。最終的には、OTFTの絶縁破壊による不可逆な電気的破壊が生じるしきい値をひずみ・応力などの機械工学的指標を用いて示すことを目指す。
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