2020 Fiscal Year Research-status Report
精密加工へ用いる時空間波形歪が補償された超短パルスビームアレイの生成法の研究
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19K04112
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
尼子 淳 東洋大学, 理工学部, 教授 (20644628)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 秀俊 東洋大学, 理工学部, 教授 (90393793)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 超短パルスレーザー / ビームアレイ / 回折光学 / 波形整形 / 色収差補正 / 分散補償 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題の目標は時空間の波形歪がない超短パルスビームアレイ生成光学系の完成にある。我々は屈折レンズと回折レンズから成るハイブリッドレンズを発案し、波形歪の要因である諸分散を制御することにより、光学系の空間分解能と時間分解能が光軸上と光軸外でほぼ理論限界まで向上することを実証した。 当該年度はビームアレイの均一性向上を目標に次のふたつの課題に取り組んだ。 (1)回折に起因する位相遅延分散の補償: 当初は光学系の中に位相差板を置いてパルスに生じる位相遅延分散を補償することを考えていた。しかし分散補償とともにパルスビームの集光位置が光軸方向にずれてしまい、このずれを光学系のレイリー長の範囲に留めるのは難しいことがわかった。我々は光学系に入れるパルスビームに与えるプリチャープへオフセットを加える方法(オフセット法)を発案し、所要のオフセット量を算出する解析モデルを導出した。許容する分散量すなわちパルスの伸びを与えれば、この解析モデルから最大回折角が求まり、加工へ利用できるビームアレイ長が決まる。オフセットによりパルスビームの集光位置が影響を受けることはない。 (2)ビームアレイにおけるパルスエネルギーの均等分配: 超短パルスビームを回折ビームスプリッタへ入れたときの回折効率は研究コミュニティの間でも十分に議論されていなかった。我々はレーザー加工へ広く使われる二値位相型回折ビームスプリッタをとりあげ、回折効率を算出する簡便な解析モデルを導出した。この解析モデルを用いて回折効率とパルス幅の関係を調べ、光軸外へ回折されたパルスビームのエネルギーが光軸上の非回折パルスビームへ洩れること、パルス幅が短くなるとともにエネルギーの洩れが大きくなることを明らかにした。これらの知見をもとにスプリッタを設計することによりアレイを構成する個々のビームへパルスエネルギーを均等に分配できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
位相遅延分散の補償とパルスエネルギーの均等分配について検討し、実用十分な長さと均一性をもつビームアレイをつくれる目処が得られたことから、「おおむね順調に進展している」と言える。以下に「研究実績の概要」を補足する。文中「fs」はフェムト秒を意味する。 分散補償のために発案したオフセット法は、「プリチャープへオフセットを加えてパルスビームの位相遅延分散が補償される回折角度を光軸上(0度)から光軸外へずらす」という考え方である。導出した解析モデルを用いると、例えば、初期パルス幅が22fsの場合に1fsのパルスの伸びを許容すると、オフセットなしでは最大回折角は1.5度(アレイ長2.6mmに相当)、所要のオフセットを加えると最大回折角は2.1度(アレイ長3.7mmに相当)と求まる。2fsのパルスの伸びを許容すると、所要のオフセットに対して最大回折角は2.5度(アレイ長4.4mmに相当)まで広がる。ビームアレイを直接評価することが難しいため、回折角が異なる一次回折パルスビームを個別に用意し、それらを評価してオフセット法の有効性を検証した。 パルスエネルギーの分配を議論するために導出した回折効率の解析モデルはパルス幅の関数であり、遠方界における回折波の複素振幅を掛け合わせたガウス型スペクトル波形をフーリエ変換して求めたものである。この解析モデルから、パルス幅が10fs程度になると、ビーム分岐数が少ない場合でも、アレイにおけるパルスエネルギーの均一性が損なわれることがわかる。また、ビーム分岐数が1000程度に増えると、パルス幅が100fs程度でも、アレイにおけるパルスエネルギーの均一性が顕著に低下することもわかる。これらの知見から、パルスエネルギー分布が均一なビームアレイを得るには、ビーム分岐数に加えてパルス幅を考慮して回折ビームスプリッタを設計することが不可欠であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度の研究成果によれば、1)光学系の入力パルスビームに対するプリチャープへ所要のオフセットを加えることと、2)非回折パルスビームへのエネルギーの洩れを考慮して回折ビームスプリッタを設計することにより、長さ4mm以上の均一な超短パルスビームアレイをつくれる目処を得た。実用に足りるビームアレイは得られているが、開発技術のポテンシャルをさらに高めてレーザー加工における用途を広げるために、最終年度となる令和三年度は以下の課題に取り組みたい。 (1)パルス幅が20fsよりも短い場合の光学系の設計 開発した光学系はパルス幅が20fsかそれよりも長い条件では所望の性能を与える。もっと短いパルスでも光学系が使えれば、より大きな光学非線形性が得られるため、超短パルスビームアレイを用いた非熱的アブレーション加工の応用範囲の広がりが期待できる。例えばパルス幅が10fsの場合、パルスの波長帯域幅が100nm以上に広がるため、色収差やパルスフロント歪等のパルス波形歪を除くためには光学素子材料の選定まで含めて設計を見直す必要がある。 (2)超短パルスビームの計測精度の向上 これまでは位相遅延における二次分散だけを考慮したパルス波形モデルを用いて、レーザー干渉計で取得したフリンジ分解自己相関信号からパルス幅を推定していた。これは二次分散と比べて高次分散は十分小さいことがわかっていたからであるが、高次分散(とくに三次分散)の大きさを定量化できれば、超短パルスビームを諸材料へ照射した場合のアブレーション現象の考察に有用な資を得ることができる。
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Causes of Carryover |
当初予定していた位相差板の試作が不要となったため、次年度使用額として440,000円が残った。この使用額は超短パルスビームアレイの評価に必要な光学治具ならびに光学部品の購入に充てたい。
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Remarks |
尼子 淳 "精密加工へ用いる時空間波形歪が補償された超短パルスビームアレイの生成法に関する研究,”天田財団 平成29年度一般研究開発助成AF-2017215, 助成研究成果報告書 Vol. 33 (2020.11), https://www.amada-f.or.jp/report/k/k_2020.html.
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