2020 Fiscal Year Research-status Report
表面超強加工による高機能ナノ組織表層の創出とトライボロジー特性の向上
Project/Area Number |
19K04160
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Research Institution | Fukui National College of Technology |
Principal Investigator |
加藤 寛敬 福井工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (30311020)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 表面超強加工 / 結晶粒微細化 / ナノ組織 / 滑りバニシング / トライボロジー / 表面性状 / 耐摩耗性 |
Outline of Annual Research Achievements |
極めて大きな塑性ひずみを金属材料表面に与える超強加工の一つである滑りバニシング(Sliding-Burnishing: SB)加工は、ひずみ勾配により組織が傾斜化した超微細組織が表面に形成され、トライボロジー分野への応用が期待できる。本研究では、加工前の表面性状とSB加工条件が加工後の表面性状や組織・硬さに及ぼす影響を明らかにするとともに、その加工表層の摩擦摩耗特性を評価することを目的とした。 SB加工は、旋盤の主軸に取り付けたディスク試験片を回転させ、ばねを内蔵させたボール治具を刃物台に固定し、ディスク端面にボールをばね力で押しつけながら送りを与えて加工を行った。旋削条件を変えて粗さの異なる炭素鋼S45Cの試験片を準備し、工具であるボールにはSi3N4を用いた。加工条件として、押し付け荷重250 Nと500 N、回転速度800 rpm、ボール送り速度0.01 mm/rev、潤滑剤無の大気中、加工回数1回でSB加工を行い、加工面の粗さや硬さ・耐摩耗性について調査した。 その結果、表面粗さでは、SB加工により旋削面の凹凸が平滑化し、Raの値が最小で1/60以下に低減した。なお、旋削面の最大高さ粗さRzがある値以上になると、SB加工面に旋削痕の凹凸が残り、SB加工には平滑化できる限界の表面粗さRzlimが存在することがわかった。Rzlimはボール直径が大きいほど、押し付け荷重を高荷重にするほど大きくなった。断面組織では、SB加工の摩擦力によって摩擦方向に曲げられた塑性流動組織と、非常に細かい超微細組織が表層に生成し、その組織の硬さ(HV699~HV317)は加工前の硬さ(HV250)と比べて大幅に上昇した。さらに、摩耗試験では、旋削面に比べてSB加工面の摩耗痕深さは最小で1/37以下と非常に小さく、SB加工によって耐摩耗性が飛躍的に向上した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SB加工の代表的な加工条件である、加工前の表面性状、ボール材質、押し付け荷重、ディスク回転速度、送り速度などが加工面の表面性状や硬さに及ぼす影響について明らかにし、表面性状の向上と高硬度化の両立が可能な最適加工条件の目処が立った。また、SB加工面の摩擦摩耗試験により耐摩耗性も飛躍的に向上することを明らかにすることができた。以上のことから、本課題で提案しているSB加工により、高機能ナノ組織を有する表層の生成とトライボロジー特性の向上の可能性があることが分かったので、順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の令和2年度では、加工前の表面性状の影響に注目し、SB加工により平滑化できる限界の表面粗さが存在すること、その限界の表面粗さは、押し付け荷重やボール直径などの加工条件に影響されることを明らかにした。そこで、3年目の令和3年度では、平滑化できる限界の表面粗さ以下の試料を用いて、加工荷重、加工速度、送り速度などのSB加工条件をパラメータとしてひずみ勾配やひずみ速度を変化させることにより、材料表面に生成する傾斜微細組織制御の可能性を明らかにするとともに、その傾斜微細組織表層の摩擦摩耗特性を評価してトライボロジー特性に優れた高機能表層を創出することを目標とする。 実験方法として、SB加工した試験片は、触針式表面粗さ計や3D顕微鏡を用いて加工面の表面性状を観察した後、摩擦方向に垂直および平行な断面で切断し、加工表層の金属学的・力学的特性の調査を行う。具体的には、光学顕微鏡、FE-SEM、EBSD(電子後方散乱回折像法)、TEMによる結晶粒サイズ・結晶方位関係などの微細構造組織観察、およびナノインデンテーションによる力学的性質(硬さ・ヤング率)の深さ方向の変化を調査し、結晶粒の微細化・傾斜化のメカニズムを解明する。さらに、生成した塑性流動組織からひずみ量およびひずみ勾配を測定し、SB加工条件、すなわちひずみ勾配やひずみ速度が加工面のナノ傾斜組織・硬さ分布に及ぼす影響を調査して最適なSB加工条件を明らかにする。また、SB加工面のトライボロジー特性の評価は、雰囲気を制御できるボールオンディスク摩擦摩耗試験機を用いて、摩耗量・摩擦係数・摩耗痕性状などを観察して行う。これらの摩擦摩耗試験結果を、SB加工表層の特性と関連付けて考察するとともに、これらを加工条件にフィードバックしてトライボロジー特性に優れたSB加工微細組織表層を開発する。
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Causes of Carryover |
SB加工により生成した微細組織を観察するためのSEM装置の電子銃の調子が悪い期間があったため表層組織の評価ができず、それが原因でSB加工実験回数が予定より減ってしまったことで、試験片や工具などの物品費支出が減ってしまった。また新型コロナ感染拡大に伴い、予定していた海外での国際会議での論文発表が出来なかったことも理由の一つである。 次年度には、当該年度請求分も合わせて、平滑化できる限界の表面粗さ以下の試料を用いて、加工荷重、加工速度、送り速度などのSB加工条件をパラメータとしてひずみ勾配やひずみ速度を変化させて材料表面に生成する傾斜微細組織制御の実験や、傾斜微細組織表層の摩擦摩耗特性の評価実験に助成金を用いる。具体的には、SB加工用試験片、種々の材質、直径、形状をもったSB加工工具に加えて、試験片洗浄薬品、SEM、TEM組織観察試料作製消耗品(切断カッター、研磨紙、硬化樹脂)などに使用する。また、摩擦摩耗試験では、摩耗試験片、雰囲気ガス、真空排気関係消耗品、試験片治具などにも使用する。さらに、成果発表用の旅費、論文投稿費にも使用する計画である。
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Research Products
(3 results)