2020 Fiscal Year Research-status Report
オンチップ微小液滴電気穿孔プロセスの数値解析と現象メカニズムの解明
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19K04183
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Research Institution | Sasebo National College of Technology |
Principal Investigator |
中島 賢治 佐世保工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (40311112)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 数値解析 / 液滴エレクトロポレーション / マイクロ流体デバイス / 細胞膜穿孔 / 遺伝子導入 / 液滴形成 / ディーン流れ / 電気穿孔 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,iPS細胞の高効率生産を可能にする「オンチップ微小液滴電気穿孔プロセス」を開発し,再生医療技術の発展に流体工学分野から貢献するもので,プロセス成否の諸条件を探索するため,流体数値解析による設計支援を行う.特に,プロセスに含まれる物理現象,①細胞整列のためのディーン流れと慣性集束,②細胞を一つずつ分離するための液滴形成,③細胞膜穿孔のための膜電荷分布と細胞膜破砕,④DNA導入のための電気泳動について,計算手法を確立する.数値解析により,各現象の力学的メカニズムを解明し,さらに,プロセスの成否と流れ条件の相関を明らかにする.本研究により,プロセス実用化のための設計指針となる基礎データを体系化する.
2020年度のおもな研究実績は,③に関して数値解析法を構築し,設計指針となる基礎データを得たことである.本件について,2020年度日本機械学会年次大会にて口頭発表し,また2021年3月には日本機械学会論文集C編に論文掲載決定した.同論文の査読において,生化学的な視点からの査読指摘があり,今後それに対して解決し,続報を英語論文としてまとめる予定である.その他の物理現象について,①は現状の数値解析技術では困難な状況の数値計算となるため,計算ジオメトリを工夫することで現象解析する検討を開始している.②は液滴形成の数値解析をレベルセット法(2流体モデル)で実現しており,現在は油相の表面張力を変更パラメータとする特性データをまとめているところである.④は,③と連成する形での数値解析を予定しているが,ネルンストプランク方程式を基礎式とする計算法について,数値解析法の検討に入っている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年3月に日本機械学会論文集C編への掲載が決定し,研究の進捗と成果公表において,おおむね順調に進展しているといえる.ただし,数値解析の実現において現段階では解決できない問題もあり,今後の進展が期待される.以下に数値解析上の課題を記す.
まず,液滴電気穿孔の数値解析について,この過程は細胞膜穿孔過程と遺伝子導入過程のCOMSOL連成計算による実現を計画している.細胞膜穿孔については基本的な計算手法は確立できたので,今後は細胞膜穿孔の状況について現実と照らし合わせながら計算のパラメータを調整していくことになるだろう.生化学的膜電位(Na+/K+-ATPaseおよびゼータ電位)の計算条件への反映が直近の課題である.
つぎに,単一細胞の液滴封入について,この過程はディーン流れによる細胞整列過程と液滴形成過程のCOMSOL連成計算を予定していたが,「計算格子よりも大きい(四面体メッシュ複数個からなる)細胞が流れの中で移動する」計算手法は現段階では困難であり,別の視点からの数値解析が必要である.現在,曲管の中で固定(静止)した球細胞の計算ジオメトリを作成し,準静的状態を仮定することで,球細胞に働く力(慣性力,サフマン揚力,重力)を数値計算できないかと考えている.試行錯誤を繰り返し,計算可能な条件を見つける.一方,細胞の液滴封入は,細胞間隔をパラメータとして,細胞球を大きさがない質点と考えることで一つの液滴に一つの細胞を封入する条件を見つける.
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Strategy for Future Research Activity |
単一細胞の液滴封入(現象①~②),液滴電気穿孔(現象③~④)に分けて,以下に今後の研究の推進方策を記す.
【単一細胞の液滴封入(現象①~②)】①ディーン流れによる細胞整列:現在,ジオメトリを作成し単層流れの数値解析モデルを構築した.今後,単層流れに細胞を混入する必要があるが,計算格子よりも大きい(四面体メッシュ複数個からなる)細胞が流れの中で移動する様子を数値解析で再現することは多大な困難を伴う.現段階ではそのような条件を実現する数値解法を実現できていないため,細胞を大きさがない質点として扱うほか方法がない.今後,計算条件を再検討して,細胞球を固定して,ディーン流れ中の球に働く力に着目したジオメトリ及び境界条件を検討する./②十字流路の液滴形成:油相中に形成される水相液滴の数値解析を,レベルセット法により実現している.[条件1]油相の表面張力および[条件2]油相と水相の流量比を変えて,液滴サイズのコントロールが可能か否か検討する.また,油相と水相の合流部形状を変形することにより液滴形成性能を向上できるか否か,いくつかのパターンで数値解析を行い検証する.
【液滴電気穿孔(現象③~④)】③電圧印加による細胞膜穿孔:機論C編の論文査読で,数値解析において生化学的膜電位(Na+/K+-ATPaseおよびゼータ電位)の影響が考慮されていないとの指摘があった.これについて,文献調査を含め数値解析法の改善を検討する.可能であれば,計算結果と実験結果の比較をしたいので,出張実験が可能になれば豊橋技術科学大学へ出向き研究打ち合わせを実施したい./④電気泳動による遺伝子導入:③と連成する形で,電気泳動の数値解析モデルを構築する.現在のところ,細孔数密度と細胞膜の電気透過性の関係を数値モデル化する必要があり,文献調査を行っている.
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、出席を予定していた学術講演会がすべてweb開催となったため。繰越及び請求の助成金は、次年度の学術講演会および豊橋技術科学大学への出張実験の費用として充てる予定。
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Research Products
(2 results)