2019 Fiscal Year Research-status Report
低速プレイグニッションの化学反応過程を明らかにする
Project/Area Number |
19K04214
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
酒井 康行 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (70511088)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 低速プレイグニッション / カルシウムスルホネート / 反応機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子化学計算,化学反応速度論計算,0次元燃焼計算を駆使して,ガソリンエンジンの熱効率向上を阻む低速プレイグニッション発生のメカニズムについて考察する.具体的には,潤滑油添加剤であるカルシウムスルホネートの熱分解生成物を同定し,熱分解生成物の気相燃焼反応機構,ガソリンと熱分解生成物の混合気体のエンジン環境下における自着火メカニズムを明らかにする.本課題で得られた学術的知見は,燃焼反応機構という形でモデル化を行い,CAEを活用した高効率エンジン開発への貢献などに期待される.2019年度は,カルシウムスルホネートの熱分解生成物の予測のために,熱力学モデルを利用してCaCO3,CaO,CaSO4,SO2などの平衡組成を計算した.また,文献からH2Sの重要性も示唆されており,H2Sの酸化反応機構とガソリンサロゲート燃料の燃焼反応機構をマージして,H2Sがガソリンの着火に与える影響を試算した.その結果,H2Sは着火を遅延する方向に効いており,LSPIの原因とは考えられないことを明らかにした.さらに,文献調査の結果,CaCO3などは化学蓄熱材としての機能があり,エンジン筒内での発熱によりLSPIの引き金になる可能性があるなどの新たな課題もあがった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
熱効率向上を阻む低速プレイグニッション発生のメカニズムについて考察する.具体的には,以下に記す5つの問いに対して分子レベルから回答することが目的である.Q1.カルシウムスルホネートの熱分解生成物の内訳,Q2.熱分解生成物の気相中での燃焼反応機構,Q3.熱分解生成物はガソリンの着火を誘発するのか,Q4.高過給,低回転,高負荷条件でLSPIが発生する理由,Q5.ガソリンの種類はLSPIの発生に関係するのか.2019年度はQ1とQ2の一部を達成目標とした.研究実績に記したように,熱力学モデル構築と化学平衡計算からQ1は完了,Q2は着手済みである.したがって,おおむね順調と評価する.
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Strategy for Future Research Activity |
2020~2021年度はQ2からQ5について考察する.具体的な計画は以下の通りである. Q2.熱分解生成物の気相中での燃焼反応機構(2019年度下半期~2020年度上半期):SO2や硫化水素が熱分解後の気相生成物の有力候補として挙げられている.量子化学計算,化学反応の統計論的手法により反応速度定数を求める.これらの計算結果を,燃焼反応モデルとしてまとめる. Q3.熱分解生成物はガソリンの着火を誘発するのか(2020年度下半期):研究代表者らが構築したガソリンの燃焼反応モデルに,熱分解生成物の燃焼反応モデルを組み合わせ,エンジン筒内を模擬した温度・圧力下における0次元の定容燃焼計算を行う.温度,圧力,当量比,熱分解生成物濃度をパラメータにして,自着火タイミングの変化を求め,同時に反応経路解析,感度解析などから自着火に至るメカニズムを明らかにする. Q4.高過給,低回転,高負荷条件でLSPIが発生する理由(2021年度上半期):燃焼反応モデルを利用して,エンジン筒内を模擬した0次元のエンジン筒内における燃焼計算を実施する.吸気ガスの初期温度および圧力,当量比,エンジン回転数,圧縮比,熱分解生成物の混合タイミングと量を変化させたガソリンの燃焼計算を行い,熱分解生成物混入による自着火タイミングの変化について考察する.LSPIの発生メカニズムの解明を目的とするため,断熱条件下における圧縮,膨張行程に単純化する.ただし,油滴の蒸発潜熱による局所的な温度降下は考慮する. Q5.ガソリンの種類はLSPIの発生に関係するのか(2021年度下半期):低温酸化による発熱の有無に着目して,ガソリンの種類がLSPI発生に与える影響を考察する.ガソリンの種類は,初期組成の与え方を変えることにより,低温酸化発熱量を調整する.燃焼計算の手法や考察方法はQ4と同様の手法をとる.
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