2020 Fiscal Year Research-status Report
Investigation of solid-liquid interfacial heat transfer influenced by the complex mobility of colloidal particles in the vicinity of a solid wall
Project/Area Number |
19K04223
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
白井 克明 芝浦工業大学, 工学部機械工学科, 准教授 (00634916)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | コロイド / 電気運動学 / 固液境界 / ブラウン運動 / マイクロ・ナノスケール / ナノ流体 / 計測 / 近接場光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は熱輸送コロイドの分散粒子が伝熱特性等に及ぼす影響に着目した研究である。対象には、液体にナノサイズ粒子を添加したナノ流体や、液体に不溶性相変化微粒子を分散させた相変化エマルションがあり、配管等に流せる流動性を持つため輸送媒体として有力である。分散粒子は周囲の流れに追従するとともに、表面の荷電状態に基づく電気運動学的挙動とブラウン運動を伴い、複雑に運動する。熱輸送媒体としての利用場面では固液境界面での伝熱を伴う観点から、壁面近傍で顕著なブラウン運動の異方性を含め、固体壁近傍での流動挙動の計測が重要である。 計測には固液境界付近で粒子挙動を計測すべくエバネッセント(EW)光を利用する。境界の固体側をガラスで製作し、試験コロイド側に向けて臨界角を超えた角度で入射させ、コロイド側にEW光を生成する。典型的な条件でEW光の浸透距離は数百nm程度で、壁面垂直方向に回折限界を超える高空間分解能を実現できる。本研究では固液境界でEW光を利用する周波数計測と画像計測の2種類の光学手法を採用する。周波数計測ではEW波を干渉させ、レーザードップラー原理で境界面の接線方向速度を計測する。画像計測では、蛍光粒子を用いた顕微鏡観察による粒子追跡に基づき2次元流速を計測する。 これまでに周波数計測システムによる計測を実現した。しかし、ブラウン運動の異方性で信号処理が難しく計測が安定しない問題があり、信号処理法の改良で低SN比でもロバスト性の高い周波数解析手法を見出した。また、試験部で定常温度境界条件の確立を進め、壁面間での一定温度差を実現した。さらに、印加電場による駆動に替えて安定性が高いと考えられる圧力駆動に基づく試験部と、EW光による画像計測の実現を検討した。今後は計測手法と装置の確立により、粒径と温度境界条件による粒子流動への影響を中心に、異なる計測手法の利点を活かして多角的視点から調べる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究ではエバネッセント(EW)光を用いた2種類の光学手法を実現し、試験部の温度境界条件を確立した状態で壁面近傍の粒子挙動が伝熱特性に及ぼす影響を3年間で調べる計画である。 1年目はEW光による周波数計測システムの構築に加え、試験流路構築に関する試行と、EW光による画像計測および試験コロイドの駆動方式を検討した。2年目は、周波数計測の確立と信号処理、試験流路の温度境界条件実現に向けた試作、EW光による画像計測システム構築の準備を進めた。 当初は2年目に試験部温度境界条件を確立し、EW光による画像計測の確立を完了させる予定であった。しかし、1年目終わりから新型コロナウィルス感染症(Covid19)が発生し、緊急事態宣言等で大学の研究室での作業禁止期間が続いた。一時期は立入禁止期間もあり、その後も立入制限が課され、当初の計画を変更してオンラインで進められる数値解析を取り入れた。数値解析ではEW光による周波数計測手法での信号処理において、壁面近傍での粒子のブラウン運動の異方性を考慮した解析に基づき、複数の信号処理手法を提案し比較することでロバスト性の高い処理法を提案した。また、本研究では実験装置の構築で部品や機器の導入が必要だが、国内外でCovid19の影響で物流に遅れが発生した。2年目に米国製・高感度sCMOSカメラを導入した際には納期が当初の発注後1か月から大幅に遅れ、2か月後にようやく納品された。世界中のオンライン業務増加による半導体部品不足の影響も受け、3年目の現在も日常的にCovid19発生以前と比べて納品に遅れが生じている。さらに、研究の一部を担う学生の就職内定が決まらず活動期間が延び、全体的な遅れの影響で当初予定した国際会議や国内学会での成果発表が間に合わない事態も生じ、容易に遅れを取り戻せない状況が続く。こうした影響から、総合的に当初の計画と比べてやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究でエバネッセント(EW)光を用いた周波数計測を確立し、試験部の温度境界条件実現に目途が立った。今後はEW光を用いた2種類の計測手法を併用して実験を進める。具体的にはEW光を用いた画像計測を確立し、試験コロイドの駆動方式を電気駆動から圧力駆動に改める EW光による画像計測では、顕微鏡システムを自作する。ガラスと試験コロイドの接する境界で全反射によるEW光を発生させ、予め試験コロイドに分散させた蛍光(フルオレセイン系)粒子を照明する。照明光で励起された蛍光を、フィルターを介して2年目に導入した高感度sCMOSカメラで観測する。観測された粒子画像を粒子追跡に基づき解析し、粒子挙動を調べる。 試験部構築では、2年目の研究で矩形断面試験部の一部をシリコーン樹脂で製作した。試験部片側壁面を温度調節ヒーターで加熱し、反対側を循環式恒温槽からの循環水で冷却することで、壁面間に一定温度差(約10℃)を実現した結果、温度勾配一定の条件を実現する目途が付いた。今後は計測面内での温度分布の一様性を検証する。温度分布計測にはレーザー誘起蛍光法を採用する。試験部を蛍光染料(ロータミン系)水溶液で満たし側面からレーザー誘起光をシート状に照射して励起し、2年目に導入した高感度sCMOSカメラで蛍光を観察し、Beer-Lambertの法則に基づき蛍光強度から温度分布を算出する。また、従来は印加電場を用いた電気泳動・浸透によって試験コロイドを駆動したが駆動時間が短く、十分なサンプル取得が困難であり、実験毎の再現性に問題があった。3年目は新たに圧力駆動方式の導入し、試験流路は透明シリコーン樹脂とガラス材料で製作し、試験流体をシリンジポンプで圧力駆動する。 上記の方策により、粒子挙動の試験部に温度勾配を実現した状態で、EW光を用いた2種類の光学手法を併用して伝熱特性に粒子挙動が及ぼす影響を評価する。
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Causes of Carryover |
2年目には当初の計画どおり高感度sCMOSカメラを導入した。ただし、カメラの購入費用が当初想定したよりも高額なうえ、科学研究費の配分自体が決して十分ではないため、カメラ購入の目的で1年目から繰り越した予算を加算したうえ、さらに他の研究資金との合算でようやく導入に至った。2年目の支出でカメラ導入以外の大部分は、機械部品および電気部品、試薬であり、EW光による画像計測の確立と試験部構築、試験コロイド駆動方式の変更に関する部分であった。しかしながら、新型コロナ感染症の影響により、一部の作業で遅れが生じた。そのため、予算の一部を3年目に繰越すことにした。繰り越した予算は3年目のEW光による画像計測システムの構築と試験部構築、試験コロイド駆動方式の変更における必要な物品や薬品の購入に充てる方針である。
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