2019 Fiscal Year Research-status Report
樹木導管を模擬するメゾスケール複雑境界内の二相流数値計算手法の開発
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19K04241
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
山口 朝彦 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (00284711)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | bubble / vertical wall / contact angle / tension / cohesion |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、広く受け入れられている植物の水分輸送モデルであるcohesion-tension theoryは、水で満たされた1本の細管の下端に根圧としての浸透圧、上端に葉からの蒸散による負圧がかったモデルで、水の凝集力を介した張力の伝達により水分は根から葉まで運ばれるというものである。また、水分の移動は化学ポテンシャルをモル体積で除した水ポテンシャルと呼ばれる量のこう配によって記述される。さらに最近では葉で吸収した水分を高所に貯蔵する仕組の観測も行なわれている。まず、今年度は、水分輸送のドライビングフォースとして最も寄与が大きいといわれる葉の気孔における引っ張り力について調査し、その発生理論について検討した。一般には、葉の蒸散面にあるセルロースミクロフィブリルのネットワーク内に湾曲した気液界面が存在し、その界面力が水分輸送に必要な張力を発生するといわれているが、具体的なモデルを立てて検討された例が見当たらない。そこで、本課題では、セルロースミクロフィブリルのネットワークを単純な格子で模擬し、そこに存在する気液界面による界面力から発生する張力を算出した。その結果、100mの高さを有する植物に最低でも必要とされる3MPa以上の張力発生できる結果を得た。また、植物は昼間と夜間では、蒸散量が異なり、輸送される水分量の違いにより必要とされる張力も変化すると考えられるが、その変化についても、界面の位置によって自発的に調整されるとの結果を得た。 もう1つの特徴である水の凝集力については、道管中の気泡の影響を明らかにするために研究代表者らがこれまでに開発してきた気液二相流のためのPFM-LBGKプログラムに固気液界面における接触角を導入し、植物道管の一部をモデル化した垂直壁面に単一気泡を配置し、その挙動に関する数値シミュレーションを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Tension-cohesion Theoryの理論の面については、張力の発生メカニズムをより具体的にモデル化し、実在する最も背の高い樹木の高さに必要な張力を葉にあるセルロースミクロフィブリルのネットワーク内で発生できることを明らかにできた。また、単に大きい張力を発生するだけではなく、気液界面位置の上下動により、必要な流量を自発的に発生させうる可能性が見えた。 数値シミュレーションによる水分輸送の再現については、実際に問題となっている道管内の気泡の影響を調べるために、濡れ性の影響を接触角として導入する数値計算プログラムを作成した。採用している数値計算法PFM-LBGKは界面力を考慮できる手法であり、これに固気液界面の濡れ性を接触角として導入することに成功した。このプログラムを用いて、導管壁を模擬した垂直壁面上の単一気泡の挙動について計算した結果を9月に英国で開催されたUKHTC2019にて発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
葉のセルロースミクロフィブリルのネットワークにある気液界面による張力発生メカニズムについては、より実際の形に近いモデルによる理論を構築する。具体的には、現在の単一格子による網目の平面でモデル化している計算を、二重、三重に立体化すること、格子から繊維のネットワークに拡張することなどが考えられる。 また、気液界面の界面張力と固気液界面の濡れ性を考慮することのできる数値計算プログラムが構築できつつあるので、導管内の気泡の挙動の数値シミュレーションをより現実の境界条件に即したモデルに近づける。ただし、現在は、壁面における質量保存に問題が残っていること、それに起因して計算が発散する条件が存在することなど、プログラムおよび計算モデルに改良の必要があるため、引き続き計算モデルおよびプログラム開発を続ける。 今年度の数値シミュレーションにおいては、モデル化に重点を置いたため、効率のよい並列計算法へのアプローチなど、計算効率についても改良を試みる。
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Causes of Carryover |
並列計算用コンピュータを購入予定であったが、最適な性能を有する計算機が高額であったので、次年度以降の交付額と合わせて購入することとしたため。
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Research Products
(4 results)