2023 Fiscal Year Research-status Report
樹木導管を模擬するメゾスケール複雑境界内の二相流数値計算手法の開発
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19K04241
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
山口 朝彦 長崎大学, 工学研究科, 教授 (00284711)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 格子ボルツマン法 / フェイズフィールド法 / オーダーパラメータ / 気液二相流 |
Outline of Annual Research Achievements |
樹木は、ポンプなどの動力を用いずに水分を地面から10m以上、高い樹木では100m以上の高さまで輸送することができる。この仕組みを工業的に利用できるようになれば、水分輸送をともなう機器の性能向上に繋がると考えられる。 研究代表者らは、これまでに二相系格子ボルツマン法を用い、ヒートパイプのウィック内の流れなどを数値シミュレーションにより解析してきたが、この手法を用いて、未だ未解明の部分が残るとされている植物導管内の水分輸送の数値シミュレーションによる解析を行なうことが、本研究の目標である。現時点で、植物の水分輸送は水の凝集力によるものと考えられているが、気泡生成の影響について議論が必要であり、本研究で用いている二相系格子ボルツマン法が有用である。 植物導管の管壁は、セルロースのような濡れ性の大きい材質であり、その濡れ性を考慮した解析が必要となるため、壁面における濡れ性を考慮できるプログラムを作成し、数値シミュレーションを行なっているところであるが、現時点で計算の収束性の問題がある。これまでに作成してきた格子ボルツマン法のモデルでは,系が大きくなったときや,固体壁面に気液二相が触れる場合の収束性に問題が生じていた。その解決に当たり,マルチ緩和時間の導入やポアソン方程式の解法の改良に着手してきたが,今年度は,支配方程式として利用しているフェイズフィールド法に重点を置いて研究を行なった。二相系格子ボルツマン法ではフェイフィールド法の支配方程式であるアレン ー カーン方程式を、流体輸送とともに格子法のスキームで解いているが、今回はフェイズフィールド法の部分のみを対象に、差分法によるプログラムを作成し、その挙動を確認しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに,密度差の大きい気液二相流の挙動を数値シミュレーションによって解析するために,3次元二相系格子ボルツマン法に,壁面の濡れ性を導入し,垂直平面および傾斜平面に接する液体中の気泡の挙動について数値シミュレーションを行なえるようにした.ただし,現状では計算の収束性に問題が見られ,長時間のシミュレーションや,壁面に気相が接する場合に,質量が保存されず計算が発散してしまう.また,一般的に見られるようにポアソン方程式を解くのに時間がかかり,上記の質量保存と相俟って計算が終わらない場合が多く見られるようになった.昨年度から,MRTを導入を検討して,収束性の向上を画策してきたが,現在のところ解を見つけるに至っていない. そこで,今年度は,基本に立ち返り,上記の計算方法で使われているフェイズフィールド法に焦点を当て,アレン - カーン方程式の時間発展を,差分法で解くプログラムを利用して,非保存系の秩序(オーダー)パラメータを計算することにチャレンジした.計算結果を確認するために,本研究の直接の対象となる水と蒸気ではなく,単結晶シリコンを対象に,固体が誘拐するまでは単純な熱伝導の計算を行ない,融解して液相となったシリコンが気化して気泡が広がっていく様子を計算するプログラムを作成した.融解したシリコンの中心にパルスレーザーを模擬して加熱することで,気相領域が広がっていく様子と,フェイズフィールド法の特徴である,二相界面でオーダーパラメータが連続的に変化する様子を計算することができるようになった.この結果は,日本機械学会九州支部第77期総会・講演会にて発表した. この4年間はCOVID-19の影響で研究発表の場が失われるなど、計画時には予想していなかった事態が起きたため、本来であればR5年度が研究最終年度であったが、R6年度まで延長させていただくこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
この3年間はCOVID-19の感染拡大の影響により研究発表の場が失われたり,COVID-19の影響で親族の不幸があったりするなど、計画時には予想していなかった事態が起きたために研究期間を1年間延長した。このことを考慮し、最終年度となるR6年度の研究推進の方策は以下の通りである。 まずは,今年度実施したフェイズフィールド法のプログラムを用いて,これまでに作成してきた二相系格子ボルツマン法にフェイズフィールド法が適切に実装できているかを確認し,不具合があれば修正する.また,収束性の問題を解決するために,一昨年度に行なっていたMRTの導入を完了させる.その上で,植物導管内を境界条件として気液二相流の計算を行ない,凝集力-張力説の確認と気泡挙動の解析を行なう. 最終年度であることから,これまでの研究方法および結果のとりまとめを行ない,最終的な結果を学術誌または学会で公表する.さらに,当初の研究計画にある通り,計算方法と結果を公表するためのWebページの作成に取り組む.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大のため、2020年度から2022年度まで国際学会の現地参加の機会が失なわれたことによるものである. 次年度使用額の使用計画としては,学術誌または学会での発表にかかる経費と,当初の研究計画にあるように研究方法および結果を公表するWebページ作成に当てる予定である.
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