2019 Fiscal Year Research-status Report
固気液三相界面における濡れの物理モデル構築に関する研究
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19K04248
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
網 健行 関西大学, システム理工学部, 准教授 (00581654)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 数値シミュレーション / 濡れ性 / 界面追跡法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、固気液三相界面における濡れ現象を対象に、従来手法で用いられる接触角などの工学的仮定は一切用いず、流体に作用する力のバランスのみで濡れ性を表現することができる物理モデルを構築し、数値シミュレーションによるモデル評価を行うことである。本モデルの特徴は、液相中の固体表面近傍に形成される電気二重層を考慮し、流体に生じるクーロン力を新たな駆動力として組み込むことで、流動場全体の挙動を予測・評価することにある。濡れ性は温度に大きく依存することが知られており、従来手法では接触角を温度の関数にするなどの工夫がなされてきた。初期沸騰気泡径や沸騰気泡の離脱特性は、接触角に大きく依存することが知られているが、気泡生成および離脱時には、気液界面を通じた蒸発による潜熱輸送および気泡離脱におけるバルク液との攪拌による顕熱輸送により複雑な温度場が形成されるため、詳細な把握は困難であった。そこで、相変化現象における濡れを表現できるように、モデルの改良、拡張を行った。まず、エネルギー方程式を導入し、温度場における濡れ性の変化について検討した。そして次に、界面を通じた熱輸送による相変化量について検討を行った。様々なモデルが考案されているが、本研究ではプール沸騰における単一気泡のように比較的シンプルな界面を持つものと、流動沸騰のように非常に多くの単一および合体気泡からなる複雑な界面を持つもので、計算不可の観点から分けることした。本モデルでは、このような複雑な温度場における濡れ性を取り扱うことが可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、固気液三相界面における濡れの物理モデルの構築に向けて、大きく分けて2つの手法を用いる。1つ目は連続体として界面追跡法を用いた手法であり、2つ目は離散体として、分子動力学法によるシミュレーションである。昨年度までは主に、1つ目の手法をメインに行った。まず、相変化問題に対応できるように、エネルギー方程式の導入を行った。これにより等温場のみならず加熱・冷却されている場においても相変化を伴わない系について、熱物性が濡れに与える影響および濡れ性の温度特性について検討することができるようになった。さらに、沸騰・凝縮などの相変化問題に対応するため、界面を通じた相変化による潜熱輸送量について検討を行った。本モデルでは、プール沸騰における単一気泡のように比較的シンプルな界面を持つものと、流動沸騰のように非常に多くの単一および合体気泡からなる複雑な界面を持つもので、計算不可の観点から分けることした。この際、単一気泡の場合については界面を直線近似し、さらに界面に直交する向きの温度勾配を得ることで、界面を通じた熱流束を取り扱うことが可能となる。温度勾配については簡易的に一次近似で求めているが、さらなる精度向上に向けて2次精度への改良が必要となる。また、気泡が多数存在する場合については、より簡単化した相変化モデルとして、セル内の体積率に比例した蒸発項の追加を行った。これらによりセル数を限定した小規模でのモデルの枠組みはある程度目途がついたと考える。ただし、計算メッシュの構造が2次元に限定されているため、3次元ならびに円筒座標系に対応する必要があり、さらに精度向上に向けた改良が必要となる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、引き続き界面追跡法の相変化問題の解析に向けたモデルの拡張を行うとともに、電気二重層内の分子挙動を厳密に取り扱うために、分子動力学法によるシミュレーションを導入する。さらにこれまでの界面追跡法とのカップリングを行い、流動場全体の挙動予測を試みる。現段階では、電気二重層内の固体表面から1μm以下の固定層においても、拡散層と同様に、計算メッシュを設け、連続体近似によりクーロン力を算出し、流動挙動をシミュレーションしている。しかし、電気二重層内のポテンシャル分布を厳密に算出するためには、計算メッシュを原子の大きさ以下に設定しないといけない場合があり、物理的に齟齬が生じる。そこで、固定層については流体粒子を離散的な取り扱いを行う分子動力学法を導入することで、固液界面近傍の固液界面張力の評価を試みる。なお、拡散層については連続体近似による手法で問題ないと考えられることから、次のステップとして、分子動力学法によって評価された固液界面張力を、界面追跡法に加えることを考える。これにより界面追跡法において非線形ポテンシャル分布によるクーロン力を算出する必要がなくなるため、計算メッシュの自由度が上がり、計算負荷の低減が狙える。ただし、分子動力学法の時間スケールと、界面追跡法の時間スケールが大きく異なることから、分子動力学法と界面追跡法の間のフィードバック方法に留意する必要がある。基本的には計算の時間ステップが大きな界面追跡法に合わせて計算し、その都度ごとに分子動力学法において、固液界面張力を計算することでこの問題は解決できると考えられる。
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