2019 Fiscal Year Research-status Report
分散配置姿勢ロガーによる成層圏気球の過渡状態における姿勢運動の研究
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19K04256
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
莊司 泰弘 大阪大学, 工学研究科, 助教 (70582774)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 成層圏気球 / 姿勢運動 / 機械力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
成層圏気球は宇宙観測や宇宙工学の予備実験等のため世界中で用いられる.気球フライトシステムの姿勢運動はミッションの成否に大きく影響するが,その運動特性は上昇,下降中に大きく,水平浮遊中は小さくなることが知られている程度で,減衰特性などを定量的に予想する方法は確立されていない.研究代表者は,これまでにフライトシステム各部の姿勢運動と変形を計測解析する手法を開発し,実証した.これを用いてフライトシステム各部の姿勢運動データを収集,解析し,様々なフライトシステムに対して統一的に適用できる姿勢運動減衰モデルの獲得を目指す.本研究により気球による科学観測技術の発展に貢献する. 本研究では,成層圏を飛翔する大型気球が上昇から水平状態へ移行する過渡状態におけるフライトシステム各部の姿勢運動特性を,フライトデータに基づいて定量的に明らかにすることを目的とする.そのために,まずフライトシステム各部の姿勢運動データの収集を行う.気球フライトシステムはミッションによって様々であるから,データもできる限り多くの事例を収集する.つぎに収集したデータを特に上昇から水平浮遊への移行時に着目して解析し,フライトごとの減衰特性や高度変化との相関を明らかにする.その後,気球のサイズや吊紐長さなどシステムの諸量と減衰特性の関係を調べ,フライト間相互の比較により,統一的な減衰モデルの獲得を目指す. 2019年度は,過去のフライトデータの解析により,気球フライトシステムの姿勢運動の減衰特性を定量的に検討した.この研究報告を国際学会(32nd ISTS)および国内の研究会(2019年度大気球シンポジウム)で発表した.また,このフライトデータと比較できると期待される新たな気球フライトが2019年7月に行われ,フライトデータの取得に成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では1フライトシステムにつき,気球頭頂部からゴンドラまでの6箇所にGPS姿勢ロガーを設置し,各部の姿勢運動を計測する.GPS姿勢ロガー間の相対姿勢運動をフライトシステムの変形とみなし,姿勢運動,システムの変形の時変化と気球の高度変化から減衰区間を定め,減衰特性を求める.複数のフライトデータを同じ手順で解析し,解析手法の妥当性検証とブラッシュアップを進める. 2019年度は,(1)2018年度までに収集したフライトデータを解析し,気球各部の姿勢運動の減衰特性と高度変化の相関をフライトごとに明らかにする.減衰のメカニズム(粘性,摩擦など)を検討し,それぞれの定数を求める.(2)現在保有するGPS姿勢ロガーを用いて,フライトデータの追加収集を行う.(3)GPS姿勢ロガーを追加製造し,より多くのフライト機会を得てデータ収集効率を高める,の3点を進めることを計画した. (1)について,1フライトデータの解析を実施した.このフライトでは上昇途中に振動が減衰する様子が見られず,水平浮遊に移行した後に振動が減衰する様子から減衰係数を求めた.この過程を他のフライトデータに適用するため,データの整理を進めている.(2)について,1フライトのデータを取得することができた.本年の研究対象となる大型気球のフライトはこの1件のみであった.このフライトは2017年に取得した(1)とほぼ同じシステム構成を持っており,(1)のデータとの比較により,フライトシステムの構造に依存する要素を抽出することができると期待される.(3)についても作業を進めており,これまでの経験を踏まえたファームウェアの修正等を進めた.しかし本研究以外の要因により十分な作業時間を確保できず,予定よりも遅れている.全体として計画よりもやや遅れているが,今後の研究期間内に回復できる.
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は,前年度に引き続きフライトデータの収集とフライトシステム各部の姿勢運動解析を行う.また,気球のフライト相互の減衰特性を比較し,共通の減衰メカニズムの検討を行う.2019年度の結果と2020年以降のJAXAによる気球実験計画を受け,2020年度の課題を次のように定める.(1)気球フライトシステムの姿勢運動を減衰させる要因を複数のフライトデータに基づいて推定する.(2)国内気球実験におけるデータを収集する.(3)より品質のよいデータを得られるよう,また実験機会を増やすことができるよう,GPS姿勢ロガーを3~4実験体制に拡充する. (1)については,2019年度に行ったデータ解析を発展させ,姿勢運動を減衰させる力のモデル化とその減衰係数を複数検討する.次に2019年に解析したデータ以外のフライトデータに対しても手法を適用し,複数のモデルと解析値より尤もらしい減衰力モデルを推定する.(2)については,すでに2020年JAXA気球実験にピギーバックとして採択されており,実験準備を進めている.4フライト程度が予定されており,気象条件が許せば2~3フライトのデータを取得できると期待している.(3)については,検討をすでに進めており,2020年度前半に完了予定である.さらに状況が許せば,2020年気球実験に適用し,品質のよいデータ取得を早める方針である.2021年度にJAXAは,国内で行うよりも大型の気球を用いる国外実験を計画しており,国内では実施が困難なより大型の気球におけるフライトデータを獲得できる機会となる.これに参加するための準備を行う.
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Causes of Carryover |
年度当初に物品費として計上した計測装置(GPS姿勢ロガー)の製造が,当初予定ほど進まなかったことが主な原因である.【現在までの進捗状況】の(3)として述べたGPS姿勢ロガーの追加製造を進めるに当たって,これまでの計測経験を踏まえ時間分解能を高めより高周波数帯の運動を観測できる改善方法を検討した.ソフトウェアの改良だけではなく,電子回路の変更も選択肢に上がり,検討に時間がかかった.改良する周辺部品の調達を進めたが,電子回路の部品製造終了などの影響もあり電子回路の変更に時間がかかっており,電子回路の製造を2020年度に遅らせることとした. 繰越額の使用目的は当初計画通りであり,2020年度中に実験体制の増強を行うことに変更はない.製造したGPS姿勢ロガーは2020年度の実験に供せないかもしれないものの,実験機会は2021,22年度にもあると見込んでおり,研究の遂行に大きな支障は生じない.
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Research Products
(2 results)