2019 Fiscal Year Research-status Report
ヒトの視交叉を利用した視覚刺激型ブレイン・コンピュータ・インタフェースの構築
Project/Area Number |
19K04298
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
荒木 望 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (10453151)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中谷 真太朗 鳥取大学, 工学研究科, 講師 (10781700)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ブレイン・コンピュータ・インタフェース / 視覚誘発電位 / 視交叉 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,一定周期で点滅する視覚刺激により生じる脳波を用いて,注視するだけでメニュー選択などを行う視覚刺激型ブレイン・コンピュータ・インタフェース(視覚刺激型 BCI)の高度化を目的として研究を行っている.特に本研究課題では,ヒトの視神経に関する特徴である視交叉(視神経交叉)と,VR ヘッドセットを用いた左右眼独立刺激を用いた新しい視覚刺激型 BCI について検討を行っている.
令和元年度は目的とする「ヒトの視交叉を利用した視覚刺激型ブレイン・コンピュータ・インタフェースの構築」の基礎となる知見を得るため,視交叉の特性を意識した右視野・左視野に対する視覚刺激と視覚野付近の脳波に発現する定常状態視覚誘発電位 (state-steady visual evoked potential: SSVEP) の発現部位・発現特性の調査を行った.具体的には,注視点を中央として左右に 5 箇所ずつ刺激位置を変化させた計 11 箇所に対して一定周期の視覚刺激を行い,このときに発現する脳波の SSVEP を後頭部の視覚野周辺の 7 箇所で測定し,刺激位置により強度分布がどのように変化するか調査を行った.この実験では視交叉の特性に基づき,左視野側を刺激した際には右脳側の,右視野側を刺激した際には左脳側の SSVEP 強度が増加する,という反応を予想していた.しかしながら,実際に実験協力者 8 名を対象に確認実験を行ったところ,刺激位置を注視点からずらすことで SSVEP の共同が左右で変化することが確認できたものの,実験協力者 8 名中 6 名で予想とは逆の反応が現れることを確認した. 令和元年度はこの結果を含めて4件の研究結果発表を行っている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で目的とする「ヒトの視交叉を利用した視覚刺激型ブレイン・コンピュータ・インタフェースの構築」を達成する上で,本研究課題申請時に行う予定としていた項目は,(1) 視交叉の特性を意識した右視野・左視野に対する視覚刺激と SSVEP の発現部位・発現特性の調査,(2) 発現部位・発現特性の調査結果を踏まえた新規視覚刺激型 BCI の提案,(3) VR ヘッドセットを利用した,さらなる識別パターン数増加へのチャレンジ,の3点である.
現在,(1) の「視交叉の特性を意識した右視野・左視野に対する視覚刺激と SSVEP の発現部位・発現特性の調査」の実施を行っている.これについては,研究成果概要でも述べたように,実験協力者 8 名を対象に確認実験を行ったところ,刺激位置を注視点からずらすことで SSVEP の共同が左右で変化することが確認できたものの,実験協力者 8 名中 6 名で予想とは逆の反応が現れることを確認した.この結果については,同様の事例が左右視野への刺激を利用するインタフェースに関する文献の中で報告されているものがあったが,詳しく調査した文献については今のところ見当たらなかった.一方で,本件は非常に興味深い結果であるものの,脳の処理系ではなく実験系自体に要因があることも考えられるため,より詳細な検討を行っていく予定である. また,(2) の「SSVEP 発現部位・発現特性の調査結果を踏まえた新規視覚刺激型 BCI の提案」については,視覚野の左右における SSVEP 強度の差異だけでなく,位相の変化を用いることでよりパターン分類数を増加させることが可能であることを示唆する結果を得ているので,今後より詳細に検討を行っていく. (3)の「VR ヘッドセットを利用した,さらなる識別パターン数増加へのチャレンジ」については(1)に関する調査を優先するため,現状では未着手である.
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況でも述べたように,本研究課題で行う3点の項目のうち,(1) の「視交叉の特性を意識した右視野・左視野に対する視覚刺激と SSVEP の発現部位・発現特性の調査」については,当初予想していたものと逆の反応が現れることを確認している.これについては非常に興味深い結果であるものの,脳の処理系ではなく実験系自体に要因があることも考えられる.その1つが,視覚刺激位置が注視点からずれているために,視覚刺激位置に引きずられて注視点が変化している可能性である.そこで,注視点を実際に確認する必要があるため,視線追跡装置を入手し,これを用いて注視点を確認しながらの実験を行う予定である.なお,視線追跡装置については令和元年度内に既に入手済みである. また,(2) の「SSVEP 発現部位・発現特性の調査結果を踏まえた新規視覚刺激型 BCI の提案」については,進捗状況でも述べた位相を利用する手法を引き続き検討するとともに,(1) の調査結果を踏まえた手法についても検討していきたい. (3) の「VR ヘッドセットを利用した,さらなる識別パターン数増加へのチャレンジ」については, (1) の調査においても VR ヘッドセットを用いた実験が有効である可能性があるため,既に研究室内で所有している既存の VR ヘッドセットで左右眼を独立に刺激するためのシステムの構築を行っていく予定である.
なお,令和2年度は特に感染症対策などの観点から新規の脳波取得実験が停滞する可能性があるため,これまでに取得したデータの解析,および新規実験のための実験系の構築・整備を重点的に行っていく予定である.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては,今年度購入した視線追跡装置が当初の想定よりも大幅に安く購入できた(当初想定していた機種よりも安価なもので実験の要件を満たしていた)ことがあげられる.一方で,本研究課題で行っている視覚刺激時の左右視覚野における反応調査については,当初想定していた結果と逆の結果が生じている.これについてはより詳細な検討を行う必要があるため,検討に必要な装置および消耗品を購入するために使用する予定である.
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Research Products
(4 results)