2020 Fiscal Year Research-status Report
Investigation of New Reliability Index of Power System based on Expected Utility Theory
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19K04330
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
宮内 肇 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (20181977)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三澤 哲也 名古屋市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (10190620)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 供給信頼度指標 / 電力系統 / 再生可能エネルギー / リスク鋭感的価値尺度 / 確率分布 / リスク回避度 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで電力系統の供給信頼度指標は故障の発生分布などに対する期待値で表されてきた。これは、系統が従来型の同期発電機のみで構成され、発電機によって故障発生などのリスク分布にそれほど大きな変化がなく、異なる系統の信頼度を期待値で比較してもさほど問題とはならなかったためである。ところが近年、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー電源が大量に導入され、故障の発生分布などの様相が変わりつつある。そこで、分布全体を評価する方法として、RSVM(リスク鋭感的価値尺度)を用いた供給信頼度指標を提案している。 今年度は、このRSVMを用いた供給信頼度指標をより具体的に用いるために次の2点について検証を行った。まず一点めは、これまでは系統の信頼度評価は系統全体を対象として行っていたが、母線ごとを対象にして評価を行い検証してみた。その結果、母線ごとにLOLEが等しくても、停電時間の確率分布の形状が異なる可能性があるため、従来の期待値で示される供給信頼度指標による評価よりも、停電リスクの確率分布そのものを評価するRSVMによる供給信頼度評価の方が望ましいことがあることを示すことができた。一方で、パラメータであるリスク回避度の値によって評価が異なる可能性があり、この点が課題である。 次に二点めとして、これまではRSVMによる供給信頼度指標が有効であることを確かめるために、供給信頼度が低い系統を対象に、従来の期待値による供給信頼度指標と比較検討を行ってきた。しかし、RSVMによる供給信頼度を実際の系統に適用することを考えると、現系統の基準である電力不足確率LOLP=0.1日/年程度の信頼度をもつ系統で検証する必要がある。そのような系統で検証した結果、評価値が収束するには、これまでの信頼度の低い系統条件で検証していた場合よりも1桁以上多い試行回数を必要となることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年9月に開催された電気学会電力技術・電力系統技術合同研究会、及び、令和3年3月に開催された電気学会全国大会に、本課題に関する研究成果を発表している。 研究代表者と研究分担者は、昨年度までは数か月に一度、互いを行き来することで緊密な打ち合わせを行ってきたが、今年度は新型コロナウィルス感染防止のため互いに直接会うことは最小限となり、メールやオンラインミーティングを使って打ち合わせを行った。対面の場合と異なり、細かい点での意見のやり取りには多少難渋したものの、ある程度議論を積み重ねることができ、本課題の研究内容を深化させることができたものと考えている。これらの議論を通して、RSVMを用いた電力系統の供給信頼度指標が新しい有用な指標となり得る確信を得つつある。また、研究実績の概要の欄でも述べたように、RSVMによる供給信頼度指標に関して解決すべき課題も浮き彫りになってくるとともに、今後の研究の展開につながる次のような構想も得られている。 1)電力供給や防災など「システムの信頼性や安全性リスク」といった、より一般的なリスクの評価にもRSVMが応用できる可能性があること 2)電力系統の母線ごとの信頼度評価にも応用できることから、母線ごとの供給信頼度を元にした地点別の電力価格形成への展開も考えられること これらの研究成果を踏まえて、共同研究者と共著で、電気学会誌令和3年8月号にRSVMとその応用に関する解説記事が掲載される予定となっている。以上のことから順調に研究が進んでいるものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
従来使われてきたLOLP(電力不足確率)やEUE(不足電力量)などの電力系統の供給信頼度指標と対比することで、RSVMを用いた供給信頼度指標の特徴や課題などをより明らかにしていきたい。 RSVMを用いた供給信頼度指標では、指標の導出にあたって効用関数を用いており、その効用関数のパラメータ(リスク回避度)の設定によって評価が変わることが問題点として挙げられる。このことから、従来の供給信頼度指標や内部リスク回避度(IRRA)などによる供給信頼度指標などと対比させることで、このパラメータの設定方法についてさらに検討を進めていく。また、逆に、停電コストなど系統利用者の停電に対する忌避の度合い(リスクとしての考え方)からパラメータの推定ができないかとも考えており、この点についても合わせて検討していきたい。 さらに、RSVMを用いた供給信頼度指標の正当性を検証するためには、通常の電力系統の供給信頼度レベルで評価するにはどの程度の試行回数を元に計算する必要があるのか、その目安を付ける必要があり、検証を進めていく。 今後、研究分担者・三澤哲也はさらにRSVMの概念の拡張や数理的な性質の解明にさらに取り組んでいき、その成果を元に、研究代表者・分担者が共同し、RSVMの多様な応用の一環として、単なる供給信頼度だけでなく、送電系統も考慮した供給信頼度評価から、電力システムの安全性リスクに関する評価への応用へとつなげていき、研究をより深化させたいと考えている。その過程において、動学的RSVMを電力系統の信頼度評価に適用できるかについても考察をしてみたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染対策のため、学会がオンライン開催となり、また、共同研究者を訪問しての対面で打ち合わせが実施できなかったことにより、旅費の支出が減ったことと、パーソナルコンピュータの手配が年度内に間に合わず、次年度使用額が生じてしまった。 来年度は、新型コロナウィルスにより引き続き学会等のオンライン開催が予想されるため、旅費をパーソナルコンピュータの購入など他費目に充てるとともに、これら物品の手配を早めに行うことで対応する予定である。
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