2019 Fiscal Year Research-status Report
直流設備用ポリマーの撥水性及び電気的特性の劣化回復機構の解明と劣化診断技術の開発
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19K04331
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
迫田 達也 宮崎大学, 工学部, 教授 (90310028)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 撥水性 / エロージョン / ポリマー / フラッシオーバ / 塩霧試験 |
Outline of Annual Research Achievements |
直流あるいは交流電圧印加の下,ポリマー材料に対して複数回の連続フラッシオーバ(以下,F.O.)試験を行い,湿潤汚損がポリマーの表面・絶縁性能に与える影響を評価した。また,F.O.発生に至る過程を高速ビデオカメラで観測した。 湿潤汚損したポリマーに交流電圧を印加した場合,試料上の水滴から部分放電が発生し,試料表面の撥水性が低下してF.O.が発生した。このF.O.に至る過程は,連続試験5回を通して同様で,汚損水の導電率を変えても同過程に変化はなかった。また,導電率を1~10mS/cmとした場合,2回目以降のF.O.電圧の低下は確認されず,試料表面の侵食も確認されなかった。一方で,導電率16mS/cm以上では侵食が発生し,F.O.電圧もF.O.回数と共に低下した。 湿潤汚損試料に直流電圧を印加した場合,導電率0.1-1mS/cmでの1回目のF.O.では水滴からの部分放電が発生することなくポリマー試料上の気相で発生した。低導電率の場合は直流課電の方が交流課電に比べ湿潤汚損の影響を受けにくいことが明らかとなった。また,導電率が10mS/cm以上では,交流電圧印加の場合と同様にF.O.が発生し,F.O.試験を重ねる毎に侵食範囲が広がり,F.O.電圧は交流の場合よりも大きく低下した。 以上のように,直流電圧下において低導電率で湿潤汚損されたポリマー試料表面では水滴間の部分放電現象が確認されることなく試料上方の気相で発生し,交流電圧時よりもF.O.電圧が高くなる。また,導電率が高くなるにつれて,試料表面で発生する侵食並びにF.O.電圧の低下は交流電圧印加時よりも大きくなる。水滴間の部分放電が発生するような導電率では,部分放電や部分放電に続くフラッシオーバでポリマーの浸食が進むため,交流印加時よりも撥水性の低下が大きくなるためであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画において,2019年度は,”異なる導電率の塩霧で湿潤汚損したポリマー材料に交流あるいは直流電圧を印加して,試料表面上で発生する微小放電の観測を高速ビデオカメラにより行う。加えて,交流あるいは直流課電時にポリマー表面上で異なる挙動を示す水滴と,湿潤汚損した試料上の表面抵抗がポリマー表面で発生する放電の挙動にどのような影響を与えるか明らかにする。”としていた。 2019年度の研究は,全て計画どおりに行うことができ,湿潤汚損させる汚損液の導電率によって,1)交流課電と直流課電ではフラッシオーバの形成過程が異なること,2)水滴間の部分放電が発生するような導電率下では,直流課電の場合に部分放電の発生により撥水性の低下が大きく,且つフラッシオーバによりポリマーの浸食が進むことを明らかにしている。 以上のことから,当初の計画どおりに研究は進捗していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
交流とは異なる撥水性の低下特性がポリマー表面の化学的な組成変化に拠るものか,表面で発生した微小放電による表面形状の変化あるいは放電によって生成された生成物による影響の物理化学的要因が支配しているか明らかにする。 具体的には,交流とは異なる撥水性の低下特性がポリマー表面の化学的要因に拠るものか,フーリエ変換赤外分光法(FTIR)で表面の化学的結合状態を測定する。また,前述の研究で明らかにする微小放電のエッチングによる表面形状の変化によるものか,電子顕微鏡と表面粗さ計を用いて観察する。あるいは放電によって生成された生成物による影響等の物理的要因が支配しているか,エネルギー分散型X線分析(EDX)により明らかにする。 さらに,加速劣化の程度を変えた試料の撥水性及び電気的特性の回復程度を調べ,直流課電時における撥水性に係る電気的特性の低下と回復の違いを左右する機構を明らかにする。具体的には,劣化の程度を変えた試料の撥水性及び電気的特性の回復度を調べる。これにより,直流課電時における撥水性と電気的特性の低下度と回復の違いを左右する機構を明らかにする。 以上の研究成果を基に,ポリマー材料の劣化の程度を速やかに取得できる手法を提案・開発する。具体的には,絶縁劣化の程度を評価できる,漏れ電流が観測され始める時間等の漏れ電流発生パターンあるいは撥水性の回復特性を明らかにし,オンサイトで短時間にポリマー機器の絶縁劣化診断が可能な新規の技術を提案・開発する。
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