2020 Fiscal Year Research-status Report
電磁ノイズ抑制のための近傍界ノイズ抑制素子の実用化
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19K04334
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
村野 公俊 東海大学, 工学部, 教授 (60366078)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 近傍界ノイズ抑制素子 / 差動伝送線路 / 多線条線路理論 / プリント回路基板 / 電磁環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
電気・電子機器の高機能化・ディジタル化に伴い,機器からは高い周波数成分を有する広帯域な不要電磁波が放射されており,機器は複雑な電磁界(電磁環境)での動作を余儀なくされている.このような電磁環境に置かれた電子回路や,回路間・機器間を接続する伝送線路には,不要な電流(電磁ノイズ)が誘導されるが,この電磁ノイズが電気・電子機器の誤動作を引き起こす原因の一つとなっている.このため,電気・電子機器の誤動作を抑制するためには,回路や伝送線路を伝搬する電磁ノイズを抑制することが有効である.本研究では,電子回路や伝送線路を伝搬する電磁ノイズを抑制する部品である「近傍界ノイズ抑制素子」について,検討をすすめている.近傍界ノイズ抑制素子は,コイルとコンデンサによって構成されたシンプルな共振構造をもつものであり,電子回路や伝送線路の周辺にこの素子を配置することによって,特定の周波数の電磁ノイズを抑制するものである.これまでの研究において,近傍界ノイズ抑制素子が装荷された伝送線路を,多線条線路構造としてモデル化し,同伝送線路の伝送特性を理論的に解析する手法について明らかにし,近傍界ノイズ抑制素子による電磁ノイズの伝搬抑制効果の推定が行われている.本年度は,近年多用されている差動伝送線路に,近傍界ノイズ抑制素子を配置した場合の電磁ノイズの伝搬抑制効果の改善と,同素子の装荷によって生じる問題点について,理論と実験の両面から検討を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度(2019年度)までの研究において,近傍界ノイズ抑制素子が装荷された差動伝送線路を多線条線路構造としてモデル化し,同差動伝送線路の伝送特性(透過特性,反射特性,モード変換特性)を解析的に得る手法について明らかにした.本年度(2020年度)は,この手法を用いて,近傍界ノイズ抑制素子が装荷された差動伝送線路の電磁ノイズの伝搬抑制効果と,モード変換特性を推定するとともに,差動伝送線路を配置したプリント回路基板を試作して実験的に検証を行い,それらの特性を改善する手法について検討を行った.前年度,基本的なモデルとして,近傍界ノイズ抑制素子を装荷した差動伝送線路の伝送特性について検討したところ,特定の周波数に対する電磁ノイズ抑制効果(特定の周波数の信号成分の伝搬抑制効果)がみられるものの,同周波数において,コモンモードとディファレンシャルモードとの間のモード変換が発生することが確認されている.電気・電子機器の誤動作の一因となるモード変換は,できるだけ抑えることが望ましいため,本年度は,近傍界ノイズ抑制素子が装荷された差動伝送線路の断面が対称な構造となるよう,差動伝送線路周辺に配置する近傍界ノイズ抑制素子の数や,その配置位置の検討を行った.この結果,モード変換特性を改善できることが確認された.また,結果的に複数の近傍界ノイズ抑制素子を配置したことにより,電磁ノイズの伝搬抑制効果の改善を確認することができ,本研究の目標である「近傍界ノイズ抑制素子の実用化」に向けた指針を得ることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
電気・電子機器の誤動作の原因となる電子回路や伝送線路上の電磁ノイズを,周波数選択的に抑制することを目的とした近傍界ノイズ抑制素子の実用化を図るため,これまで,同抑制素子の物理的構造や配置方法についての検討を進めてきた.初年度(2019年度)は,近傍界ノイズ抑制素子を,近年多用されている差動伝送線路に装荷した場合の同線路の伝送特性,モード変換特性を解析的に求める手法について明らかにし,同手法を用いてそれらの特性の推定を行った.2020年度は,差動伝送線路に近傍界ノイズ抑制素子を装荷した場合の問題点(モード変換の発生)を改善するため,装荷する近傍界ノイズ抑制素子の数や配置方法について検討を行った.この結果,電磁ノイズ抑制効果とモード変換特性の双方について,一定の改善が見られることが確認された.これらの結果を踏まえ,2021年度(最終年度)は,近傍界ノイズ抑制素子(構造,配置数,配置位置など)についてのさらなる最適化を行うとともに,能動素子を利用したアクティブ化や,複数の周波数の電磁ノイズの伝搬抑制(デュアルバンド化),電磁ノイズの抑制帯域の制御(広帯域化)など,実用化に向けた検討をすすめる予定である.また,これまでに得られた研究成果について,国内外の学会を通じて公表する予定である.
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響により,国内の研究者と直接研究打合せを行う機会が得られず国内旅費等の支出がなかったこと等の理由によるものである.これについては,2021年度,追加の実証実験に必要な電子部品やプリント回路基板など購入に充てるなど,有効に活用する予定である.
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