2019 Fiscal Year Research-status Report
High-Precision Torque Estimation of AC Machines without Torque Detector
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19K04342
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Research Institution | 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校(能力開発院、基盤整備センター) |
Principal Investigator |
山本 修 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校(能力開発院、基盤整備センター), 能力開発院, 教授 (00648925)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平原 英明 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校(能力開発院、基盤整備センター), 能力開発院, 准教授 (50649209)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 誘導電動機 / トルク / 漂遊負荷損 / 磁束 / 電流 / インバータ / ターン間短絡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、トルク検出器を用いずに、測定の容易な電圧と電流のみの情報から交流電動機のトルクを高精度に推定する手法を開発するものである。本年度は、インバータ駆動される誘導電動機を対象にした「漂遊負荷損」の合理的な考慮法を考案した。 提案法は、電圧積分に基づく交流電動機の固定子磁束鎖交数ベクトルと固定子電流ベクトルの外積によって瞬時トルクを演算する既存技術の元に立脚している。研究のイノベーションは、この演算の中で交流電動機の損失を厳密に考慮して、推定されるトルクの精度をいかに向上させるかがポイントになる。従来考慮されている銅損に加えて、新たに鉄損と機械損の影響を考慮するとともに、更なる高精度化のためには漂遊負荷損の考慮が必要であった。 電圧と電流しか情報が無い条件下で、漂遊負荷損の影響を考慮して正確なトルクを推定する手段として新たに「回転子電流とトルクの線形性」に着眼する手法を新規に考案した。この方法は、定格出力に対する百分率の漂遊負荷損値をいくつか仮定し、各仮定値を用いていくつかの負荷レベルにおけるトルクを推定する。漂遊負荷損の仮定値が実際よりも過小な値が仮定されていた場合には、回転子電流と推定トルクは線形な関係を示さず、推定トルクが過大評価される。一方、漂遊負荷損の仮定値が実際よりも過大な値が仮定されていた場合にも、回転子電流と推定トルクは線形な関係を示さず、推定トルクは過小評価される。提案法はこの性質に着眼し、回転子電流と推定トルクの線形性が最も成立するときの漂遊負荷損の仮定値を真値として推定するものである。0.4kWの供試機に対する実施例(トルクの推定値と実測値の比較)に基づいて、正弦波駆動時、インバータ駆動時(方形波駆動時、PWM(パルス幅変調)駆動時)の何れの場合においても、トルクの推定精度が改善されることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
漂遊負荷損の影響を合理的に考慮したトルク推定法を開発する当初目的に加えて、推定した瞬時トルクの情報から誘導電動機の異常の発生(固定子コイルのターン間短絡の有無)を検知する方法を明らかにすることができた。 具体的には、固定子コイルのターン間短絡を発生していない状態(健全状態)と発生している状態(故障状態)を外部端子の結線換えによって、任意の運転中に切り替えることができる誘導電動機2台を試作した。このとき、短絡するターン数もいくつかのパターンを選択することができるようにしている。これらの電動機に対するトルク推定値(瞬時トルク)のFFT(高速フーリエ変換)解析を行うと、負荷の大小によらず2次と4次のトルク脈動成分が同時に顕著に表れる事を発見した。2次に関しては健全時においてもその他の要因によっても瞬時トルクには脈動成分として存在しているものであったが、ターン間短絡の発生によってその振幅が増大する傾向が見られた。4次に関しては、発生する振幅は小さいが、健全時にはほぼ検知されない脈動成分であった。短絡するターン間の巻き数が大きいほどこの影響は顕著に表れる様相を示していた。これらの様相は、2台の供試機に共通の傾向であるとともに、正弦波駆動時、インバータ駆動時の何れでも共通の傾向として現れるものであった。 これらの成果は、提案法は正確なトルクのモニタリングのほか、電動機の異常状態の監視にも活用できることを示すことができた点で、当初の計画以上に進展できたものとを考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
固定抵抗のオンライン推定機構を有するトルク推定法の開発が課題である。 現在では、トルクの推定に必要な電圧と電流の測定値は、一旦レコーダに記録している。このため、電動機を一旦停止した時に固定子巻線抵抗を測定することで、正しい固定子磁束鎖交数ベクトルを演算することができていた。しかし、実用上の利便性を考えるなら、一旦電動機を停止させることなくリアルタイムの電圧電流計測で、推定トルクをリアルタイムモニタリングできることが望ましい。この時に必要になるのが固定子抵抗のオンライイン推定機能である。固定子抵抗は温度に依存して変化し、その影響は固定子磁束鎖交数ベクトルの演算精度に影響するため、その先のトルク推定値にも影響する。本研究への適用を考えれば従前の手法では不足であり、「ブリッジ等で測定される物理的に正しい巻線抵抗値」を推定できる手法を新たに考案して導入する必要がある。温度変化の依存性が少ないインダクタンス情報を利用して、正しい固定子抵抗推定を行なう手段を検討する予定である。 また、低分解能の電圧電流計測によっても、精度を劣化させることなトルクを推定する方法の開発も実用化に向けては重要な課題であると考えている。
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Causes of Carryover |
(理由) 安価な装置でも供試機の抵抗を正確に測れることとが明らかになり、予定していた低抵抗測定器の整備によらなくても目的とする精度で抵抗を測定できたためである。 (使用計画) 経年に応じて必要になってきた既存ディジタルシグナルプロセッサーの計測制御用パソコンの更新に使用する予定である。
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