2020 Fiscal Year Research-status Report
無毒で豊富な元素で構成される新規硫化物熱電素子の創製
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19K04362
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Research Institution | Tsuyama National College of Technology |
Principal Investigator |
中村 重之 津山工業高等専門学校, 総合理工学科, 教授 (80207878)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
赤木 洋二 都城工業高等専門学校, 電気情報工学科, 准教授 (10321530)
奥山 哲也 久留米工業高等専門学校, 材料システム工学科, 教授 (40270368)
荒木 秀明 長岡工業高等専門学校, 物質工学科, 教授 (40342480)
瀬戸 悟 石川工業高等専門学校, 電気工学科, 教授 (50216545)
山口 利幸 和歌山工業高等専門学校, 電気情報工学科, 教授 (60191235)
志賀 信哉 新居浜工業高等専門学校, 環境材料工学科, 教授 (60235512)
加藤 岳仁 小山工業高等専門学校, 機械工学科, 准教授 (90590125)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 銅錫硫化物 / 熱電材料 / 銀添加 / 固溶体 |
Outline of Annual Research Achievements |
熱電素子は資源の節約や地球温暖化への対策法の一つとして期待されている.市販されている熱電素子はテルルやビスマスなど資源存在量が少なく有毒な元素を含む.そこで,そのような元素を含まない三硫化二銅スズ(Cu2SnS3:CTS)を用いた熱電素子の開発を目指している.イオン半径の大きな等電荷不純物(銅と同族の銀)を少量添加することで格子に圧力を掛け(化学圧力),熱電性能の向上を目指している.昨年度は銀添加CTS熱発電素子の作製法の確立と熱電性能の確認を目指した.その結果,電気伝導率の向上を目指したにもかかわらず,銀を添加した試料では電気伝導率が大幅に減少してしまうことがわかった.そこで,銀の添加量を減らしていき,最適な添加量を見出すことを次の目標にした. モル比で1:1に計量したCu2SとSnS2にAg2S,CuSとIn2S3をモル比でそれぞれ0.0125-0.1,0.4及び0.05-0.1追加した原料を450℃と750℃で2時間ずつ加熱し(Cu,Ag)2SnS3 (CATS)を合成した後,放電プラズマ焼結法(SPS)にて400℃,40MPaで焼結し熱電素子を作製した.焼結体の銀の組成比Ag/(Cu+Ag)は0.01から0.11と概ね仕込み通りの組成比となった.XRDパターンの28.5°付近のメインピークの回折角度は銀の添加により0.1°から0.2°ほど低角度側にシフトし,狙い通り格子定数の拡大がみられた.ただし,高角度側にシフトした試料もあり銀の固溶が不十分と思われる試料もあった.熱電特性では,ゼーベック係数が200-400 μV/K,電気伝導率は2000-5000 S/mとなった.昨年度の電気伝導率は1000 S/m以下であったので,幾ばくかの向上を得られた.性能指数ZTの最大値は昨年度の0.05程度から0.1程度に向上することができた.銀の添加量を調整することで性能を2倍にすることができたが,実用化の目安となるZT=1.0に対しては,まだ大きな隔たりがあり,更なる性能の向上が必要であり,引き続き電気伝導率を向上させる必要がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
概要にもあるように,ある程度の進展はあったが,まだ,十分ではないと考えているので,やや遅れているとした.特に2020年度初頭はコロナ寡での休校処置で学生が登校できず,ほとんど実験ができなかった.それでも後半は学校が開き実験することができ上記のようにある程度の進展を得ることができた.熱電性能に関しては,昨年度の研究で電気伝導率が低いことが熱電特性の低下を招いていたので,まず,その向上に向け銀添加量の最適化を目指した.電気伝導率の低下の原因はいくつか考えられるが,原因の一つとして銀添加によって補償効果が起こったことが考えられる.Ag2SnS3やAg8SnS6のような銀系三元硫化物はn型伝導を示すことが知られている.一方でCTSのような銅系三元硫化物はp型であるので,銀が銅と置換した(Cu,Ag)2SnS3結晶を作らず、Ag2SnS3やAg8SnS6が存在したことにより、p型材料とn型材料とが同時に存在することで補償効果が起こり,キャリア密度の低下による電気伝導率の低下が起こったことが原因ではないかと考えている.他には,銀の添加による移動度の低下(不純物による移動度への影響)や銀硫化物の電気抵抗が大きいことなども原因の一つとして考えている.その他にも,銀が格子間に入るとドナーとなることが知られており,格子間銀による補償効果もキャリア密度の低下の原因になりうる.
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Strategy for Future Research Activity |
熱発電素子の性能は,ゼーベック係数,電気伝導率および熱伝導率で決まる.このうち,ゼーベック係数と熱伝導率は,比較的,向上のための方針が明確である.例えば,ゼーベック係数は,状態密度の微分に比例するので,不純物や欠陥を導入してフェルミ準位付近の状態密度にピークを立てたりすることで向上させることができることが示されている.熱伝導率では,ナノ構造を導入したりナノ構造を含む様々な粒径のグレインを導入したりすることで下げることができる.しかし,電気伝導率に関しては,上記のような方針は示されておらず,対策が取りにくい.その中でも,ドーピングレベルとバンドギャップの異なる材料を母材に組み込むことで高いキャリア密度と移動度を同時に実現させる方法が提案されている.そこで,本研究でも,その方針に従い,銀やインジウムの添加量の異なる原料を混合し,焼結することで電気伝導率の向上を目指す.さらに,これまでは,焼結中に条件を変更することはしてこなかったが,焼結中の温度条件を変え二段階,三段階の焼結も試みたいと考えている. 測定に関しては,これまで行ってこなかった,ラマン散乱,フォトルミネッセンス,光反射率,ホール効果測定を行っていきたい.これらの測定から,試料に関するより詳細な情報が得られるため,それをもとに,より高性能な素子が作製できる条件を探って行きたい.
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由の一つは,新型コロナウイルスによる学会等の中止のため,予定していた出張が取りやめになったことである.また,それ以外にも,消耗品の使用が予定より少なかったことも理由の一つである.これは,研究がやや遅れていることも関係している.研究が遅れたため,消耗品の消費も少なかった.2021年度も,新型コロナウイルスの影響が避けられない状況にあり,旅費の余剰が生じることが予想される.その場合は,消耗品等に振り分ける予定である.
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