2019 Fiscal Year Research-status Report
等比的に広範囲レベルの信号検出を可能とする多チャンネルランダムノイズ発生器の開発
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19K04415
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Research Institution | Hakodate National College of Technology |
Principal Investigator |
高田 明雄 函館工業高等専門学校, 生産システム工学科, 教授 (40206751)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ホワイトノイズ / カオス / パラメータ依存 / ノイズ帯域 / PLL |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は多チャンネルのランダムノイズ源を利用し,信号検出に応用するというものである.ランダムノイズ(以下RN)発生のためにPLL回路でカオス的発振を誘発する.この際,RNを安定して発生させるためのカオスをコントロールする手段はパラメータの設定である.そこでまず,カオス的なランダム発振が得られる条件について調査を行った.カオス的な発振,特にそれがホワイトノイズに特徴づけられる場合に着目して,その発現のパラメータの大域的調査を行った.また,回路実験においてカオス発現を確認するために位相幾何学的なアプローチとして,位相平面をリアルタイムで観察した.また,同時に,ランダム性の簡便な判定として,FFT測定を行った.得られた結果は以下の通りである. (1)本実験で用いるPLLはその力学系に摩擦がある中で外部から周期関数的な力を受けて回転する振り子と等価である.実際に,回路には外部から周期的な信号を入力して駆動する.その際,この信号の振幅と周波数が独立して変えられるパラメータであり,さらには,摩擦の強さを決定する減衰係数も回路を設計すると固定されるパラメータとして数えられる.カオス的な発振の中でも特にWNの発生について三つのパラメータ依存を実験的に調べた.そのうち,減衰係数はカオス現象の発現の有無は緩やかに作用するのに対し,他の二つのパラメータ(外部信号の振幅およびその周波数)はWNの発現に敏感に作用することがわかった. (2)力学系の考察には分岐現象の考察が有効であることが知られているが,カオス的発振から誘発されるランダムウォークは,分岐の特徴から推定困難であることがわかった. (3)得られるRNのパワースペクトルの周波数依存について,力学系に含まれる非線形電流項をWN電流と仮定した電気回路モデルに基づいて明らかにした.この解明は多くのカオスゆらぎの研究の中で数少ない研究成果と考えられる
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
プロトタイプのPLLとして,『力学系に摩擦がある中で外部から周期関数的な力を受けて回転する振り子と等価な力学系をもつ回路』を製作した.この回路について研究の第一段階がほぼ終了した.以下に進捗の詳細を列挙する. (1)ホワイトノイズ(WN)発生のさせやすさについての調査を行った.カオスを原理とするWN発生器では,設定するパラメータの値・組み合わせが重要である.そこで,まずPLL回路を駆動する周期的信号の波形依存について調べたところ,正弦関数的な信号以外にも方形波が有効であり,WNをもたらすパラメータについても,その範囲は両者で違うものの,方形波駆動でもホワイトノイズ発生が容易であることがわかった.したがって,信号発生の容易さという観点から回路の簡素化には適している方式と考えられる.また,外部からPLLに加える信号の振幅が大きいことが,カオス的発振の誘発に有利であることがわかった.また,信号の周波数だけを変化させ,WNの発振範囲を調査したところ,高域ではカオス現象の発現がこの周波数に強く依存するのに対し,低域では比較的安定してカオスが出現することがわかった.この結果を踏まえ,ロバスト性のあるノイズの発生のためのパラメータ設定の知見が得られた. (2)得られるランダムノイズの帯域と強さに関する考察については,次の結果が得られた.回路動作が従う力学系において,慣性項と摩擦校項の相対的な強さが系の性質を決定するが,ホワイトノイズの帯域については,この両者の比を決定づけるRCの時定数によって,制限されることを電気回路モデルに基づいて理論的に明らかにした.これによって,得られるWNの帯域が明らかになった.ただし,そのノイズレベルを決定する要因については,未だ不明なままである.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)ノイズ発生回路の小規模化を進め,多チャンネルノイズ発生器を有する信号検出器装置全体の容積・消費電力を抑える工夫をする.すなわち,多数のノイズ発生器がもたらす基板面積・体積の増大を防ぐため,回路の部品数を減らす工夫と同時に超小型部品導入を図る.第一に,回路の力学系における非線形項を正弦関数的なものから三角波的なものに置き換える.これによって,現有試作回路の一部を大幅に省略できる.結果として,設計の容易性が向上する.もう一つの回路の小型化の方策として,使う受動素子に加え,半導体部品も超小型化のものに代替することを推進する. (2)第二に,多チャンネル化したノイズ発生器の製作および発生したノイズの評価を行う.カオスを発生原理として得られるランダムノイズ(ホワイトノイズ)の品質を調査する.各チャネルから発生されるノイズのパワースペクトルが平坦であることに加え,その自己相関関数を評価する.次いで,複数のノイズ間における無相関性も確認するため,多チャンネルAD変換技術を使って収録した発振時系列データの相互相関関数を評価する.これからのことから,カオス現象特有の初期値敏感性および予測不能性によって,複数の同一仕様の回路から同時に出力されるノイズには互いに相関がないことを明らかにしたい.多チャンネルノイズ発生器のプロトタイプは,各々の回路基板間にリード線を接続して相互連結して動作試験を行う予定であるが,一つの基板に多数のノイズ発生器をマウントする設計を行う.これによって,回路間の配線数を減らすことに加え,信号検出装置としてのユニットを完成させられる.引き続きその動作試験を行う. (4)最後に,信号検出器の動作検証(研究効果の検証)を行う.用いるノイズ発生器のチャネル数を増加させるほど,信号検出感度が増加することに加え,検出感度の印加ノイズレベル依存性が低下するはずである.
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Causes of Carryover |
【理由】次の三点が主に挙げられる.(1)設備備品として,AD変換器4台・同変換器用シャーシ1台を2019年度内に購入しなかった.これらの装置は,手元にあった計測用PCに接続して使用する予定であったが,このPCのOSがwindows7であり,マイクロソフトのサポート終了に伴い,学内LAN接続が禁止された.同時に,PCを含めた計測システム全体を見直す必要がでてきた.(2)設備備品として,オシロスコープを2台購入予定であったが,これもPCと接続するためのソフトウェアがwindows 7版でしか用意されていないことがわかった.研究をより効率的に進めるため,可能であればwindows10でデータ集録も可能な代替計測システムを導入したいと考えている.(3)旅費を使用する予定がなくなった(Covid-19感染拡大の影響). 【使用計画】上記(1)および(2)に対応する設備備品の購入を2019年度から2020年度に変更するが, AD変換を含む実験は早くて2020年度後半になる見込みであるため,研究の進捗には影響がない.
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