2020 Fiscal Year Research-status Report
六方晶系スピントロニクス材料の電圧スピン操作への応用検討
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19K04482
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
野崎 友大 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究員 (10610644)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スピントロニクス / 六方晶 / 電界制御 / 垂直磁気異方性 / 薄膜 / 界面 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、超低消費電力を実現するスピンの操作方法として、電界による界面垂直磁気異方性の変調効果(電圧効果)が注目を集めており、これまでFe/MgOといった立方晶系の材料で精力的に研究が行われてきた。本研究では、立方晶系に代わり、六方晶系スピントロニクス材料を用いて電界で高効率にスピン操作をできるかを検討する基礎研究を行う。 今年度は、六方晶系スピントロニクス材料上にも格子不整合を気にせずに積層できるアモルファスTiOxゲートを新しく開発した。ラジカルアシスト分子線エピタキシー(MBE)法で、ちょうどよい酸化条件でPt/Co上に成膜することで絶縁性の高いTiOxを実現した。構造解析から、TiOx成膜時の酸素によってCoの界面が酸化されCo/CoO/TiOx構造が形成されていることを明らかにした。Co系六方晶スピントロニクス材料を用いた室温での電圧効果の報告例は限られているが、このPt/Co/CoO/TiOx構造においては、比較的大きな電界印加による保磁力の変化が安定して得られ、電界スピン操作に適した構造であることが見出された。今後、この安定した電圧効果の原因解明が望まれる。さらに、この構造をベースとして、Pt/Co界面に微量のIrやRuなどの元素を挿入する強磁性体の膜構成調整で、その大きな電圧効果を維持したまま、Coの垂直磁気異方性を調整できることを実証した。これまで精力的に研究されてきた立方晶Fe/MgOの系ではFe/MgO界面が垂直磁気異方性と電圧効果の両方を担っており、これらを個別に調整することが難しいという問題点があるが、六方晶スピントロニクス材料ではこの問題点を解決できることを実証し、一つの優位性を示せた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に開発したCr2O3単結晶ゲートに加え、本年度新たにアモルファスTiOxゲートの開発に成功し、新規酸化物ゲート材料の開発は当初の予定通り順調に進んでいる。このTiOxゲートを用いてPt/Co界面に極薄のIrなどの元素を挿入することで電圧効果の効率は保ったまま垂直磁気異方性だけを調整できることを実証するなど、強磁性体の膜構成調整効果の調査も順調に進んでいる。このTiOxゲートは、Pt/Coと組み合わせて安定して電圧効果が得られるため、今後、さらなる強磁性体の膜構成調整効果の調査や、非対称構造の導入効果の調査を進めていける。一方、前年度開発したCr2O3/Co/Pt構造を用いて、界面への微量の元素置換による電界による電圧効果の効率の改善も試みたが、高品質な界面を安定して作製することが難しく、未だ実現できていない。六方晶スピントロニクス材料のポテンシャルを示すためには単結晶ゲートを用いたエピタキシャル多層膜構造で電圧効果を調べることが望ましく、さらなる界面の制御手段の実現が課題となる。以上を踏まえて、全体を通して「おおむね順調に進展している」と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果により、TIOxゲートを用いることで安定して電圧効果を得ることができることが分かったことから、このTiOxゲートを利用して、さらなる強磁性体の膜構成調整効果の調査や、非対称構造の導入効果の調査を進める。併せて、なぜこの構造で安定して電圧効果が得られるかの検討も行う。さらに、完全エピタキシャル構造の電圧効果の評価を目指し、六方晶単結晶バリアの成膜条件のさらなる改善も引き続き行う。これらの調査の結果を踏まえて、電圧スピン操作に六方晶系スピントロニクス材料が使えるかどうかという問いに答えを出す。
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Causes of Carryover |
Cr2O3などの六方晶単結晶ゲートを用いた電圧効果の調査に想定外の課題が見つかり、研究の主軸をアモルファスTiOxゲートを用いた構造に切り替えたため、単結晶系で使う予定だった単結晶基板や蒸着源の購入を先送りし、次年度使用額が生じた。次年度は先送りしたものも含む基板や蒸着源、ターゲット類、るつぼ、真空部品などの消耗品、および学会参加のための旅費、論文投稿費などのために予算を使用する予定である。
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