2020 Fiscal Year Research-status Report
Proposal of high-performance materials for artificial synapses via atomic-scale observations of resistive switching oxides
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19K04484
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
福地 厚 北海道大学, 情報科学研究院, 助教 (00748890)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
有田 正志 北海道大学, 情報科学研究院, 准教授 (20222755)
高橋 庸夫 北海道大学, 情報科学研究院, 名誉教授 (90374610)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 抵抗変化型メモリ / 酸化物薄膜 / プローブ顕微鏡 / 酸化タンタル / メモリスタ / 人工シナプス / ニューロモルフィックデバイス |
Outline of Annual Research Achievements |
酸素欠損アモルファス酸化タンタル(TaOx; x < 2.5)は、抵抗変化型不揮発性メモリ(ReRAM)のスイッチング層として高いメモリ特性を示し、また電圧の印加条件に依っては、原子/イオン移動を基にニューロモルフィック(脳型)・デバイス応用における重要原理である、アナログ/可塑的抵抗変化現象を示す事が報告されている。一方でTaOxのアナログ抵抗変化現象に関しては、動作原理の物理的な理解が進んでおらず、その動作機構の不透明さが近年の素子開発における重大な障害となっている。本研究課題ではその物理機構の解明に向けて、プローブ顕微鏡計測によるTaOxのアナログ抵抗変化時の原子移動観察に取り組んだ。令和元年度までには、抵抗変化現象の観察に適する原子平坦アモルファスTaOx薄膜の開発を基に、従来困難とされてきたプローブ顕微鏡探針によるアナログ・可塑的抵抗変化現象の誘起・観察を達成している。 令和元年度の実験において、アナログ抵抗変化動作の発生に伴ってTaOx膜中には数nm以下の微細かつ多様な構造変化が発生する事が観測されたために、令和2年度には新規材料の開発を進めるとともに、それらの微細な構造像変化箇所に対するオージェ電子分光法による化学分析を実施した。アナログ抵抗変化に伴うTaOx膜内の構造変化は、従来予測と比べて明確に微小な空間的スケールを持っていたために、当初検討していた透過型・走査型電子顕微鏡観察とエネルギー分散型X線分析では十分な測定信頼性が得られないと判断し、令和2年度には表面敏感な化学分析法であるオージェ電子分光による分析を行った。その結果、TaOxのアナログ抵抗変化現象は、TaOx内における酸素組成の非常に微小な変調により発生する事が分析結果から示された。これは今後の人工シナプス素子用途の材料開発における直接的な指針となる、重要な結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度においてはプローブ顕微鏡法とオージェ電子分光法を基に、アナログ抵抗変化現象の発生に伴うTaOx薄膜内の構造変化箇所に対する、微小スケール(面内方向10 nm以下、面間方向2 nm以下)での化学組成分析を達成する事が出来た。原子移動に伴う構造変化箇所の空間的サイズが当初予測よりも小さく、物理機構に関する有意な知見を得るためには数nm以下の微小領域に対する組成分析を行う必要が有った事から、令和2年度には化学分析プロセスの実験的な確立のために数か月のプロセス検証期間が必要となったが、TaOx膜内における各種のアナログ・可塑的抵抗変化現象の発生個所の組成分析は年度内に達成する事ができた。令和元年度の実験において、当初予定していた以上に多種類のアナログ・可塑的抵抗変化現象をプローブ顕微鏡下で観測する事ができたために、令和2年度には化学組成分析に関しても当初予定よりも多くの構造変化パターンに対して実施する事が出来た。この事から抵抗変化箇所の化学組成分析に関しては、当初の想定以上に多くの実験的知見が得られており、TaOxが持つ多様なアナログ・可塑的抵抗変化機能を材料内の化学組成変調に明確に結び付ける事に成功している。 一方でこれらの化学分析実験の進展を受けて、スパイクタイミング依存シナプス可塑性等の高度ニューラル機能のプローブ顕微鏡下での検証は令和2年度には未実施となっている。全体の達成度についてはこの点を踏まえて「おおむね順調」であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度には、TaOx薄膜においてスパイクタイミング依存シナプス可塑性をはじめとする高度ニューラル機能の発生時の原子移動解析を行うとともに、アナログ抵抗変化動作の製膜時酸素圧依存性と膜厚依存性についても引き続き評価を進める。これらの実験を通じて、TaOxの人工シナプス素子材料としての最適組成と最適デバイス構造を年度前半までに明らかにしたい。またNbOx超平坦膜に対する、プローブ顕微鏡によるアナログ抵抗変化現象発生時の原子移動解析実験も引き続き進展させ、その物理的なメカニズムを議論する。NbOxでは、抵抗変化デバイスのスイッチング層として用いた際には、TaOxでは見られない顕著な非線形伝導現象やスイッチバック動作と呼ばれる急峻な低抵抗化現象が発生する事が報告されており、超平坦膜に対するプローブ顕微鏡観察とTaOx膜との特性比較を通じて、それらの近年注目が高まっている新規伝導現象の物理的起源を明らかにしたいと考えている。 これらの実験が完了した後には、実験結果より導かれたアナログ抵抗変化の物理モデルを基に、(Nb,Ta)Ox固溶系等の新たな材料での試料作製を行い、そのアナログ抵抗変化動作のプローブ顕微鏡解析を実施する。それらの材料探索実験を通じて、人工シナプス用途においてTaOxを上回る動作安定性(低スイッチング電流・低電流ばらつき)を実現可能な、新たな抵抗変化材料を計画完了までに提案したい。
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Causes of Carryover |
抵抗変化箇所の化学分析実験において、分析プロセスの開拓のために一定の準備期間が必要となり、またプロセス確立後には当初の予定以上の研究の進展が得られた事から、令和2年度には組成分析実験を重点的に実施し、当初購入を予定していた電流像の高精度観察用の電流/電圧変換用アンプは購入しなかったため。 未使用額は電流/電圧変換用アンプを令和3年度に購入する費用に充て、電流像の高精度観察を実施する。
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Research Products
(20 results)