2019 Fiscal Year Research-status Report
スピン軌道トルクRAMにおける新しい読み出しディスターブ機構とその解決法の検討
Project/Area Number |
19K04536
|
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
河原 尊之 東京理科大学, 工学部電気工学科, 教授 (80416990)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | スピン軌道トルクRAM / スピン軌道相互作用 / 不揮発メモリ |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請前に、次世代不揮発メモリであるスピン軌道トルクRAMの読出し時において、新しい誤動作(読出しディスターブ)が起こることを見出し、それを一桁以上低減する方式を提案していた。新しい誤動作とは、読出し時の重金属層電流によりスピン軌道相互作用が起こりスピン流が発生し、これにより誤書き込みが起こるというものである。提案した低減方式とは、読出し時の電流経路を重金属層の両側に向かうようにし、スピン流は発生するが向きの違うスピンを発生させて相殺し誤書き込みを起こし難くする方式である。 今回の研究では、この低減方式の実験検証へ向かう準備として、磁性体シミュレーションによって低減方式の効果を検証することを目的とし、本研究期間中に以下の3点について検討を行う。・材料(磁化容易軸)依存性(2019年度)、・素子寸法依存性(2020年度)、・メモリアレーとしての寄生抵抗依存性(2021年度)。 このメモリの動作原理は量子力学に基づくため確率動作の数式を含んでおり、また誤動作自体も確率的な取り扱いであるため、評価は計算機実験に近い。よってひとつの条件点の計算で従来は一週間以上を要していた。実際は本申請前では、計算点を絞り推定を交えて進めていた。 今回の申請予算で高速WSを購入し一点あたりを1~2日でできるようにして検討を加速できた。見出した新しい誤動作が起こること、及び提案した低減方式の有効性自体を、まずシミュレーション点を増やし確認した。次いで2019年度は材料依存性として、磁化容易軸の点で代表的な3種類の磁性体(パーマロイ、鉄、コバルト)のパラメータを使って低減効果を検討した。共に一桁以上の低減効果を検証できた。しかし材料毎には効果に差があり、この差異はシミュレータでは解釈の余地は残る。これは予算額は膨らむことになるが、本研究に続いて次の申請を計画している実験検討にて検証していく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
低減方式の効果を磁化容易軸構造の異なる強磁性体(鉄、パーマロイ、コバルト)のパラメータを用いてシミュレータ「LLG Micromagnetics Simulator」により評価した。想定した素子は4層構造であり、各層の大きさは、重金属層(タングステン):30×90×2.0nm、フリー層、ピン層(各強磁性体):30×90×1.5nm、絶縁層:30×90×1.0nmである。電流印加時間は5nsとした。提案方式の有無で誤書き込みが起こる電流の遷移部分では、予算で購入したWSにより10点以上の細かな電流刻みで行えた。 その結果、3種類全ての材料で、提案した低減方式有無でのシミュレーション結果比較により、読出しディスターブは一桁以上低減されることがわかった。申請研究成果予想通りに達成することができた。 しかしながら低減効果が、鉄、コバルトでは10倍だったのに対しパーマロイのみ45倍となった。そこでパーマロイの保磁力が小さいためスピン流の影響をうけやすかったためと推定した。鉄、コバルトのパラメータ値を元に、仮想的に飽和磁化と磁気異方性のパラメータを小さくし保磁力を下げてシミュレーションを行った。その結果、仮想鉄では効果が36倍、仮想コバルトでは同47倍となりパーマロイの45倍に近づき、保磁力が小さいことが材料差の原因であろうと結論づけた。しかし、これは鉄、コバルト、パーマロイの磁性材料特性のパラメータ値の差異から原因を推定し、人為的に操作したパラメータによる結果を用いている。このため、効果についての差異の機構については実験などでの検証が必要である。 成果についての国内・国際学会投稿と発表は、2月に入って登校が難しくなってきたこともあり、来年度に行う。なお、このメモリの人工知能(AI)分野応用について、AI信号処理動向の調査については今年度に1件行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度の材料差の結果を磁性体分野の国際学会(MMMを予定)に投稿する。 2020年度は、申請時点での計画通りに低減効果の寸法依存性を検討する。これは、提案方式がスピン流は発生するが向きの違うスピンを発生させて相殺し誤書き込みを起こし難くする方式であるため、実用範囲内では一方の向きのスピンが発生する場所と他方の向きのスピンが発生する場所が離れていても相殺できることの確認と、寸法大の限界の検証である。使用しているシミュレータは素子をメッシュで切って行っており、スピンの拡散長も評価できるため、これを用いて行う。 2019年度の構造を用いた検討を行うと共に、申請時に含めていなかったが重要であることがわかった追加検討を行う。これは、磁化の向きが磁性体膜に垂直な垂直磁化膜で行うことである。発生させるスピン流の性質としても、このメモリが使われる時期の加工技術としても、この構造が重要となる。 課題は、COVID-19のため5月末時点で研究室のシミュレータは3月以降は稼働しておらず、学生の参加を考えると開始が7月になってしまい、かつ、この新規の垂直磁化膜でのパラメータ設定と予備検討から開始する必要があるということである。次で述べる予算の点で加速する。
|
Causes of Carryover |
シミュレーションを行うソフトを申請前より一本所有していたが、計算資源に律速される研究であるため、申請時はWSを購入し計算を加速し、また同ソフト(150万円計上:申請時)をもう一本購入し更にスループットを向上させるとした。また、国際学会での発表出張を計画していた。 本予算でWSを購入し、開始したところ大きな研究加速が得られた。しかしながら、ここで新たなソフトを購入しても、これを動かすPCは従来所有のものであるため一桁近く遅く、ソフトのみが2本となってもスループットは殆ど向上しないことがわかった。同時に、検討自体は加速したため、本申請での研究終了後に次の提案としていた実験検討を、2019年度内容に限って前倒しで行うことを試みた(この可能性は申請書にも記載済)。結果としては、他所との共同となるため調整に時間は要し、また、やはりこの予算規模の素子の試作では、シミュレーションに対応した定量的な結果を得るには足りないことが2019年末にわかった。このため、予算の履行が滞り、次年度に持ち越しとなってしまった。 2020年度は、COVID-19の影響で4-6月は研究が止まった影響にも対処するため、次のいずれかを行い研究を加速する。①同ソフト一本を購入し、ソフト2本で進む。これを動かすWSはこの年度の校費他で対応する。②WSを購入する。ソフトはオープンで使える同様なソフトがあり、性能や立ち上げ・習得期間を勘案し加速する。
|