2021 Fiscal Year Research-status Report
水素ラジカルによるポリマー材料の分解・除去における酸素微量添加効果の解明
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19K04543
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Research Institution | Kagawa National College of Technology |
Principal Investigator |
山本 雅史 香川高等専門学校, 電気情報工学科, 准教授 (60733821)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀邊 英夫 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (00372243)
長岡 史郎 香川高等専門学校, 電子システム工学科, 教授 (30300635)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 水素ラジカル / ポリマー分解 / 酸素微量添加 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,酸素添加時に生成される各種ラジカルの反応性やそれらの相互作用を明らかにし,水素ラジカルを用いたポリマー材料の分解・除去における酸素微量添加による分解速度向上の原因を解明し,さらなる分解速度の向上を目指すことである。 昨年度の研究で,酸素添加時の分解速度の向上のためには,水素ラジカルとOHラジカルが共存していることが重要であることがわかった。一方で,過剰に酸素を添加すると,ノボラック樹脂をベースにした感光性ポリマー(レジスト)内に含まれる感光剤の含有量の増加とともに分解速度が著しく低下することもわかった。この分解速度の低下は高温側で顕著であった。過剰な酸素添加は水素ラジカルの生成量を低下させる。水素ラジカルの生成量と分解速度には相関があるが,それだけではこの低下を説明できなかった。さらなる分解速度の向上を目指すうえで,分解速度の低下を招く要因の解明が重要と考えた。 今年度は,まず,H2/H2O混合系での分解速度を調べた。適切なH2/H2O混合比では,水素ラジカルの生成量を低下させずにOHラジカルの生成量を増加できると言われている。H2に対するH2Oの分圧比を0~70%まで変化させながら分解速度を調べた結果,分圧比が13%において分解速度の向上が見られた。過剰にH2Oを混合すると,分解速度は低下した。次に,感光剤が分解速度の低下を引き起こす原因を検討するために,側鎖の化学構造が異なるポリマーとしてポリスチレン(PS),ポリビニルフェノール(PVP)およびポリ-4-メチルスチレン(PMS)の3種類を用いた。感光剤の含有量の異なる各ポリマー膜を調製し,それらの酸素添加時の分解速度を調べた。その結果,PSおよびPMSでは,感光剤の含有量を変えても,分解速度は変化しなかった。一方で,感光剤の含有量が多いPVPでは,分解速度の低下を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H2Oの分圧比が13%において分解速度の向上が見られたが,過剰な添加量になっている可能性がある。H2O供給量に微調整する方法を検討したが,容易に実現できるものではなかった。そこで,計画を変更して,ポリマーの化学構造が分解速度に与える影響について検討することにした。 一般的に,分解速度は,アレニウスの式に従って高温側で速くなる。しかしながら,過剰に酸素を添加すると,高温側で分解速度が著しく低下する。分解速度を低下させる要因を把握することは,分解速度の向上において有意義と考えた。 過剰な酸素を添加した場合,分解速度の低下の挙動が感光剤の有無によって大きく異なることを見出した。そこで,我々は,感光剤(PAC)を介したポリマーの変質について“PAC介在架橋モデル”を提案し,架橋サイトの特定を進めた。今年度の研究で,側鎖末端のOH基がPACとの架橋サイトになっていることが示唆された。適切な酸素添加量では,水素ラジカルの生成量が低下しないため,高温下での変質が抑制されると考えられる。 ポリマーの変質が進むとポリマー膜の光干渉効果を弱めるため,ラジカル照射中の分解速度の評価が困難となる。昨年度から微量フォースセンサーシステムの構築に着手しているが,チャンバー内への設置や真空環境下での制御,放熱対策に難航している。また,ラジカル照射によるポリマーの変質の分析方法としてラマン分光法を検討しているが,デモ機による予備実験の結果,解析に有効なラマンスペクトルの取得が困難であることがわかってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
過剰な酸素添加により水素ラジカルの生成量が低下すると,感光剤の含有量が多いPVPの分解速度が低下することがわかった。この低下は,高温側で顕著であった。一方で,PSやPMSでは,分解速度の低下がみられなかった。これらの結果から,分解速度の低下は,PVPの側鎖末端のOH基と感光剤との反応によるポリマーの変質が原因と考えられる。 適切な酸素添加量では,水素ラジカルの生成量が低下しないため,この変質が抑制される。水素ラジカルは,この変質(感光剤を介した反応)の抑制に重要な役割を果たしていると考えられる。ラジカル照射によるポリマーの変質をラマン分光法で解析することが難しいことから,解析方法をフォトルミネッセンス法と分子軌道計算に変更するとともに,微量フォースセンサーシステムで分解速度を評価することで,この分解速度の低下の原因を詳細に調べる。また,酸素微量添加時の水素ラジカルの役割をより詳細に検討するために,真空紫外レーザー分光法による水素ラジカルの絶対濃度の計測を行い,水素ラジカルの絶対濃度と分解速度との関係を明らかにする。分解速度を低下させる要因を把握するとともに,分解反応におけるラジカルの作用を明らかにすることで,酸素微量添加の分解機構を解明し,さらなる分解速度の向上を目指す。
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Research Products
(3 results)