2019 Fiscal Year Research-status Report
水棲生物の生活史に着目した環境DNAによる縦断的連続性と魚道の機能評価
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19K04627
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Research Institution | Gifu National College of Technology |
Principal Investigator |
和田 清 岐阜工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (50191820)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 環境DNA / メタバーコーディング / 魚道 / 網羅的解析 / 希少種 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,採捕による水生生物調査を補完する環境DNAを用いた魚道の機能評価を実施し,定量分析により存・不在のみならず適合度を検討して,環境DNA分析が生息場の保全流域の絞り込み等への適応性について検討した.対象は,横断構造物(魚道,堰)を含む岐阜県内の4河川である.魚道調査は2019年10月~1月の期間,頭首工魚道(3箇所)や堰を含む河川環境調査(2箇所)において,魚類および水生生物調査と環境DNA分析を実施した. 簡易的な魚類採捕調査で確認された魚類(4種)は全て環境DNA分析(7種)により検出されてた(適合度:100%).採捕されず環境DNAのみで推測された魚種(他3種)は過去の調査では採捕されており,採捕が困難である希少種も推測されているため,生息の有無を把握する手段として環境DNA分析が有効であることを示唆された.また,長護寺川の水生生物調査結果と環境DNA解析結果によれば,採捕された魚類24種のうち環境DNAにより17種が推測され適合率は62.5%となった.一方,採捕された個体数が100尾を超えた魚種(オイカワ,タモロコ等)はほとんど環境DNAにより推測されていることから,対象箇所付近に存在する魚類の個体数が少なければ,推測される確率が低くなり,個体数が多い魚種に対しては,流域全体の生息場の把握に適応可能であると示唆された.希少種(ハリヨ等)についても推測されているため,本研究で実施した網羅的解析による希少種の存在の把握をした後,種特異的解析を実施し,対象魚類の生息場の保全流域の調査や絞り込みに役立てることが可能となることが明らかとなった. 以上,魚類採捕による調査結果と比較して,適合率は60%前後となり,個体数の多い魚種については適合度90%程度,個体数の少ない希少種の存・不在を推測することができ,環境DNAを用いた解析が有効であることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,岐阜県河川課および岐阜県自然共生工法研究会の協力の下で実施された水棲生物(魚類を含む)採捕調査と,研究代表者と分析業務を委託した民間研究機関による環境DNA分析から成り立っている.採水した1リットルのサンプル水をフィルター濾過しDNAを抽出,その後,網羅的な魚種の把握が可能となるメタバーコーティング解析を用いている.本研究では,より正確なデータを得るため,PCRを標準の4反復から8反復へ倍増し,DNAコピー数の算定が可能な定量解析についても同時に実施している.しかしながら,定量解析の際に添加する2種の標準物質のうち1種が検出されず,第2次の解析を実施した.このように,採水場所において流速が速い箇所では魚類のDNA断片が滞留せず,上手く補足できないため,滞留しやすい比較的緩流域を選定するなどのサンプリングの精度を向上させる必要性がある. これらの水棲生物調査と環境DNA分析の結果から,魚道の機能評価のみならず,河川における希少種が遊泳魚に占める割合は,伊自良川では,33.3%(優占種:ヤリタナゴ),底生魚は78.5%(優占種:ゼゼラ)であるなど,希少種の魚種数が比較的多く確認されているため,調査区間では魚類等の生息場としてかなり良好な環境であることが示唆されている. 以上のように網羅的解析による希少種の存在が把握されれば,種特異的解析を実施し,対象魚類の生息場の保全流域の調査や絞り込みに役立てることが可能となる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の予定として以下の項目を予定している。 1. 魚類調査および環境DNAを用いた魚道の機能評価 昨年度実施した牧田川(田村魚道,鴻ノ巣魚道)と白川(白川魚道)などの調査対象を継続し,魚道モニタリング調査(魚類採捕調査)と環境DNAの網羅的解析による魚類相推定結果より,魚道内での魚類の存在の確認,調査日当日の魚道状況(流況,落差等)の要因から,魚道が魚類の遡上に対して時系列的に機能(洪水のインパクトなどによる魚道本体、魚道周辺環境状況の変化等を含む)しているかどうかを評価する.魚類採捕調査と環境DNAにより推測された魚種の適合率,採捕できなかった魚種や希少種の差異や要因を含めて,生息の有無を把握する手段としての環境DNAの有効性を評価する. 2. 水生生物調査と環境DNA調査の適合率 伊自良川と長護寺川を対象として行なわれた水生生物調査と環境DNAにより推測された魚種との適合率は,全魚種,個体数10尾未満,100尾以上の個体数などによって値は変化するため,環境DNAを用いた網羅的解析と採捕された個体数の関係性について,比較した事例を増やす必要がある.希少種(ゴクラクハゼ,ハリヨ等)も推測されており,流域において網羅的解析により存・不在を把握した後,種特異的解析を実施し,生息場の保全流域の調査や絞り込みに役立てるなどの2本立てて分析を進めることが有効であることが示唆されている.この点については,新たな対象河川を設定して実施する予定である.さらに,サンプルリード数とDNAコピー数,DNAコピー数と採捕された個体数には正の相関関係があり,環境DNAの解析により魚類の存・不在のみならず,おおよその定量的な魚類の推測が可能となるため,個体数が把握されている水族館や養殖場などの協力を得て,母集団とサンプルの代表性について、別途、考察する予定である.
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Causes of Carryover |
本研究は,生物種ごとに異なる塩基配列をもとに生物情報を得るDNAメタバーコーティングを基本としているために,多数のDNAを同時並列でバーコーティングするため網羅的な種の把握,メタバーコーティング解析,解析対象領域(MiFish)をターゲットとした分析が必要である.これらの知見をもつ研究機関の協力体制の構築に時間がかかり,具体的な合同調査の実施が遅れたため,予算執行がずれ込んだ。現在,関係機関との協力体制は万全であるので,感染症拡大に繋がらないように留意しながら研究を進める予定である.
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Research Products
(1 results)