2019 Fiscal Year Research-status Report
Production of essential fatty acids by protozoa and development of the tool for protozoan food web analysis
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19K04666
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤林 恵 九州大学, 工学研究院, 助教 (70552397)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮田 直幸 秋田県立大学, 生物資源科学部, 教授 (20285191)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 繊毛虫 / 鞭毛中 / 原生動物 / 食物連鎖 / 必須脂肪酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
湖沼などの水圏生態系においてこれまで藻類が合成していると考えられていたリノール酸、リノレン酸などの必須脂肪酸を繊毛虫などの原生動物が合成し、生態系に供給している可能性を検討するために、繊毛虫5種、鞭毛中1種を対象に、必須脂肪酸を含まない細菌を餌源として純粋培養し、脂肪酸組成を分析した。その結果、2種の繊毛虫においてリノール酸やリノレン酸、さらにエイコサペンタエン酸の合成が確認された。また、原生動物種によって、合成される必須脂肪酸の種類や量に相違が確認された。他の原生動物4種では必須脂肪酸は検出されなかったことから、原生動物による必須脂肪酸合成は一部の種に限られた特徴であることが明らかとなった。 また、繊毛虫が食物網で利用されているか検討するために、秋田県八郎湖において2019年6月に繊毛虫と高次の水生動物を採取し、それぞれの脂肪酸組成および脂肪酸の炭素安定同位体比を分析した。その結果、繊毛虫のリノール酸やリノレン酸の炭素安定同位体比は、八郎湖から検出された藻類のリノール酸、リノレン酸の炭素安定同位体比と異なっており、繊毛虫がリノール酸やリノレン酸を合成していたと考えられた。繊毛虫に含まれていたリノール酸やリノレン酸の炭素安定同位体比は、イサザアミおよび大型のワカサギ体内から検出されたリノール酸、リノレン酸の炭素安定同位体比とほぼ同等であった。しかし、オナガミジンコなどの動物プランクトンや小型のワカサギに含まれるリノール酸やリノレン酸の炭素安定同位体比は繊毛虫の値と異なり、藻類の値とほぼ同等であった。このことは、繊毛虫や藻類が合成したリノール酸やリノレン酸がそれぞれ別の経路で八郎湖の食物網に伝達されていることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は少なくとも10種以上の原生動物を単離し、純粋培養することで原生動物による必須脂肪酸の合成を検討する予定であった。しかし、必須脂肪酸を含まない細菌を単一の餌として純粋培養した際に、脂肪酸分析に十分な個体数にまで増殖できた原生動物種が限られており、6種の原生動物を対象とするにとどまった。それでも、種による脂肪酸組成や脂肪酸合成能力の相違を検出することができ、原生動物による必須脂肪酸合成がすべての種に備わっている特徴ではないことを示すことができた。 また、来年度以降に予定した現地調査について予備的な調査を秋田県八郎湖で行い、繊毛虫の脂肪酸組成を分析することができた。また、脂肪酸の同位体を用いることで、イサザアミやワカサギなどへ食物連鎖を介して、繊毛虫が含有する必須脂肪酸が移行している様子が示唆され、当初予定した以上の結果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、原生動物の純粋培養を進め、分析対象となる種を拡大し、原生動物による必須脂肪酸合成に関する知見を深める。さらに、必須脂肪酸を合成可能と判定された原生動物種を大量培養し、食物連鎖のトレースを可能とする脂肪酸バイオマーカーの探索に着手する。現時点において、原生動物からいくつかの未同定な脂肪酸が検出されており、今後はマススペクトルの検証などを通して構造の特定を目指す。
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