2019 Fiscal Year Research-status Report
分子設計されたキトサン-L-乳酸塩を経由する新規のL-乳酸製造プロセスの開発
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19K04675
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
赤尾 聡史 同志社大学, 理工学部, 准教授 (30448196)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 共貧溶媒効果 / L-乳酸発酵 / 中和剤 / 分子量分画 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は,1)キトサン-L-乳酸塩回収に適した貧溶媒の検討,2)キトサン-L-乳酸塩回収におけるキトサン分子量の影響,を検討した.2)を実施するにあたり,市販オリゴキトサンの脱塩素化,市販キトサンの加水分解と限外ろ過による分子量分画を実施した. 1)キトサン-L-乳酸塩回収に適した貧溶媒の検討では,1%L-乳酸溶液にキトサンを限界まで溶解させ上澄みを回収したキトサン溶液に対して,メタノール,エタノールおよびアセトンを貧溶媒候補として添加した.添加量は,キトサン溶液に対して最大5倍量まで用意した.その結果,アセトン添加系のみキトサン-L-乳酸塩の沈殿を確認した(添加量2倍より).なお,ハンセン溶解度パラメータ(HSP,HSPiPを用いた)により,キトサン(HSP値20.04)はアセトン(同9.77)に対してもっとも溶解し難いことを確認した. 2)キトサン-L-乳酸塩回収におけるキトサン分子量の影響では,1%L-乳酸溶液に,キトサン,オリゴキトサンおよび加水分解したキトサンを溶解限度まで溶解させ,アセトンを添加することで沈殿の生成を観察した.キトサンとオリゴキトサン溶液に対し,アセトンを5倍量添加した際に回収されるキトサン-L-乳酸塩量が一定に至り,回収率はそれぞれ43%と68%であった.分子量5kDa~10kDa,10kDa~20kDa,20kDa~50kDaおよび50kDa以上に分画した加水分解キトサンに対して同様に回収率を求めたところ,66%から50%と分子量の増加に応じて回収率が低下する傾向を確認した. 2)の検討にあたり,オリゴキトサンの脱塩素化について,水酸化ナトリウム水溶液-アセトン貧溶媒添加により実施できることを確認した.キトサンの加水分解は,酵素添加量-反応時間の調整から目的分子量を得る検討を行い,限外ろ過により分別回収する一連のプロトコルを確立した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は,1)市販キトサンの低分子化(塩酸,キトサナーゼ)と分子量分画,2)オリゴキトサンの脱塩素化,3)共貧溶媒効果によるキトサン分子量ごとのキトサン-L-乳酸塩回収率,4)乳酸菌に対するキトサンの抗菌活性評価を予定した.このうち,1)から3)までは実施し,4)については活性を測定する方法(ATP測定)を準備した.4)が実施できなかった理由は,分子量分画されたキトサンの準備に非常に時間を要したためである.この点は,2020年度初頭にキトサン準備を引き続き努める.一方,2020年度実施予定項目のうち,ア)貧溶媒および溶媒比の実験的検討,イ)計算化学の援用について,ア)およびイ)の一部(ハンセン溶解度パラメータ,分子動力学計算環境の構築)を実施した. 2019年度において,キトサン-L-乳酸塩の共貧溶媒効果による回収に対しては低分子量のキトサンが有効であることを確認した.この結果は,キトサンを用いたL-乳酸発酵プロセスの構築に向けて大きな前進となった.以上から,2019年度に関しては概ね予定通りの研究進捗である.
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は,a)乳酸菌に対するキトサンの抗菌活性評価,b)乳酸菌へのキトサン施用における応答確認(RNA発現解析)およびc)キトサン-L-乳酸塩の溶解特性に対する計算化学による説明,実施する.2019年度においてキトサン-L-乳酸塩の共貧溶媒効果による回収に対しては低分子量のキトサンが有効であることを確認したが,低分子量のキトサンが乳酸菌に負の影響をもたらす場合,キトサンの修飾によるキトサン-L-乳酸塩の高回収率化と乳酸菌への低活性化を両立できる分子設計を検討する必要がある.したがって,はじめに乳酸菌への影響を中心とした検討を実施する. 2021年度は,キトサンを用いたL-乳酸発酵プロセスの一気通貫した実施とキトサン-L-乳酸塩のL-乳酸アンモニウム化における効率的なプロセスの検討を行う.
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