2020 Fiscal Year Research-status Report
地震応答低減及び損傷修復性により建物の長寿命化を目指した鋼構造柱脚部システム
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19K04707
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
井上 圭一 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (70333630)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 制振構造 / 地震応答 / 柱脚 / 振動実験 / 画像解析 / 載荷実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
大地震時に柱脚浮き上がりを許容し、地震後も継続的にその建物を使用できるように、柱脚部分で降伏するアンカーボルトが交換できる建築構造システムの地震応答性状の解明に関わる研究である。 大地震時に損傷するアンカーボルトを交換できるような柱脚のディテールを提案し、試験体の載荷実験によって構造性能を確認するためにアンカーボルトの引張試験を行った。その部材は、アンカーボルトの断面積を部分的に切削し小さくし、降伏する部分を作成したアンカーボルトを高ナットを使って高強度のアンカーボルトに接合したものである。この実験によって、想定した部分で降伏・破断すること、破断した部分を回転させナットから取り外せること、その後新規のアンカーボルトを接合することができ、その後引張試験を行った結果、当初と同様の耐力が得られることを確認した。次に、そのアンカーボルトを用いた柱脚試験体を作成し、アンカーボルトが降伏し十分に変形するまでの載荷実験を行い、その後アンカーボルトを新規のものに交換した載荷実験を行った。その結果、アンカーボルトの交換後は、若干の剛性の低下が観察されたもののほぼ同様の構造性能が得られ、剛性及び耐力は既存の設計式でほぼ近似できることが確認できた。 大地震時に柱脚浮き上がりをする建物の振動模型を作成し、振動実験によって地震応答性状を確認した。振動模型実験においては、実験精度を向上するため、過去に実施した多層建物振動模型の試験体の剛性分布を変更し、また柱脚部の特性が及ぼす上部構造の地震応答の影響を調べるために、柱脚部に厚さの異なるゴムシートを設置した振動実験を行った。柱脚部の性状によって応答に及ぼす影響があることが明らかになった。 これらの結果をまとめ、2021年度日本建築学会北陸支部大会、2021年度日本建築学会全国大会に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、コロナウィルス感染対策の影響があり、主に実験の実施に関して難しい面もあった。しかし、実験に関わる研究補助をしてもらう学生を2人ほどに対応してもらったこともあり、比較的スムーズに研究が実施できた。また、実験については、福井大学技術職員の方々の協力が得られ、スムーズに実験を行うことが可能となった。 本年度は、柱脚部の試験体の設計、製作し、水平力を与えた載荷実験を行った。まず、アンカーボルトの部分的な試験体の引張試験を行い、降伏する部分が破断した後でもアンカーボルトの交換ができ、新たに設置したアンカーボルトの引張試験を行った結果から、ほぼ同等の構造性能を持っていることが確認できた。柱脚部には、曲げモーメントとせん断力が作用するが、せん断は、ダボによって十分に伝えられると仮定し、実験は、曲げ変形と曲げモーメントの関係について明らかにすることを目的とした。大地震後の修復性の確認のための実験として、降伏したアンカーボルトを交換する実験も実施することができ、荷重変形関係としてデータを得ることができた。曲げ耐力、初期剛性ともに、計算から導いた数値が適用可能であることを示すことができ、等価減衰定数も得ることができた。 また、模型振動実験においては、前年度確認できた、画像解析によるデータの信頼性により、振動実験の実施後、変位計測ができた。本年度は、柱脚特性の影響を見るために、厚さの違うゴムシートを設置した実験を行い、それらの結果によって比較を行い、地震応答に及ぼす影響について考察することができた。 本年度は、ほぼ想定したような載荷実験及び模型振動実験を実施でき、計測された結果により改めて確認できたこともあり、進捗状況として、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度には、前年度に行った実験結果についての十分な分析及び、追加の実験と解析を行う予定である。これまで行った実験に関して、振動試験体の柱脚部に関してさらなる改良を検討する。具体的には、振動時、水平方向とくに奥行方向に若干移動することがあるので、その現象の低減、および浮き上がり時の衝撃吸収のためのディテールを改良することを検討している。実験の実施、計測に関しては画像解析システム、計測装置などの導入によって、十分な精度でスムーズに計測が可能となっており、研究室の学生による研究補助、技術職員の方のサポートも見込むことにより、研究を進めていく予定である。 追加する実験については、建物の地震応答に及ぼす浮き上がりを許容した柱脚部特性の影響を明らかにするために、さらに柱脚部の特性を変更した実験を追加して行う計画である。柱脚部の剛性や着地時の衝撃吸収と浮き上がり量との関係などを明らかにする予定である。 新型コロナウイルスの感染対策に関連して、研究の実施については、今後社会情勢や大学の判断を考慮し、当該学生の了承も得て、感染対策をとりながら研究を進めていく予定である。実験結果を踏まえた柱脚浮き上がりを伴う地震応答解析やFEM解析などにより一般的な条件についての構造性状に関して解析的に検討を進める予定であるが、場合によっては、解析的研究を充実させることで研究を進めていくことも検討する。
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Causes of Carryover |
当該年度は、学生による研究補助を行ってもらうことができ、主に実験的な研究がスムーズに実施できた。しかしながら、コロナ禍のなかで、学生の補助にも限界があったため、研究補助に関わる謝金費用、試験体の作成に関わる費用が多少少なくすることになった。学会や研究打ち合わせに関わる旅費なども使用する環境ではなかった。
次年度は最終年度であるため、追加実験の実施、詳細な解析的研究の実施などを行うための研究費の使用を計画している。学生による研究補助も、現在まで、当初の予定よりも少なく実施することしかできていないため、学生により協力を依頼し、謝金として使用することを検討している。
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