2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of Environmental Control Behavior Induction System Using Environmental Simulation in Buildings Utilizing Passive Design
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19K04738
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
高瀬 幸造 東京理科大学, 理工学部建築学科, 講師 (20739148)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川島 範久 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 助教 (70738533)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 省エネ行動 / ナッジ / 通風 / エネルギー / シミュレーション / CFD / 実測 |
Outline of Annual Research Achievements |
自然エネルギーを最大限活用するパッシブ手法は、省エネルギー性のみならず、居住者・利用者の心身の健康性にも大きく影響を与えるため、広く採用されている。しかしこれらの工夫が設計に反映されたとしても、実際に建設された建物において、意図通りに運用されるか否かは、建物内での人間の過ごし方によるところが大きい。そこで本研究では、建物利用者にとって実施負担度が少ないながらも快適性・省エネ性・満足度向上が期待される室内環境調整行動を促すための情報を整理し、適切な環境調整行動を通知(Nudge, ナッジ)するシステムを開発する。①「設計用外部気象データ分析(温湿度、風向風速、日射量など)」、②「各気象条件下での環境調整行動有無による、室内環境や熱負荷・エネルギー消費量の違いの事前シミュレーション」の2点を行って予めデータベース化し、これらのデータに基づいて環境行動を提案することが、本研究におけるNudgeシステムの特徴である。 初年度においては、申請者らが以前に設計した戸建住宅を対象として、夏期・中間期の通風利用促進を意図したNudgeシステムを開発した。現地に設置した屋外の風向風速計と室内外の温湿度計のデータをクラウドに収集し、居住者の利用しているスマートフォン上で表示可能なWebアプリを通じて窓を開けるべきか否か、またどこの窓から風が流れやすいかといった判断を通知するシステムとした。また、各窓の開閉状況を判断するセンサーも設置してどの窓が開いているかについても、スマートフォン上で把握できるようにした。このシステムを居住者に試用してもらい、通風可能時間帯における通風利用率等を分析するとともに、使い勝手等のアンケート調査を行うことで、本システムの有効性と改善点を把握した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は一軒の戸建住宅を対象として、「自然通風促進」にターゲットを絞ったナッジシステムの効果検証を行った。屋根上部に無線式風向風速計、外部の日陰となる場所にや住宅内部に無線式温湿度計を設置して、これらの環境情報データをクラウド上に集約可能とした。さらに吹き抜けを有するリビングのエアコン冷房範囲内にある窓全てに、サッシおよびブラインドの開閉を感知するセンサーを設置して、開閉操作の記録を行えるようにした。 通風利用可否の判断については、屋内外の温湿度データから、通風利用が有効かを判断するロジックを、既存の温熱快適性評価指標をもとに作成した。次に、流体解析(CFD)によって、対象住宅の内部および周辺街区を再現し、各風向における通風換気量を事前にシミュレーションし、実測された屋外の風向風速データと併せて、自然通風による十分な換気が可能かをリアルタイムで判断するロジックを作成した。 さらに、このロジックを実装したWEBアプリを開発し、屋内外の温湿度・風向風速データや、窓・ブラインドの開閉状況の可視化を行うと共に、「通風アドバイス」ボタンを押すと、自然通風が有効かがテキストメッセージで知らされる機能や、エアコンのON/OFFができる機能を実装した。このWEBアプリに居住者がスマートフォンからアクセスすることで、エアコンを使用する前に、屋内外の環境状態および通風アドバイスを見るように誘導する仕組みとした。 6月から10月において、自然通風活用時間率(室内外の温湿度および外部風の風向風速から導き出される通風有効時間のうち、実際に窓を開けて自然通風を行った時間率)が約76%(通風有効時間819時間の中で、窓開けしたのが622時間)、自然通風有効判定時間中のエアコン利用率が約15%(125時間)と、多くの時間で通風利用できていたことが確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度のナッジシステムを検証した際の居住者アンケートにおいて、「エアコンを使用する前に、通風可能かどうかを判断できることで、エアコンを使わずに外気を取り込む意識が増し、外気および自然の音と触れる機会が増え、生活が豊かになった」といったポジティブな意見も見られた一方、通知内容やインターフェースのわかりやすさ、通知タイミング、センサーの安定性やエアコンの操作性等に関する改善要望の意見を得ることができた。今後は他の住宅において実証実験を行う予定であり、より信頼性の高い風向風速センサーへの交換を行っている。安定性を向上させた改良版ナッジシステムを使用して、年間でのシステム利用による効果を検証していく。 なお、2020年の新型コロナウイルス感染拡大防止策としての外出自粛要請等の影響で、現地での屋内への計測機材の設置や、ナッジシステムの改良や動作確認に時間を有することが考えられるが、夏前を目途に必要なデータを取得できるように計画を進めていく。さらに、これまで検討ができていなかった冬期の環境調整行動として、窓付属部材の適切な利用によって日射取得を行うことで暖房負荷低減が見込まれるため、窓面における日射量の把握等を行って冬期の日射導入を促すことも念頭に置いたシステム開発を進める。また、これらの環境調整行動がもたらす省エネルギー効果については、熱負荷シミュレーション等も援用することで試算を行っていく。 これらの研究によって得られた結果を取りまとめ、日本建築学会、空気調和・衛生工学会等において成果の発表を随時行う。
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Causes of Carryover |
2020年の年明けに改良版ナッジシステムを開発することを考えていたが、調査対象候補の住宅の竣工時期の都合上、システム開発に関わる委託費を翌年度に繰り越すことにした。また、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、3月の竣工後に計画していた実測評価のための作業が中断しており、計測機材類の発注についても翌年度に実施することになった。翌年度には、これらのシステム開発および計測機材購入費用等によって、当初2か年で想定していた金額に相当する予算を執行予定である。
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