2020 Fiscal Year Research-status Report
機械学習によるデータ駆動型避難シミュレーションシステムの開発
Project/Area Number |
19K04752
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
安福 健祐 大阪大学, サイバーメディアセンター, 准教授 (20452386)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 避難シミュレーション / 地下空間 / 浸水 / データ駆動 / マルチエージェント |
Outline of Annual Research Achievements |
データ駆動型の避難シミュレーション開発として、従来型の群集行動モデルに対し実データを活用して精度を上げていく手法と、機械学習により群集行動モデルを一から生成する手法により研究を行った。 前者については、津波による地下空間浸水からの避難を対象に、ある地下街管理会社から提供された滞留者予測データ、避難誘導シナリオを入力データとし、群集の動きをマルチエージェントシミュレーションで予測して避難安全性の評価を行った。大規模地下街においては、ブロック別に避難誘導を行い、特に混雑が予測されるブロックについては、他のブロックへ誘導した場合に避難時間が短縮する効果をシミュレーションにより確かめた。また、避難を開始する前の人流状態を予測することも安全性の評価に重要であることから、平常時の群集シミュレーション開発にも取り組んだ。平常時は避難時とは異なって、各人の移動先が異なっており、その根拠となるデータが必要となる。そこで大規模商業施設を対象に、会員カードによる各店舗の購入履歴1ヶ月ごとに約40万件のデータから店舗遷移確率を抽出し、その結果を行動モデルに入力することで実測値に近い人流結果が得られることを確かめた。 一方、機械学習により群集行動モデルを生成する手法については、ゲームエンジンUnityを活用して開発を進めた。Unityは深層強化学習用のフレームワークを利用することができ、個々のエージェントの行動を学習させることができる。ニューラルネットワークの入力層データとして、群集行動に影響する情報をゲームエンジンの仮想環境から取得することで学習環境の構築を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
機械学習により群集行動モデルを生成する手法については、従来型の群集行動モデルより精度の高いモデルを生成させるための試行錯誤が続いており、当初の計画よりも長い時間を要している。そのため、本研究のデータ駆動型のもう一つのアプローチとして、実データを活用して従来型の群集行動モデルの精度を上げていく手法を中心に研究を進めている。まずは昨年度に引き続き、大規模地下街の管理会社から地下街図面のデータの提供、平日・休日における時間帯ごとの予測滞留数、災害発生時に接続する地下鉄から流入してくる想定人数、避難誘導計画などのヒアリングを行った。その結果、具体的な避難シミュレーションのシナリオに活用できる膨大なデータを入手することができ、津波による地下空間浸水からの避難を想定し、避難時に人が高密度になる箇所のリスクを評価することで、実際の避難誘導計画立案の支援まで行うことができた。また、ある不動産会社からは、大規模商業施設における出入口ごとの入館者数および退館者数、会員カードによる各店舗の購入履歴の提供を受けて、それらのビッグデータを活用して平時の買い回り行動モデルを構築することができた。さらに、2020年度のコロナ禍における買い物行動の影響についても、コロナ前とのデータと比較しながら分析をすすめているところであり、当初の計画よりも発展している部分といえる。一方で、機械学習により群集行動モデルを生成する手法についても、ゲームエンジンを活用しながら、人の衝突回避行動やそこから群集の対向流の再現性について検討を行っているが、パラメータを変更する毎に長い学習時間を要するなどして、現時点で満足のいく精度が得られていない状況となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度として、データ駆動型のシミュレーションをより多くの施設に適用し、避難および群集の安全性評価を行っていく。そのために、各施設から入手可能なデータを整理して、シミュレーションの入力データとして、群集の再現性の検証、群集密度の変化予測、災害発生時の避難誘導方法の検証等を行っていく。一方で、当初目標に掲げてきた機械学習による群集行動モデルの開発も継続して行う。 シミュレーションを適用する施設としては、不特定多数が集まる場所として、主にスポーツ競技場や大規模商業施設を対象とする。新たに入手を予定しているデータとして、カメラやセンサーデータから機械学習によって算出された人流データがあり、シミュレーションの初期配置や境界部分からの流入人数設定に用いる。また、災害時を想定して、各施設の避難誘導計画をベースに避難シミュレーションを行うことで施設の安全性向上に役立てる。さらに、2021年現在のコロナ禍において、従来許容されてきた群集密度が感染対策上で危険と判断され得ることから、ソーシャルディスタンスの観点を取り入れた群集密度評価も行う。シミュレーションの設定がより困難となる平常時の群集行動の再現についても、引き続き研究開発をすすめる予定であり、2019年度から対象としてきた大規模商業施設に加えて、MICEを対象とした展示会場についてもプランニングデータや人流データを入手できる予定であることから、精度の高い回遊行動シミュレーションにも発展させる。 一方で、機械学習を用いたミクロな群集行動モデルの開発についても、ゲームエンジンを活用した深層強化学習を継続する。今年度の予算で機械学習用ワークステーションを導入するなどして効率を上げながら、当初目標に掲げていた開口部の群集流動や対向流の再現を目指す。
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