2019 Fiscal Year Research-status Report
近世の禁裏祭祀空間の造営・維持に関する建築史的研究
Project/Area Number |
19K04807
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
岸 泰子 京都府立大学, 文学部, 准教授 (60378817)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 禁裏 / 祭祀 / 仏事 / 道場 / 御願寺 / 家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近世禁裏の仏事・神事(祭祀)空間・場を造る・造られることに着目し、その空間・場の形成・維持・変容のありかたを建築史的観点から考察するものである。近世の王権、特に禁裏の基盤となる仏事・神事(祭祀)空間の特性、さらにそこからみえてくる近世国家・社会の特性を解明することを目的としている。また、その空間の用途、具体的な仏事・神事の様相に注目し、そこにかかわる寺社・町・町人の動向を明らかにすることによって、近世社会を支える仕組みを解明することも目的としている。 令和元年度は、主に公家の日記等から、禁裏の祭祀空間は臨時・常設/内・外といった多様な性格・構造を有していることを確認した。そして、そのうちの常設の黒戸御所および仏像・尊牌の安置される場、内の祭祀となる女御や皇子・皇女に関わる仏事に着目し、その造営・修理の経緯やしつらい、使い方などを検討した。その結果、前者については天皇の神聖性の確立が関与すること、両者には天皇の「家」の概念の形成が関わっている可能性を導きだしつつある。これらは近世国家ならびに社会とも共通する特性といえ、近世禁裏の特徴として注目される。また、禁裏の祭祀に関わる側として京都の寺町にある御願寺に注目し、これらの寺院所蔵文書等を調査した。禁裏の祭祀に関わる寺院側の動向(背景)の解明およびその寺院を統括する側の豊臣政権や徳川幕府の宗教・禁裏政策との関連から、禁裏の祭祀における御願寺の近世的な役割がみえてきている。なお、その成果の一部は研究会にて発表し、現在論文を作成中である。 また、宮内庁書陵部や京都府立京都学・歴彩館などが所蔵する近世禁裏・祭祀空間造営に関する史料の整理・データベース化を適宜進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
公家日記や寺院所蔵の記録等を中心に史料の蒐集・解読・考察をすすめており、年度途中までおおむね順調にすすんでいた。しかし、新型コロナウィルスの影響で令和元年度末に予定していた史料調査ができず、実績で記した内容に関する史料の蒐集・解読などが途中で中断している。また同様の理由から、寺町の寺院(御願寺)の禁裏祭祀での役割の検討についても寺院史料等の最終確認が途中である。 また、本研究では海外の日本近世史・宗教史の研究者と協同し、研究成果の交換や近世史料の新たな発掘・整理を建築史学の観点から行う予定である。研究者とのコンタクトはメール等で取っているが、新型コロナウィルスの影響で年度末の海外渡航が中止となり、調査や今後の研究進捗に関する意見交換などができていない。
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Strategy for Future Research Activity |
近世の禁裏の祭祀の核となる概念のひとつ天皇「家」については、17世紀前期および後期の禁裏の動向や幕府の禁裏政策のありかたとの関係が重要であると考えられるので、その時期を重点的に考察を進めていく。また、19世紀中期にはその祭祀空間が「外」に出ていくようになっていることから、今年度はこの時期の禁裏の「外」の祭祀空間についても考察を進めていく予定である。また、空間を造る・造営という観点から、それに直接かかわる祭祀である安鎮法などにも着目し、実際の祭祀空間が造られる意義についても検討する。 ただし、今年度も新型コロナウィルスの影響により史料調査の難航が予想される。アーカイブ資料等をうまく活用しつつ、資料館・図書館等での史料調査は状況をみつつ積極的にすすめていく。また、海外の史料調査ならびに情報収集等についても状況をみつつ(できれば数回)実施したいと考えている。
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Causes of Carryover |
(理由)史料調査、特に海外での調査を新型コロナウィルスの影響で中止せざるをえなかったため。 (使用計画)海外の日本史・宗教史の研究者および研究機関とは連携を取っており、状況が改善次第、令和元年度に実施予定だった海外での調査を実施する。また、国内の調査についても同様である。
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