2023 Fiscal Year Research-status Report
A historical study about architecture and urbanism of modern Inchon, south Korea through memories and records left in Nagasaki.
Project/Area Number |
19K04816
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Research Institution | Nagasaki Institute of Applied Science |
Principal Investigator |
山田 由香里 長崎総合科学大学, 工学部, 教授 (60454948)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 仁川英国領事館 / ハナ・グラバー・ベネット / グラバー家アルバム / ウォルター・ベネット / 仁川外国人墓地 / 長崎・梅香崎のRoyal Oak / ホーム・リンガー商会 / 仁川官洞ギャラリー |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度の成果は、「仁川英国領事館とハナ・グラバー・ベネット」の調査研究と展覧会開催である。長崎歴史文化博物館所蔵のグラバー家アルバムには、ハナと仁川に関する写真が150枚含まれる。2019年以降、長崎と仁川の居留地研究者の協力を得て、写真の全容を明らかにした。展覧会は、これら写真と仁川英国領事館、ハナの生涯と家族について紹介した。 ハナ・グラバー・ベネット(1876~1938)は、英国商人トーマス・グラバーと淡路屋ツルの娘として長崎で生まれた。長崎と東京の学校で学び、1897年の21歳のときに長崎でウォルター・ベネットと結婚。同年、ホーム・リンガー商会仁川支店に勤務する夫に同行してハナは仁川に移り住み、20代で2男2女に恵まれた。ベネット一家は、1915年(ハナ39歳)に、仁川英国領事館跡に住まいを構えた。それから20年間、62歳で亡くなるまで、ハナは仁川の港町を眺める丘の上で暮らした。現在は仁川外国人墓地に眠る。 英国公文書館所蔵資料から、仁川英国領事館は3代の建物からなる。初代は長崎の梅香崎にあった居酒屋Royal Oakを移築。2代目は仁川港西端の丘上に木造で建設。3代目は2代目の隣地にレンガ造で建設された。グラバー家アルバムには3代目領事館の初めて見る写真が含まれ、建築の分析が進んだ。現在、各代の建設年を整理中である。 仁川英国領事館に住む以前のベネット一家は、松月洞3街の洋風住宅に住んだ。これは1918年以降、マイヤー商会のシルバウム家が住んだ住宅である。 展覧会は、仁川官洞ギャラリーで開催し、2024年2月25日~3月30日の15日間に400人以上の来場者があり、盛況であった。仁川と長崎の新聞で取り上げられた。コロナ禍で中断した本研究だが、展覧会の開催によって大きく前進した。研究協力者のブライアン・バークガフニ、戸田郁子、柳銀珪、濱﨑大の諸氏に感謝する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、韓国・仁川の開港居留地時代から日本統治時代(1883~1945年)の建築と都市について、長崎から渡った人・技術・文化の記憶や記録を通じて、歴史的に明らかにすることを目的とする。具体的には、近代仁川の建築や街並みについて長崎及び日本国内の史資料から明らかにし、仁川の近代建築や街並みの保存継承への一助とし、翻って近代長崎の建築と都市についても明らかにすることを目的とする。 2024年3月に仁川で開催した展覧会「仁川英国領事館とハナ・グラバー・ベネット展」によって、上の目的は大きく前進した。 一方で、コロナ禍によって2020~2023年の仁川への渡航が叶わず、長崎における調査も博物館・図書館の閉鎖によって難しかった。その間、私が以前からテーマにしていた建築家ジョシュア・ヴォーゲルとヘレン・ホリスター、1941年に清州神社(忠清北道)を手掛けた文化財修理設計技術者・井上梅三、高松松平別邸・披雲閣について、新たな知見が明らかになり、韓国に結びつくことが明らかになった。いずれも日本と韓国の近代の都市と建築に関わるものである。 2024年度には、いずれもまとめられる目途がついた。順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度が最終年度である(コロナ禍のため再延長)。2019年度から実施した調査を書籍、論文などで公表する。以下のテーマを予定する。必要に応じ、補足調査を実施する。 ①仁川英国領事館とハナ・グラバー・ベネット 同展覧会の長崎展をグラバー園で開催予定である。また、2024年3月の仁川の展覧会で使用したグラバー家アルバム写真は、博物館提供の画像データを利用した。画像の中には、解像度が高ければより多くの情報が得られるものがあった。さらなる研究の進展のために、長崎歴史文化博物館所蔵のハナと仁川に関する写真150枚の、実見調査と高画像複写を実施する。調査・分析をもとに、ハナ・グラバー・ベネットと仁川英国領事館に関する書籍、論文を作成する。 ②長崎活水学院校舎設計の建築家ジョシュア・ヴォーゲル(1889-1970)とヘレン・ホリスター(1887-1947)。 ヴォーゲルはヴォーリズ事務所着任直後の1913年にソウルに派遣され、ソウルYMCAと梨花大学シンプソン記念館の現場の基礎工事を監理した。これをはじめ、1912~1965年のコロンバス、近江八幡、ソウル、東京、シアトル、上海、長崎 で手掛けた建築の全容がほぼ明らかになった。書籍、論文を作成する。 ③1941年に清州神社(忠清北道)を手掛けた文化財修理設計技術者・井上梅三(1864~1963) 2023年度に、御孫子が所有した1955年以降の資料が加わり、井上梅三の戦後の経歴も明らかになった。これで、井上梅三の仕事の全容が明らかになった。書籍、論文を作成する。 ④高松松平別邸・披雲閣(重要文化財、1917年) 大正から戦前にかけ、李王垠をはじめ、皇族・華族の高松来訪時の迎賓施設として利用された高松松平別邸・披雲閣の、清水組の見積書と城内整備、三大行幸啓の建物の使い方に関する論文を作成する。
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Causes of Carryover |
理由は、コロナ禍によって、2020-2023年度に仁川への渡航と、国内調査ができなかったためである。 使用計画は、長崎歴史文化博物館所蔵グラバー家写真の再調査と高解像画像複写のため、仁川から研究者と写真家を招聘するための旅費(30万円)、韓国調査の旅費(30万円)、書籍・論文作成費(35万円)である。
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