2021 Fiscal Year Research-status Report
アーツ・アンド・クラフツ運動と分離派建築会にみる近代建築草創期の「惑い」
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19K04820
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
杉山 真魚 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (70625756)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 原始性 / 進化論 / 有神論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は前年度より取り組んでいる建築家ベイリー・スコットの言説および作品の解読を進めるとともに,英国と日本をつなぐ「惑い」の視点として「原始性」という鍵概念を提示した。主たる研究成果は以下のようにまとめられる。 1)ベイリー・スコットの言説・作品研究:①壁面装飾の主題と方法について,壁紙デザインを事例として分析するとともにアール・ヌーヴォーとの関連も探った。②1890年代英国の建築界の動向を整理した上で,ベイリー・スコットの住宅論における「装飾」概念の広がりを記述分析した。2)近代住宅と「原始性」に関する研究:①ウィリアム・モリス,W.R.レサビー,ウォルター・クレイン,C.F.A.ヴォイジーらの言説から「原始性」に関わる英国での論点として,中世主義からの展開,進化論との接続,宗教の問い直しという3つを析出した。②英国から日本への波及事例として,伊東忠太および分離派建築会の蔵田周忠による言葉を中心に検討した。3)進化論とアーツ・アンド・クラフツ:レサビーの著作を読み進める中で,ハーバート・スペンサーの建築様式論という新たなテーマが浮上した(研究継続中)。4)「惑い」の検討:①「装飾」という制作行為における「惑い」として,表面的虚飾,建築の衣服としての装飾,構造体への装飾という考え方を示した。②近代における「原始性」追求という矛盾あるいは不可分の関係もひとつの「惑い」として捉えられる。5)研究成果の公表:ベイリー・スコットの住宅論について(『日本建築学会計画系論文集』),近代建築草創期の原始性追求について(『カルチュラル・グリーン』),各1編の論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画における最終年度となる本年度,これまでに実施できていなかった渡英を予定していたが,前年度同様,感染症の影響で中止した。ベイリー・スコットの作品・著作を現地で確認することができず,日本で入手可能な資料に基づいて研究を進めざるを得なかった。ただ,分析内容についてオンライン会議システムなどを活用し各方面の専門家と意見交換する機会を設け,充実を図った。また,本研究の総括として「惑い」の視点について考察を進めることができた。海外調査の未実施,スペンサーの建築様式論という関連事項の検討を主たる理由として研究期間の延長を決定した。
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Strategy for Future Research Activity |
延長期間としての次年度においては,本年度までに得られた知見をさらに精査するとともに,これまで実施できていない海外での視察および情報収集を行い,研究内容を補足したい。前半期での渡英が困難な場合,日本への波及に関する研究内容を充実させるように国内資料を収集・分析し,年度内での研究完了を目指す。
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Causes of Carryover |
本年度予定していた英国への渡航が感染症により実施できなかったため。
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Research Products
(6 results)