グラフ構造を用いた競合解消数理モデリング及びその食品表示に係る応用

2021 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 19K04880
• Research Institution: Kyoto Institute of Technology
• Principal Investigator: 軽野 義行 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (80252542)
• Project Period (FY): 2019-04-01 – 2023-03-31
• Keywords: 数理モデリング / グラフ構造 / アルゴリズム設計

Outline of Annual Research Achievements

本研究では，有向二部グラフによって表現されてきた反転グラフ問題と呼ばれる競合解消モデルの計算困難性を，帰着の技法を用いて解明することを目的としている．研究開始以前の既存アルゴリズムは，当該数理モデルの導入者自身による遺伝的アルゴリズム，我々の貪欲法および焼きなまし法くらいであった．また，大規模な問題例を実際に解いてみたという報告もなされていなかった．
初年度に得た有向二部グラフの等価的な無向グラフ変換手続，および二年目に得た変換無向グラフの数学的特徴づけをもとに，本年度は既存アルゴリズムの性能改善や異なる帰着の手続を検討した．より具体的な実績の一つとしては，最大クリークサイズの上界を与える変換無向グラフの対称構造を既存の焼きなまし法に組み込んで，その性能改善を図ったことである．
二年目に得た整数計画表現と整数計画ソルバーの適用によって，百～二百規模の問題例であれば厳密解を求めることが可能になったので，同程度規模の問題例を用いて，焼きなまし法の修正手続の実装に対する計算実験を行った．その結果，解の品質をほとんど劣化させることなく，問題例によってはむしろ高品質のケースもあり，かつ30%程度以上の実行時間の削減を確認することができた．焼きなまし法の基本フレームには手は加えていないので，この修正手続が大発見とまでいうことではないが，理論的な計算手間の評価を細かく積み上げたことの効果が表れていると言える．

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

反転グラフ問題の有向二部グラフ表現を多項式時間で無向グラフ表現に変える手続，無向グラフ表現に基づく重み付き最大クリーク問題への帰着，および無向グラフ表現の対象構造に対する一つの数学的特徴づけが二年目までの研究成果である．重み付き最大クリーク問題への帰着には，計算の複雑さの理論的観点からは利点がないが，近年の整数計画ソルバーの性能向上を背景として，実験的には厳密解を得ることができる問題例の規模が大幅に改善された．より具体的には，反転グラフ問題の導入者が作成したベンチーマークは五十変数程度であったが，ランダムに生成した二百変数程度の問題例ならば，標準的なデスクトップPCで90%以上が10分程度以内に解けている．また，三年目の主な進捗としては，無向グラフ表現の対象構造から着想を得て，焼きなまし法の修正手続の実装を行い，その実行時間削減効果を確認したことがあげられる．
しかしながら，研究発表や実質的な議論を行うための適切な機会が世界的に失われている状態が継続し，数理モデルをブラッシュアップするための知見を強化できなかったことは，そうと認識せざるを得ない．反転グラフ問題が競合解消の一つの表現であることには違いはなく，核心をなす学術的な「問い」に対して直接的なダメージを実感するほどでないのではあるが，応用との関連性がもう少し明確になる数学モデルに自然と変容するのではないかという計画当初の期待は，まだ完全に現実のものとはなっていない．

Strategy for Future Research Activity

新型コロナウィルス感染症拡大防止のために，この二年の間では実質的にほとんど行うことができなかった成果発表や情報収集活動を，まずは可能な範囲で再開する．幸いにも，新しい成果の一部が国際会議プロシーディングスに採択決定となっており，また現時点で会議自体はオンサイトの開催が予定されている．同様に実質的な議論が期待できる別のオンサイト開催の国際会議やセミナーも現在調査中である．特に，より応用面が強調された数理モデルの構築のために，何らかの強力な最後の一手となりうる収穫を期待する．
経費の使用計画にすでに若干の変更が生じているが，計算環境が想定よりも充実した．すでに得られた成果ではあるが，計算実験を再度行うことで，その有効性が一層明確になるはずである．研究協力者のグラフ算法の取扱能力がこの一年で飛躍的に向上しており，その研究協力者の補助作業を得られればその実施には支障はなく，これに関しては期間延長が認められたことを積極的に活かしたい．

Causes of Carryover

新型コロナウィルス感染症拡大防止のために，多くの国際会議やセミナーが中止になった．CFPでオンサイト開催がアナウンスされても，海外渡航の計画を立てるのが困難であったり，最終的にはオンライン開催となったりした．計画当初に期待していたような成果発表や情報収集活動を行えなくなり，その後も状況は一進一退のまま年度末を迎えることとなった．研究協力者の登校に配慮が必要な状況も継続し，研究の補助作業を計画通りに依頼することができなかった．結果的に，旅費，参加費（論文掲載料の意味も含めて），謝金等，新型コロナウィルス感染症流行の影響を受けた関連経費の一部が，前年度からの繰り越しも含めて次年度使用とすることになった．
幸いにも，新しい成果の一部が国際会議プロシーディングスに採択決定となり，また現時点で会議自体はオンサイトの開催が予定されている．次年度使用とはなったが，旅費や参加費の一部はそれに係る経費として計画目的通りに使用する．研究協力者の登校制限が緩和される方向に向かえば，研究の補助作業を依頼することができる．夏季休業期間等を活用して研究の補助作業を依頼し，これも次年度使用とはなるが，謝金の一部をそれに係る経費として計画目的通りに使用する．不可抗力的に計画が無効になりそうな経費については，核心をなす学術的「問い」に対する研究進展の維持に十分に留意しながら，代替的な活動や物品購入に振り替える．