2019 Fiscal Year Research-status Report
行動経済学の知見に基づくサプライチェーン上の戦略的意思決定に関する理論的研究
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19K04910
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
松林 伸生 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00385519)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 応用ゲーム理論 / 行動経済学 / 垂直的差別化 / サプライチェーンマネジメント / マーケティング / 水平的差別化 |
Outline of Annual Research Achievements |
交付申請書に記載した研究実施計画を踏まえ、本年度は具体的に以下の研究成果を得ることができた。 1.サプライチェーン上の各企業における公平性への懸念を考慮した意思決定問題に対し、小売店間の競争を前提とした上で、このような不公平に対する不効用が存在するもとでのチャネル・コーディネーションの達成可能性についてゲーム理論によってモデル化し、均衡分析を行った。結果として、小売店間の競争(差別化の程度)が中程度の時に限り、所定の条件を満たす効率かつ公平なチャネルが達成されることが分かった。これは競争を想定しない先行研究の結果では得られていない、かつ現実的な示唆であると考えている。 2.消費者が「品質に関する参照点」を持ち、それに基づく製品評価に対する認知バイアスを有することを前提としたうえでの企業の市場参入戦略について、ゲーム理論によるモデル化と均衡分析を行った。分析の主要な結果として、既存市場と新市場の双方の消費者ともに認知バイアスの影響が大きい場合には、たとえ新市場に参入障壁が一切なかったとしても、参入は有利にならないという興味深い示唆が得られた。 3.商品の品切れ現象が返って購買意欲の上昇を引き起こすという消費者の認知バイアスに注目した、企業の多期間の価格戦略について、モデル分析を行った。結果として、そのバイアスの程度(どの程度の過去の品切れ実績に影響されるのか)によって、企業の最適戦略は多様に変わりうることが示された。 4.企業が広告等の費用をかけることによって、消費者の認知バイアスの解決を図ることができるとしたモデルを構築し、水平的差別化市場における企業のポジショニング競争において示唆を得ることができた。 これらの研究成果については、海外学術雑誌に投稿済みであり、4.については掲載が決定、1~3については現在審査中または要求に基づく改訂中のステータスとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書においては、2019年度は「研究実績の概要」の1.項に記載した内容について取り組み、また2019年度後半から2020年度にかけて2.をはじめとする消費者の認知バイアスを前提とした企業のマーケティング戦略に関するモデル分析に取り組むとしており、ゆえに研究は順調に進捗している。「研究実績の概要」に記載した通り、これらの研究成果は既に論文としてまとめて学術雑誌に投稿している。しかし、その多くについては論文の掲載が決定したわけではなく、今後の審査の過程の中で改訂や場合によっては再分析の必要が生じる可能性もある。そういった点も踏まえて、「おおむね順調に進捗している」との自己評価に至った次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」の項に記載したように、今年度の研究成果に関する論文の公刊に向けては今後とも引き続き推進していくことが不可欠である。一方で、消費者の認知バイアスを前提とした企業のマーケティング戦略に関するモデル分析については、価格や品質決定を中心とした製品戦略を軸に、さらに新たなマーケティング戦略(流通、広告、プラットフォーム等)にも視点を広げて、ゲーム理論によるモデル化と示唆の導出に努めていく予定であり、交付申請書の内容に変更はない。 なおいずれの場合も、本研究の大部分が研究代表者個人による机上検討であり、また随時タイムリーな情報取集・成果発表を行うべく、国内外の研究発表会への参加やインパクトの高い学術雑誌への投稿を計画すること、そしてその遂行のために大学院生を中心とする研究協力者の協力を予定していること、等についても交付申請書に記載したものから何ら変更は無い。
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Causes of Carryover |
(理由) 上述のように今年度に推進した研究のほとんどについて、まだ論文の公刊には至っておらず、情報発信が十分でない状況である。従って、学会発表のための旅費や論文投稿・掲載に関わる諸経費などは次年度に繰り越して使用したいと考えている。 (使用計画) 上述した成果発表に関する諸経費のほか、交付申請書に記載した次年度の研究計画については変更無いため、その実施のための費用(同じく学会発表のための旅費や論文投稿・掲載に関する経費が中心)も予定通り必要となる。
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