2019 Fiscal Year Research-status Report
カルデラ湖の水質を用いた十和田火山活動モニタリング手法の開発
Project/Area Number |
19K04945
|
Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
網田 和宏 秋田大学, 理工学研究科, 助教 (20378540)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大沢 信二 京都大学, 理学研究科, 教授 (30243009)
下田 玄 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究グループ長 (60415693)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 十和田湖 / 湖水 / 採水 / 水質 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の初年度にあたる2019年度は,十和田湖の湖心における深度別の採水を実施したが,並行して,その準備期間から実際の採水に至るまでの工程の中で生じる問題点や改善点についての洗い出し作業も行った.その結果,十和田湖の水域で作業を行うために必要となる許可申請の提出先および必要となる書類の内容や調査船の委託先,委託手続きや支払い方法などが明確となり,次年度以降の調査許可および調査船の手配について時間を取られることなく準備を進めることが可能となった.また,実際に手配できた調査船のサイズや積み荷を載せた状態での作業可能スペースの状況などについても確認することができた. 一方で,採水器を湖水に沈めて行った採水作業に際しては,十和田湖の深部に強い流れが発生しており採水器が側方に流されるなど(直下に沈んでいかない),当初は想定していなかった問題が発生することも明らかとなった.特に200m以深の領域においては流れの影響が強く,ロープの先に吊るした採水器の水中姿勢が乱されてしまい,蓋を閉じる「ばね仕掛け」を作動させるためのメッセンジャー(水面から投げ込み,本体をたたく重り)が,本体のインパクト面に適正に当たらず,採水の失敗が繰り返された. 以上の様な状況であったため,いくつかの深度の採水については断念せざるをえなかったが,表層,50m,150m,300mの4深度において湖水試料を得ることができた.得られた湖水試料に対しては,主要溶存イオン分析および同位体データの測定が終了している.微量成分については,分析を担当する研究分担者との間での日程調整が難航したこともあり(令和2年2月以降に予定していたが,新型コロナウィルス感染拡大の影響で申請者が出張できなくなったため)未分析であるが,化学的な前処理を終えた試料を保管しており,分析待ちの状態にあるなど,概ね研究計画に沿って進捗している状況である.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では,季節の変化に応じて湖水の採水を実施することを予定していたが,初年度である2019年度に関しては,各種許可申請や調査船の委託先との交渉に時間を取られたことに加え,日程調整の末に決定した調査日が天候不良により延期した影響などもあり,結果的に10月後半に実施した1回しか採水調査を行うことが出来なかった.ただし,実施された採水調査では,十和田湖の湖心(最深点の直上)において,深度別に複数の採水を行うことができた点,また採水器の一回分の採水で,分析用に十分な試料量を確保することができた点など,計画段階で想定していた通りの試料採取を実行できることが確認された.また,現在までに得られた各種のデータより,以下に示すような結果が得られている. (1)表層から深部に行くにつれて湖水の電気伝導率(EC)の上昇が見られた.さらに主要溶存イオン濃度についても表層より深部に行くにしたがって徐々に濃度が上昇していることが明らかとなった.(2)水の同位体比に関しては,表層から深層までほぼ同じ値を示し,化学組成とは異なる傾向を示した.(3)湖心表層と十和田湖の流出河川である子ノ口沢,およびその対岸にあたる和井内湖岸における水質はほとんど同じであることが確認された. 特に(1)については,十和田湖の深部より高濃度の火山性流体(あるいは温泉水)が湧出していることを示唆するデータであり,本研究の作業仮説の妥当性を示す知見であるといえる.また,(3)の状況より,「表層湖水の水質モニタリングより,十和田火山の活動の推移を把握する」ことの実現可能性が高いことが示されたものと考える.以上の様に,2019年度については観測回数こそ少なかったものの,計画の推進を支持するデータが多く得られており,今後,観測データを増やしていくことで,さらなる進展・進捗が期待されるものと考えている.
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度の活動より,本研究を推進していく上で解決すべき2つの課題が明らかとなった.一点は,十和田湖の深部に強い水の流れが生じていることであり,もう一点は冬季に調査船が出せないことである.この内,調査船の問題については,船の手配を依頼している委託先との打ち合わせの中で明らかになったもので,湖岸近辺が凍結する11月後半~翌年5月の期間は船を丘に上げているため,湖内における調査ができなくなる,という問題である.そこで今後は,深層と浅層の湖水が混合する時期にあたるとされる5月上旬(花石ほか,2004)や,その後に夏季型の成層状態が形成されていくまでの期間の採水調査の回数を増やすことで,湖水の循環や成層状態の変化に呼応するデータを取得できるよう調査方針に微修正を加えて対応することとする. また,湖水の流れの問題については,水中姿勢が傾斜した場合でも蓋が閉まるように採水器と係留ロープ間の距離が離れなくなるように改良を加えるほか,新たに水温と水深を測定できるデータロガーを購入し,採水器と共に採水深度まで下すことにした.これまでの観測より,湖水の流れによって採水器がかなり流されてしまうことが明らかになっており,正確な採水深度の把握が難しくなっている.導入を検討しているデータロガーでは,水深を圧力(水圧)で感知できるようになっているため,採水器が到達した正しい深度を知ることが可能である.また,強い水流が生じていることは,十和田湖の湖底からの熱流体の噴出など,湖水の温度分布を乱すような何らかの現象が存在している可能性を示唆しているが,データロガーによって深さ別の水温を明らかにし,十和田湖の温度断面図を作成することが出来れば,これらの問題に対しても重要な知見が得られる可能性は高いものと期待している.
|
Causes of Carryover |
「研究の進捗状況」等で述べた様に,2019年度は湖上における採水作業を1回しか実施できなかった.当初計画では,実際には調査船を出すことのできない時期であった冬の期間にも採水調査を考えていたこともあり,その分の出張旅費(約2万円/回),調査船の委託費(2万円/回),試料の分析外注費(約10万円/回)など,使用するはずであった予算を消費することなく初年度を終えることとなった.加えて,購入を予定していた物品の内,ケブラーロープ(450m)については,他大学において廃棄処分予定となったものを譲渡してもらい入手することができたため,15万円~20万円程度の出費を抑えることが出来た点も当初予定よりも少ない使用額となった理由の一つである. そこで次年度については,当初の研究計画時には購入を予定してなかった,水温・水深測定用のデータロガーを購入し,採水深度とその深度における水温を把握することで,より詳細なデータ解析を実施可能にしたいと考えている.このロガーについては本体価格が約20万円程度,データ回収および制御用のアダプター(ソフトウェア含む)が10万円弱することから,初年度に生じた次年度使用額を十分に消費しつつ,当初計画していた項目以上のデータを入手できる体制を整えた上で2年目の研究に取り組むことが可能となる.
|