2020 Fiscal Year Research-status Report
カルデラ湖の水質を用いた十和田火山活動モニタリング手法の開発
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19K04945
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
網田 和宏 秋田大学, 理工学研究科, 助教 (20378540)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大沢 信二 京都大学, 理学研究科, 教授 (30243009)
下田 玄 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究グループ長 (60415693)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 十和田カルデラ / 水素・酸素安定同位体比 / 化学組成 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の2年目となった2020年度は,8月,9月,10月の3回にわたり十和田湖の湖心における深度別の採水調査を実施した.前年度に発生した200m以深において採水器のばね仕掛けの動作不良が発生し,採水に失敗してしまう問題についても採水器を改良することで解消され,200m深および300m深における採水試料を全ての観測で得ることができた.また,水深および水温を連続的に測定できるデータロガーを入手し,これを採水器と共に湖内に下ろすことにより,実際に採水した厳密な深度を把握することが可能となったことに加え,十和田湖の温度プロファイルを得ることができた. 観測手法が確立されたことにより,湖心における作業が安定して行えるようになったことから,9月の観測時には,湖心の北側に位置する平均水深70mの1段目に陥没したカルデラエリアにおいても観測を実施した.表層,50m,100mの3地点で採水を行った他,温度プロファイル観測も実施し,湖心における観測結果と比較できるデータを取得した. 得られた試料については主要化学組成の分析が終了しておりデータ解析が進められている.一方で,新型コロナ・ウイルスの感染が拡大傾向にあり,強い行動制限が実施されていた上半期(春季~夏季)に関して現地観測を行えなかった点,分析担当者のいる産業技術総合研究所への出張(行動制限下における日程調整)が難しかったことから微量成分の分析が行えていない点,が主な課題として残された.ただし,微量成分に関しては化学的な前処理を終えた試料を保管できており,分析を待つだけの状態であることに加え,循環期の採水調査についても最終年に行うことで取り返すことの可能な課題であるといえ,研究計画に遅れが出てはいるものの,全体計画を変更する程の状況には無いと判断している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度の成果を受け,今年度は湖水の循環期にあたる5月や,その後に夏季型の成層状態が形成されていくまでの期間の採水調査の回数を増やすことで,湖水循環および成層状態の変化に呼応するデータを取得することを基本方針として掲げていたが,新型コロナ・ウイルス感染拡大の影響を受け,春季から夏季にかけての観測を行うことができなかった.そのような状況の中でも,夏季型の成層状態が形成されて以降の期間については繰り返し観測が行えており,以下に示す様な結果が得られた. (1)水温躍層以深の湖水温は深度と共に減少をみせ,水深70m付近で一度,極小値を取った後に,温度上昇の傾向に転じ,水深170m付近で約5.3℃と極大値を取り,その後は湖底水温の5.1℃に向けて徐々に減少していく構造であることが分かった.この温度構造は全ての観測で共通に確認された.(2)温度構造に呼応するように,主要なイオンの濃度は,50m深,100m深のものに比べ,200m深,300m深の採水試料の方が高い値を示した.また,数mg/L程度の違いではあるものの200m深から得られた水が最も高い濃度を示した.(3)最も深い,300m深から採水した試料水中にも数ppmの硝酸イオンが含まれていることが明らかになった.(4)水深の浅いカルデラエリアで測定された温度構造および溶存成分濃度については,湖心の100mまでに得られたものとほぼ一致する結果が得られた. (1)の温度構造については,過去にも同様の報告がなされた事例があるが,主要化学組成については今回,新たな知見が得られたと言える.また,硝酸イオン濃度が300m深の湖水からも検出されたことから,深部に滞留している湖水は還元的というよりは酸化的な環境にあることが示唆されており,深部湖水が置かれている環境を考察する上で重要な情報を得ることができたものであると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
2年間にわたって行われた調査より,湖心部における温度および主要化学組成の鉛直分布に関するおおよその特徴が明らかにされてきた.これらの結果を踏まえて最終年度となる2021年度は(1)春季~夏季までの湖水循環期およびその直後の期間に採水調査および温度プロファイル観測を実施し,湖内における水循環と溶存成分の移流・拡散の関係を明らかにすること,さらに(2)成層期に100mから200mまでの深度に対して多点の深度別採水を実施し,温度および溶存成分分布の詳細を明らかにすること,(3)水温の極大値が観測された160m深に滞留する水に含まれる炭酸成分の炭素同位体比および硫酸イオンの硫黄同位体比を測定し火山性流体との関連性を明らかにすること,の3点に重点を置いた観測を実施する. これらの調査事項が明らかになれば,十和田湖の160m深に存在していることが分かってきた水温の高い水塊に熱と溶存成分を供給しているものの起源が火山性であるのかどうかについて議論が可能になり,また,それらの成分が湖内でどのように循環しているものであるのか,という点についても知見が得られることになる.炭素同位体比,および硫黄同位体比の測定は,当初計画には含まれていなかったが,本研究課題によって溶存成分濃度が明らかになったことで,測定できる可能性が示唆されたため,急遽,測定を行うことにしたものである.また,これらの同位体と並行して,水の水素・酸素同位体比も,循環期と成層期とでそれぞれに試料を採取し,比較を行うことで,湖水循環に関する情報を得られるように試みる予定である. 以上のデータを得た上で,3年間で得られた成果を取りまとめて公表する.そして,これらの作業を通じて,湖水を用いた火山活動モニタリングの可否に関する評価,およびモニタリングに適したイオン種の選定と基準濃度などについて明らかにしていきたいと考えている.
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Causes of Carryover |
当初計画では,2020年度も引き続き現地に赴いての観測,および研究協力者の所属機関が所在する大分県および茨城県への分析のための出張を,共に複数回行う予定にしていた.しかし,これら旅費としての使用を予定していた分が,新型コロナ・ウイルスの感染拡大状況により大幅に減少せざるを得なかったため,使用額が予定よりも少なくなってしまっている. また,水の水素・酸素同位体比については初年度の結果より,表層と深部とで明瞭な違いを見出せなかったことから,湖水温の鉛直分布や溶存成分濃度,あるいは湖水の循環期と成層期の違いなど,他のデータから水の循環や混合の割合などに大きな違いが生じていると考えられる時期の試料間で比較を行った方が良いとの判断から,2020年度の試料については一時保管し,まだ分析を行っていない.最終年度はこれら保管試料も含めて,どの試料を分析対象すべきか取捨選択しながら,必要性の高いと思われる試料に対して優先的に委託分析を行う予定である.加えて,研究計画にも挙げたように,可能な場合には炭素同位体比および硫黄の同位体比の分析なども実施する予定であり,残された研究費についても,本課題を推進するための予算として適切な使用が見込まれる.
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