2021 Fiscal Year Research-status Report
カルデラ湖の水質を用いた十和田火山活動モニタリング手法の開発
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19K04945
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
網田 和宏 秋田大学, 理工学研究科, 助教 (20378540)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大沢 信二 京都大学, 理学研究科, 教授 (30243009)
下田 玄 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究グループ長 (60415693)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 十和田カルデラ / 水素・酸素安定同位体比 / 溶存化学組成 / 火山活動モニタリング |
Outline of Annual Research Achievements |
計画では研究の最終年にあたる2021年度であったが,前年度に引き続き新型コロナ・ウイルスの感染状況を鑑みた強い行動制限が継続されていたことに影響を受け,結果的に6月に1回の現地観測が行えたのみで,それ以外の研究活動については,実施できない状況のまま年度を終えることとなった.ただし,6月の観測時には,前年度までに改善を重ねてきた手法によって問題なく採水を行う事ができた他,鉛直方向の温度測定も実施できており,採水方式や観測手法について,試料やデータを取り漏らすことなく安定して実施できることを確認することができた.加えて得られたデータについても,過去2年間で示された傾向と矛盾のない結果が示され,考察および解釈を補強する知見が得られている. 2021年度に得られた試料と現地観測で得られている各種データについては,現在までに温度プロファイルの把握と主要化学組成の分析が終了しており,データ解析が進められている.一方で,研究分析担当者のいる産業技術総合研究所への出張(行動制限下における日程調整)が難しかったことから微量成分の分析が行えていない点と,2021年度に予定していた炭素同位体および硫黄同位体分析用の試料の採取が行えていない点などが主な課題として残された.この内,微量成分に関しては化学的な前処理を終えた試料を保管できており,分析を待つだけの状態であることから,最終年にデータを出すことが十分に可能な状態にある.また,炭素および硫黄の同位体分析についても現地調査に複数回,赴くことができれば採取が可能であることから,現状では研究計画に遅れが出てはいるものの,今年度,春季~秋季までに採水調査を順調に行う事ができれば,当初予定した研究計画を遂行することは十分に可能であると考えている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画の最終年度と位置付けられていた2021年度は,現地調査の回数を増やすことで,十和田湖における湖水循環への理解を深めつつ,特定の化学種について同位体測定を実施することで溶存成分に含まれる火山性流体の寄与に関しての知見を得ること,などを主な目的としていたが,結果的に新型コロナ・ウイルス感染状況による影響を受け,十分な現地調査を行うことができなかった.そのため,現地調査は1回しか実施できていないが,観測により得られた(1)水温躍層以深の湖水温は深度と共に減少をみせ,水深100m前後の水深で一度,極小値を取った後に,温度上昇の傾向に転じ,湖底付近で約5.0℃の水温を取る温度構造を有している点,(2)主要なイオン濃度は,50m深,100m深のものに比べ,200m深,300m深の採水試料の方が高い値を示した点,(3)最も深い,300m深から採水した試料水中にも数ppmの硝酸イオンが含まれていた点,などの特徴は,過去2年度の調査で明らかとなった知見とほぼ同じ傾向を示すものであった. 十和田湖の300m深の水温が常時5℃程度の値を示している点に加え,湖水表面と300m深における溶存成分の濃度差が,ナトリウムイオンや塩化物イオン,硫酸イオンで5ppm程度かそれ以上の差異として認められている点などは,現在の十和田湖の湖水よりも濃度の高い流体が湖底湧出している可能性を示唆する結果であるといえ,これは,本研究課題が当初に立てた作業仮説を支持するものである.これらの湧出流体に火山性の成分が含まれていることを化学・同位体データから示し,湖水循環の機構を明確化できれば,湖水を用いた火山活動モニタリング手法の確立に大きく寄与するデータが得られるものと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度については,ほとんど研究活動を推進できていないことから,基本的に今後の研究計画に大きな修正はない.したがって(1)春季~夏季までの湖水循環期およびその直後の期間に採水調査および温度プロファイル観測を実施し,湖内における水循環と溶存成分の移流・拡散の関係を明らかにすること,さらに(2)成層期に100mから200mまでの深度に対して多点の深度別採水を実施し,温度および溶存成分分布の詳細を明らかにすること,(3)成層期に水温の極大値が観測された160m前後の水深に滞留する水に含まれる炭酸成分の炭素同位体比および硫酸イオンの硫黄同位体比を測定し火山性流体との関連性を明らかにすること,の3点に重点を置いた観測を実施する予定である. これらの調査事項が明らかになれば,十和田湖の160m前後の深さに存在していることが分かってきた水温の高い水塊に熱と溶存成分を供給しているものの起源が火山性であるのかどうかについて議論が可能になり,また,それらの成分が湖内でどのように循環しているものであるのか,という点についても知見が得られることになる.炭素同位体比,および硫黄同位体比の測定は,当初計画には含まれていなかったが,本研究課題によって溶存成分濃度が明らかになったことで,測定できる可能性が示唆されたため,急遽,測定を行うことにしたものである.また,これらの同位体と並行して,水の水素・酸素同位体比も,循環期と成層期とでそれぞれに試料を採取し,比較を行うことで,湖水循環に関する情報を得られるように試みる予定である. 以上のデータを得た上で,これまでに得られた成果を取りまとめて公表する.そして,これらの作業を通じて,湖水を用いた火山活動モニタリングの可否に関する評価,およびモニタリングに適したイオン種の選定と基準濃度などについて明らかにしていきたいと考えている.
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Causes of Carryover |
当初計画では,2021年度も引き続き現地に赴いての観測,および研究協力者の所属機関が所在する大分県および茨城県への分析のための出張を,共に複数回行う予定にしていた.しかし,これら旅費としての使用を予定していた分が,新型コロナ・ウイルスの感染拡大状況により大幅に減少せざるを得なかったため,使用額が予定よりも少なくなってしまっている. また,水の水素・酸素同位体比についてはこれまでの結果より,表層と深部とで明瞭な違いを見出せなかったことから,湖水温の鉛直分布や溶存成分濃度,あるいは湖水の循環期と成層期の違いなど,他のデータから水の循環や混合の割合などに大きな違いが生じていると考えられる時期の試料間で比較を行った方が良いとの判断から,2021年度までの試料については一時保管し,まだ分析を行っていない.最終年度はこれら保管試料も含めて,どの試料を分析対象とすべきか取捨選択しながら,必要性の高いと思われる試料に対して優先的に委託分析を行う予定である.加えて,研究計画にも挙げたように,可能な場合には炭素同位体比および硫黄の同位体比の分析なども実施する予定であり,残された研究費についても,本課題を推進するための予算として適切な使用が見込まれる.
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