2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of The Flood Disaster Education System utilizing Augmented Reality Based on Reliable Physical Law
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19K04971
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Research Institution | Aichi University of Technology |
Principal Investigator |
板宮 朋基 愛知工科大学, 工学部, 教授(移行) (60583896)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小笠原 敏記 岩手大学, 理工学部, 教授 (60374865)
村上 智一 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 水・土砂防災研究部門, 主任研究員 (80420371)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 拡張現実 / 防災教育 / 数値計算 / 水理 / シミュレーション / スマートフォン |
Outline of Annual Research Achievements |
津波や洪水などの氾濫浸水災害の危険性を「自分のこと」として実感するために,ARの技術を活用した防災教育は有用である.近年の技術革新によって,ARにおける表現力は大幅に向上し,現実との違和感が少ないリアルなCG表現も可能になった.しかし,物理法則的に正しくない表現は体験者に誤解を生じさせ,悪影響を及ぼす懸念もある.本研究では,平時における災害への危機意識の向上を目的として,相似則を満たした水理模型実験で得られる漂流物の移動や回転速度の実測データや津波・高潮氾濫の数値計算シミュレーションで得られる高精度な氾濫浸水情報など,確かな物理法則に基づいたAR氾濫浸水災害教育システムの構築を行う. 本年度行った漂流物の挙動特性に関する水理模型実験では,フルードの相似則を満たし,重心位置を考慮した模型を作成して実験を行った.データ解析には,DLT法(Direct Linear Transformation method)を用いて漂流物の3次元的な移動および回転速度等の実測データを取得し,実スケールの値に変換したデータを本システムに反映させた. また,通常計算に使われる地盤データDEM(Digital Elevation Model)ではなく,建物の高さも含む標高データDSM(Digital Surface Model)を用いて氾濫計算を行い,建物や道路の立体的な影響を考慮した高解像・高精度な浸水深・氾濫速度・流速の計算を,名古屋港地区において試行した. これらの水理模型実験と数値計算の結果を反映させるためのAR氾濫浸水災害教育用アプリの開発を開始した.一般的に入手が容易なApple iPhone XS,XR,11,11Proにて稼働するため,汎用性が高い.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
相似則を満たした水理模型実験で得られる漂流物の移動や回転速度の実測データの取得や津波・高潮氾濫の数値計算シミュレーションで得られる高精度な氾濫浸水情報の入手は順調に進捗している.計測区間が長さ10m,幅1m,高さ0.8mの開水路(岩手大学所有)を用いて行った.3Dプリンタで自動車やコンテナなどの漂流物を縮尺1/25で精巧に作成し,定常流・段波を発生させ,同期させた4台の高速度デジタルビデオカメラより,単体および複数での漂流物の3次元的な運動を撮影した.異なる角度で撮影した複数の同期画像を基に,DLT法を用いて漂流物の3次元空間座標を算出し,移動・回転速度等を算出した.また,非構造格子に基づく海洋流動モデルFVCOMを用いて,伊勢湾湾奥部の高潮浸水計算を実施し,その適用性と有用性について検証できた. これらから得られた物理法則を反映させるAR氾濫浸水災害教育用アプリの開発は予想以上に順調に進捗している.2019年7月にApple社が公開したARアプリ開発環境の最新版であるARKit3の仕様を解析したところ,iPhoneの内蔵カメラのみで実空間の人物の輪郭を自動抽出し,人物の背後にはCGを描画しないリアルタイム・オクルージョン処理が可能であることが判明した.AR浸水疑似体験を実装したところ,リアリティの向上に必須な高精度なオクルージョン表現がiPhone XS, XR,11,11Proで可能になった.続いて,水流の流速を任意に変化できる機能と瓦礫が流れて来る表現を追加した.水位は,スマートフォンの現在位置情報をサーバ(WebAPI)に送信し,サーバに保存されているその位置の想定浸水深情報を受信した結果を反映できる機能を実装した.アプリ試作版を,2020年3月に,東京都三鷹市立第七小学校および同市立高山小学校における防災教育において実用し,評価データの分析を行っている.
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Strategy for Future Research Activity |
1st Phaseの項目として,今後も漂流物の挙動特性に関する水理模型実験や,建物や道路の立体的な影響を考慮した高解像・高精度な浸水深・氾濫速度・流速の計算を継続し,精度の向上を図る. 2nd Phaseの項目として,1st Phaseで得られた諸物理量を,新規に開発する防災情報サーバに蓄積する.自治体から提供されるハザードマップのGISデータを利用し,GPS内蔵スマートフォンから位置情報(緯度・経度)を指定することによって,サーバに保存された想定浸水深や水流の方向・速度,想定漂流物の諸物理量をリアルタイムに返信可能なWeb-APIを構築する. 3rd Phase の項目として,AR氾濫浸水災害疑似体験アプリの開発を継続する.2019年度はApple iPhoneを用いてリアルタイム・オクルージョン処理によるリアルな浸水表現を可能にし,既存の国土交通省運営のWeb-APIへの接続と双方向通信を可能にしたが,2020年度は新たに開発するWeb-APIとの接続を実現させる.2020年4月から発売された新型iPad Proには赤外線センサLiDARが搭載され,精密な空間認識によるリアルタイム・オクルージョン処理の高性能化に貢献できると考えられる.次期iPhoneには同センサが搭載されるとの情報もあることから,LiDAR対応バージョンアップを行う. 4th Phase として,氾濫浸水災害没入体験型防災教育の実施と評価を行う.バージョンアップしたAR氾濫浸水災害疑似体験アプリを学校や地域の防災訓練において用いる.東京都三鷹市立高山小学校からは2021年2月における実施依頼があるため,ウイルス感染対策を徹底した上でアプリの実用を行い,アンケート調査による評価を得る.また,評価結果の定量的分析も行う.生体計測(脈拍・血圧・脳波等)の具体的な実施方法や使用機材について選定を行う.
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