2019 Fiscal Year Research-status Report
結晶方位解析における対数角(回転行列の対数の成分)の有用性
Project/Area Number |
19K04985
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
尾中 晋 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (40194576)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 結晶方位 / 転位組織 / 回転行列 / 対数角 / オイラー角 |
Outline of Annual Research Achievements |
不均一な塑性変形による転位組織は結晶内での方位変化をもたらすが,従来の研究におけるこのような方位変化の解析はスカラー的な回転角度であるミスオリエンテーション角の評価に限られていることが多い.しかし,そのような評価のみでは,変形や回転のテンソル性を踏まえて結晶方位変化の要点を十分に議論することはできない.そこで本研究では,方位変化を示す回転行列の対数を取ることで得られる三つの独立な実数成分,対数角が,回転角の成分であり,材料中の結晶方位変化の本質的な考察を可能にする有用な特性角であることを示し,結晶方位変化の議論に応用する. 本年度は,回転行列の対数の三つの独立な実数成分,対数角を成分とする対数角ベクトルについての考察を行った.回転行列R1とR2で与られる2つの回転の積,Rp=R1R2について,これらの3つの回転に対する対数角ベクトル,それぞれ wp, w1そしてw2のあいだの関係を評価した.結晶性材料中で塑性変形によって生じる大きさ程度の結晶回転の場合,対数角ベクトルのあいだには精度の良い近似式として,wp=w1+w2 が成立することを示した.この関係式は,塑性変形による方位回転を転位論によって考察する際に極めて有用である.銅双結晶の圧延に伴う方位変化を実験的に測定し,この方位変化を結晶中の転位組織と対応させて説明することにより,導出した対数角ベクトルについての近似式の有用性を示した.この成果は論文として国際誌に掲載された. また,導出した対数角ベクトルについての近似式は,粒界三重線部や粒界四重点部における結晶粒間の方位関係を議論するための計算にも応用された.近似式を用いることにより,多くの結晶粒間の方位関係を評価するための計算時間を極めて短くすることができた.この成果も論文として国際誌に掲載された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
結晶方位変化には材料中の転位組織を評価するために有用な情報が含まれるものの,その情報を扱うためには結晶方位についての測定結果を適切に解析することが必要になる.この方位解析を3次元直交座標に対しての回転の成分性に注目して行うことが本研究の方針になっている.そして,方位変化を示す回転行列の対数を取ることで得られる三つの独立な実数成分,対数角が,ある軸周りのある角度の回転を3次元直交座標における基準軸周りの回転成分へと分解した結果であることを示してきた. 本年度は,三つの対数角を成分とする対数角ベクトルについて,幾何学からの理論的な考察,そして実験結果の解析への応用という2つの課題に取り組み,それぞれについて国際誌での論文公表という明確な成果を得た.これらは,今後,対数角および対数角ベクトルが確かな概念であることを研究コミュニティと産業界に提示し,これらが材料の状態評価のために有用であることを示す課程が達成できていることを意味する. また,これまでの銅双結晶に加え,超微細結晶粒で構成される多結晶銅も対数角による方位変化解析の実験的な対象に加えるため,超強加工による試験片の準備を完了することもできた.これらにより,今後の多様な実験結果の提示による対数角および対数角ベクトルの有用性の実証に必要な段階を遂行できた.
|
Strategy for Future Research Activity |
材料中の結晶方位変化と転位組織との関連性評価を合理的に行うことができれば,構造材料の余寿命評価を非破壊的に行うことができ,社会に大きく貢献することができる.そこで,これまでに行ってきた対数角,そして対数角ベクトルについての考察,そしてそれらによる材料中の方位変化の理論的解析を更に推進する.この理論的推進のためには実験による実証が不可欠であるため,今後は実験に注力する割合を高めることを現時点では計画している.具体的には,局所的な塑性変形とそれによる方位変化,転位組織形成を評価するため,単結晶や微細結晶粒材料を対象にして,硬さ試験とそれによる圧痕周辺の方位変化を調べる予定にしている.また,方位変化の実験的な評価についても,これまでの二次元的な面内方位測定に加え,FIB加工の併用による深さ方向での方位変化測定といった三次元的な方位評価も視野に入れた実験計画を立案中である. 微細結晶粒材料における塑性変形と方位変化は,そこに密度高く含まれる結晶粒界の影響を受けるため,実験結果の解析には多くの因子についての考察が必要になる.多くの成果が得られてきたこれまでの理論的手法に加え,新たな視点からの理論的考察も導入し,この考察をさらなる挑戦として行っていく.
|