2020 Fiscal Year Research-status Report
CALPHAD法による融体のギブスエネルギーを用いた酸化物ガラスの特性評価
Project/Area Number |
19K04996
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
菅原 透 秋田大学, 理工学研究科, 准教授 (40420492)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ホウケイ酸塩ガラス / ガラス融液 / 熱容量 / 熱力学データベース / CALPHAD |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,相平衡関係を熱力学的に解析して熱力学データベースを構築するCALPHAD法の解析が飛躍的に進展した.ガラス産業においても,ガラス製造プロセスにおける熱力学データベースの応用が期待されている.本研究は既存の熱力学データベースの過冷却融体やガラスに対する応用の可能性を検証すること,並びに物性や熱力学性質が複雑に変化するホウケイ酸塩メルトについて,汎用的な熱力学データベースを構築することを目的としている. B2O3はガラス材料の主成分であるが,高温の液相温度・組成と低温側の分相や熱容量の温度・組成変化を再現することができる熱力学モデルはまだ報告されていない.そこで2020年度は,ホウケイ酸塩メルトとしての最も基本的な組成であるSiO2-B2O3-Na2O系の5組成のメルトについて熱容量を測定した.測定は室温から600℃の範囲に対して示差走査熱測定(DSC),600℃-1200℃の範囲に対して落下法熱量測定(DC)により行なった.これらの測定結果を既報の熱容量測定の結果と組み合わせて解析し,次のことを明らかにした.(1) B2O3<20mol%のとき,SiO2>70mol%において熱容量は正の温度依存性,SiO2<70mol%において負の温度依存性を示す.(2) B2O3>20mol%ではSiO2量によらず熱容量には温度依存性が見られなくなる.(3) B2O3の部分モル熱容量は, SiO2/B2O3が増加するにしたがって,比例するように増加し,SiO2/B2O3>2を越えると負の温度依存性を示し始める.ただし,研究期間の途中で落下型熱量計の検出器が経年劣化により破損してしまい,測定は当初予定の半分しか実施することができなった.そのため,熱容量を温度と組成の関数として定式化するためには,これらの組成のメルトについて,さらなる相対エンタルピーの測定が必要である.今後,測定された熱容量の値を熱力学データベースに組み込むとともに,低温領域での分相についても再現するように既存のデータベースを改良していく予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度研究ではMCC-3試験を行い,ガラスの耐水性は熱力学データベースを用いておおよそ予測可能であることを明らかにした.また,ガラス形成能の評価に関しては現状のデータベースで適用可能な範囲と課題を明らかにすることができた.2020年研究では,これまで不明な点が多かった,SiO2-B2O3-Na2O系メルトの熱容量について,その温度・組成依存性の傾向を明らかにすることができた.これらのことから,CALPHAD法データベースの応用法の検証という当初の目的の一部は達成され,また実用化のための改良についても準備が整ったとものと考えている.ただし,落下型熱量計の故障のために,実験データの蓄積がやや遅れているのが現状である.
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 落下型熱量計を修理したのち,SiO2-B2O3-Na2O 系メルトの相対エンタルピーについて追加の測定を行い,熱容量の定式化を行う.それらの結果を低温領域での分相データと組み合わせて解析し,ホウケイ酸塩メルトに対して汎用的活用できるような熱力学データベースを構築する.
(2) Al2O3を含むメルトのギブズエネルギーについて,現在のデータベースに収録されている熱容量データを再点検し,必要に応じて改良・修正をする.その上で,SiO2-RAl2O4系の過冷却メルトのギブズエネルギーを再度計算し,結晶化範囲との対応関係を調べる.
(3) 国際ガラスデータベース( INTERGLAD)に収録されているガラスの耐水性試験のデータを用いて初年度と同様な方法で平衡定数を計算するとともに,熱力学データを用いて計算される溶解ギブズエネルギーと比較し,CALPHAD法データベースの汎用性を検証する.
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Causes of Carryover |
2020年度は研究期間の途中で落下型熱量測定装置が故障し,計画の半分しか測定をすることができなかった.そのため,発熱体や白金るつぼのような実験部品の購入が不要となり,予算が余ることになった.2021年度研究ではこれらの物品を購入して実験を進める.また,示差走査熱量計の検出器のリプレースを予定している.
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Research Products
(1 results)