2019 Fiscal Year Research-status Report
酸化物イオン伝導性をもつ蛍光体を用いた新規発光デバイスの開発
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19K05012
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
京免 徹 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (10323841)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | エレクトロルミネッセンス / セラミックス / 酸化物 / 薄膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は論文1報が学術誌に掲載された.その論文の概要は次の通りである.(In0.975Sn0.025)2O3[以下,ITO]薄膜を陽極,Sn0.95Sb0.05O2[以下,ATO]薄膜を陰極,(Ca0.6Sr0.4)0.998Pr0.002Ti0.9Al0.1O3-d[以下,CSTO:Pr,Al]薄膜を発光層とした酸化物エレクトロルミネッセンス素子をゾルゲル・焼成法によりサファイヤ基板上に作製した.この素子に一定の直流電流を注入し,電極間の電圧,発光強度(輝度),発光効率の時間依存性を測定したところ,その時間依存性は電気化学発光セルに特有の挙動を示した.電気化学発光セルとは,電圧により発光層内のイオンが移動することで発光層がp型半導体領域とn型半導体領域に分離し,電極から電子とホールが注入され,その再結合により発光する素子である.したがって,本研究の結果は,上記の酸化物エレクトロルミネッセンス素子が電気化学発光セルと同様なメカニズムで発光していることを強く支持している.このとき移動するイオンは酸化物イオンしか考えられない. 本年度は4件の研究発表を行った.そのうちの2件の発表については現在論文を執筆中であり,その概要を次に述べる.ITO薄膜を陽極,ATO薄膜を陰極,発光中心であるPrの位置を制御したCSTO:Pr,Al薄膜を発光層とした酸化物エレクトロルミネッセンス素子をゾルゲル・焼成法によりサファイヤ基板上に作製し,その電気・発光特性を調査した.その結果から,陽極から注入されたホールはPr3+イオン上にトラップされ,そこで陰極から注入された電子と再結合して Pr3+が励起状態になり発光するというメカニズムを提案した.その他に,電子ブロック層導入の効果やCa0998Bi0.002TiO3を発光層とした酸化物エレクトロルミネッセンス素子の研究成果について発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ITO薄膜を陽極,CSTO:Pr,Al薄膜を発光層とし,本年度の予算で購入した真空蒸着装置を用いて製膜した銀またはアルミニウムの薄膜を陰極とした酸化物エレクトロルミネッセンス素子を作製し,その電気・発光特性を調査した.銀およびアルミニウム薄膜を陰極とした素子はいずれも,ATO薄膜を陰極とした素子に比べ,電流が流れ始める電圧が高く,発光強度も低かった.アルミニウムは仕事関数が小さいため,より低電圧から電流が流れ始めることを予想していたが,むしろ逆であった.また,銀はアルミニウムよりも仕事関数が大きく,銀とアルミニウムとでは電流が流れ始める電圧に大きな差が出ることを予想していたが,結果に大きな差はなかった. また,陰極,陽極ともに同じITO薄膜とした素子を作製し,その電気・発光特性を調査した.この素子は,ATO薄膜を陰極,ITO薄膜を陽極とした素子と比べて,電流は同程度の電圧から流れ始め,発光効率は5-8倍高かった.金属電極よりも酸化物電極のほうが電極と発光層の界面の酸化物イオンが移動しやすいのではないかと考えている. 本研究の目的は,CSTO:Pr,Alを発光層とする酸化物エレクトロルミネッセンス素子の発光メカニズムの検証と高輝度・高発光効率を得るための素子の作製方法や構造を明らかにすることである.上記の研究実績と進捗状況から,本年度はおおむね順調に成果が得られているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度得られた期待以上の成果として,ITO電極を陽極と陰極の両方に用いることで発光効率が大きく向上することがあげられる.酸化物電極は,高い化学的・物理的安定性に加えて,透明であるという特徴をもつ.今後はこの特徴を生かした耐久性の高い透明発光素子の開発を検討していく.現在,ゾルゲル・焼成法によりITO薄膜を上部電極(陰極)として作製するには,いくつかの克服すべき課題がある.まず,上部電極と下部電極が電気的にリークする確率が高いことである.次に,パターニングがATO薄膜よりも難しいことである.後者の課題は,リソグラフィとエッチングの技術を使って克服できる.前者の課題は,発光層の緻密度や割れの存在などを調査し,焼成条件等を最適化することで克服を目指す. 本研究で提案している発光メカニズムが正しければ,電子とホールを狭い空間に閉じ込めることで発光効率が大幅に向上するはずである.これについては様々な電子ブロック層を導入して実験を行っているが,明瞭な成果はまだ得られていない.これについても,材料の探索や最適な素子構造について検討を進める. CSTO:Pr,AlのAl3+をMg2+に代えると酸素欠損量が増える.そこで,(Ca0.6Sr0.4)0.998Pr0.002Ti0.9Mg0.1O3-d;を発光層とした素子を作製し,その電気・発光特性を調査する.その結果から,発光メカニズムのさらなる検証を進めるとともに,高発光効率を得るための方法を検討する.
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Causes of Carryover |
残額が少額であり,次年度へ繰り越したほうが適切に使用できると考えたため.
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Research Products
(5 results)