2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of innovative thermoelectric materials based on the strongly-correlated electron system in transition-metal oxides
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19K05019
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
加藤 将樹 同志社大学, 理工学部, 教授 (90271006)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
廣田 健 同志社大学, 理工学部, 教授 (30238414) [Withdrawn]
道岡 千城 京都大学, 理学研究科, 助教 (70378595)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 量子臨界状態 / 熱電変換材料 / コバルト酸化物 / デラフォサイト型酸化物 / 置換型固溶体 |
Outline of Annual Research Achievements |
「量子臨界現象を伴った電導性制御およびスピンフラストレーションの効果により,高熱電特性をこれらの化合物で実現できるか」,この学術的課題に答えることが,本研究の目的である。今年度は主にデラフォサイト型酸化物(一般式ABO2 (A = Cu+, Ag+,B = 3価のカチオン),六方晶構造)に着目した。この化合物は,O-A-Oのダンベル構造と稜共有したBO6八面体からなる層状構造を持ち,A, Bサイトともに三角格子を形成する。したがってスピンフラストレーション(SF)による磁気ゆらぎが,熱電特性の向上をもたらすと考えられている。AサイトにCu,BサイトにFeが入るCuFeO2化合物は, p型熱電材料として期待されている。しかし,CuFeO2の熱電特性のメカニズムについては明らかにされていない。そこで本研究では,CuFeO2の磁気特性や熱電特性に関して,Feサイトへの他元素置換効果を調べるため,CuFe1-xMxO2(M = Cr ,Al )試料を合成し,どのように影響を及ぼすのかを詳細に検討した。 以下,CuFe1-xCrxO2 (x = 0.0~1.0)について述べる。すべての組成で単一相が得られ,全率固溶が確認された。a軸長,c軸長ともに置換量が増加するにつれて減少した。x = 0.0~1.0において,置換量xの増加に伴って磁化率の絶対値の減少が観察された。また, x = 0.0,1.0では反強磁性転移があり,磁気的な短距離秩序が確認された。熱電特性測定の結果,Cr置換により電気伝導率はx = 0.01で最大値を示し,置換量の増加に伴って低下,ゼーベック係数は置換量の増加に伴って増加した。また,熱伝導率はx = 0.6で最小値をとり,両端の組成付近で向上した。性能指数ZTは,x = 0.05,840 Kにおいて最大値2.23×10-2を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実績概要で述べたデラフォサイト相の他,(1) BaTiO3相,(2) SrTiO3相,(3) Ca3Co4O9相など様々な化合物について試料合成を試みた。(1)についてはTiサイトへのRu元素置換(Ruに対して約80%),(2)においてSrサイトへのNb元素置換(約5%),(3)についてはCaサイトへのRb元素置換(約40%)の範囲で単一相の合成に成功した。(1) では電気伝導性σは向上したものの,ゼーベック係数Sならびに熱伝導率κはあまり変化せず,熱電変換特性における無次元性能指数(ZT)はおよそ0.01程度,(2) でも同様にσは向上したものの,やはりZTは10^(-3)程度と低い値となった。しかしながら,(3)の系では高いゼーベック係数Sを維持したまま,電気伝導性σの向上を図ることができ,ZTが0.5を超える試料が得られるなど,大きな成果につながる端緒を掴んでいる。また,一部の結果は既に特許申請を終えている。今後は他の置換元素の検討,熱処理条件のさらなる検討による固溶域の拡大を計画している。さらに現在,パルス通電加圧法により,得られた試料の緻密化を進めており,それによってさらなるσの大幅な増大と,ZTの向上を見込むことができる。このように大きくZTを向上させ,応用研究への展開も可能となったのは,昨年度の結果を十分に考慮し,元素戦略を再度検討した結果得られたものである。その意味では,置換型固溶体の合成ならびにZTの大幅な向上が達成されたCa3Co4O9相は,今後の実用化材料への展開が十分に可能なレベルにあると考えられる。以上,種々の新規置換型固溶体作成の成功,ならびに高熱伝特性材料開発への展望を得たことが,昨年度から引き続いて,本研究における主要な進捗であり,当初の目的と照らし合わせて概ね順調と判断した理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に引き続き,新規置換型固溶体の探索と単一相合成条件の確立を目指す。現在遂行中の化合物は,進捗状況でふれた,Ca3Co4O9相における他の置換元素の検討,熱処理条件のさらなる検討による固溶域の拡大を計画する。本化合物系において,元素置換をしていない系については,パルス通電加圧焼結の手法を用いた試料合成が行われているが,置換型固溶体については,今のところパルス通電加圧焼結の手法を用いた試料合成,ならびに電気伝導性を向上させるような緻密化の報告例がなく,本研究における挑戦的な課題の1つとして考え,積極的に新材料の開発を展開していく所存である。 得られた単一相試料について,引き続き,マクロな電気的・磁気的・熱的特性評価を進める。特に高温における熱伝導率測定や,今年度は詳細に行えなかった極低温におけるホール効果などの評価も行い,熱電特性を詳細にかつさらに多角的に評価を進めていく。さらに得られた試料について,および遷移金属原子核の NMR 測定を行い,各サイトの微視的な電子状態を観察し,スピンダイナミクスとマクロな物性との関連を詳細に調べる。これも予備実験として,Co核の信号を増強するために,既に試料配向の方策の検討を開始している。このようなCa3Co4O9相における熱電変換特性の向上と,スピンフラストレーションとの関連を明らかにするために,これらの化合物における基底状態におけるスピンダイナミクスについての情報を得たいと考える。さらに,研究の進捗によっては外部機関を利用して中性子回折・散乱実験を行い,NMR で得られた情報と相補的にスピンダイナミクスの詳細を検討する。 さらに高熱電特性を有する試料が得られれば,シーズ研究として積極的に外部に紹介し,熱電変換デバイス作成に向けた実用化に貢献したい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は,主に新型コロナウィルスの影響により,約2ヶ月実験が遂行できなかったためである。また,実験再開後も,特にCa3Co4O9相の合成が思ったように進捗せず,予定していた量子干渉磁束計(SQUID)の実験等を繰り延べたため,それに必要なヘリウムガスや液体ヘリウムの調達が遅れ,繰越せざるを得なくなった。昨年度からの供給不足の状況は依然として改善の兆しがないが,現在合成は順調に行っており,繰越分を主に薬品などの翌年度分物品費として計上する予定である。
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Research Products
(10 results)