2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K05066
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Research Institution | Aichi Institute of Technology |
Principal Investigator |
松井 良介 愛知工業大学, 工学部, 准教授 (00632192)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 形状記憶合金 / TiNi合金 / 傾斜機能材料 / 耐食性 / 疲労 |
Outline of Annual Research Achievements |
高機能TiNi形状記憶合金の開発と応用を推進すべく,傾斜機能TiNi形状記憶合金および高耐食性TiNi形状記憶合金ワイヤについて,材料工学的・材料力学的観点から開発を行った.その結果,主に以下の成果を挙げた. (1)Ni混合割合が段階的に変化するよう粉末を積層して作製した焼結体に圧下率30%の熱間圧延と5%の冷間圧延を行い,その後773K,3.6ksの形状記憶熱処理を行うと,冷間圧延で導入された加工硬化の影響が減少する.即ち,加工硬化を効果的に導入するためには形状記憶熱処理の後に冷間圧延を行う必要がある. (2)上記(1)の方法で焼結したTiNi形状記憶合金に30%の熱間圧延と形状記憶熱処理の後に1%の冷間圧延を施すと加工硬化が現れ,Ni濃度に応じた変形抵抗の分布が材料内に観察される.しかしながら材料両端における変形抵抗の差が小さいため,今後はこの点の改善に取り組む. (3)市販のTiNi形状記憶合金線材に電解研磨を施すと微細な凹凸が取り除かれ,極めて平滑な表面性状を得ることが可能である.この材料の耐食性は未研磨材と比較して高い.さらに,同材料では腐食環境での曲げ疲労寿命が著しく改善する.これは表面平滑化と数nmのごく薄い不動態皮膜の効果である. (4)市販のTiNi形状記憶合金線材に適切な条件で超音波ショットピーニングを施すと腐食環境での疲労寿命が改善する.これは表面改質による耐食性の向上と圧縮残留応力付与の効果である.今後は超音波ショットピーニングと電解研磨を組み合わせることによって更なる腐食疲労寿命の向上を目指す.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
傾斜機能TiNi形状記憶合金の開発では,熱間圧延と冷間圧延,熱処理の順序や条件によって引張変形特性に大きな違いが現れることを明らかにした.特に冷間圧延による加工硬化がその後の形状記憶熱処理で消滅することを新たに明らかにしたことは,今後の研究方針の立案に有益な成果である.また,デジタル画像相関法による局所ひずみ分布の測定方法にも目途が立った.この手法を用いることによって,適切なプロセスで作製したTiNi形状記憶合金焼結体ではNi濃度に応じて変形抵抗が連続的に変化することを明らかにすることができた.一方で,当初の狙い通りの変形抵抗の傾斜は得られていない.即ち材料両端における変形抵抗の差異が小さいことがわかった. 高耐食性TiNi形状記憶合金ワイヤの開発では,電解研磨や超音波ショットピーニングにより耐食性が向上し,腐食環境での疲労寿命が改善することを明らかにした.これらの成果は当初の計画通りである.しかしながら,電解研磨の後に熱窒化処理を行って均一な厚さの不動態皮膜を生成させたTiNi形状記憶合金ワイヤにおいては,納入材と同等以下の腐食疲労寿命になることがわかった.このプロセスで作製したワイヤが最も腐食疲労寿命が長くなると期待していたため,寿命低下の原因を究明する必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
傾斜機能TiNi形状記憶合金の開発では,変形抵抗の傾斜を強める,即ち材料両端での変形抵抗の差を大きくとる方策について検討する.現在のところ,大きな差が現れないのは位置による圧下率の違いによる可能性があると考えている.圧延前に変形抵抗が高い位置ではその後の圧延が効果的に行われず,反対に変形抵抗が低い位置では圧延による板厚減少が生じやすく,加工硬化しやすい.そのため圧延を行う度に各位置における変形抵抗が均等化されるとの仮説である.今後はこの点を検証する. 高機能TiNi形状記憶合金ワイヤの開発では,電解研磨の後に10nm程度のごく薄い不動態皮膜を熱窒化処理によって生成し,電解研磨材以上の腐食疲労寿命を達成する.現在の熱窒化処理条件では200nm程度の比較的厚い皮膜が生成することが明らかになったため,薄く不動態皮膜を生成させるための条件最適化が必須である.
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Causes of Carryover |
新規導入機器の仕様を見直し,費用の削減に努めたことによる.次年度は本未使用額を活用し,申請時の計画に対して材料購入費を増額する.この対応によって余裕を持った実験計画に改める.
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