2019 Fiscal Year Research-status Report
セラミック粒子添加プレス油の高潤滑メカニズムの解明
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19K05095
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
安部 洋平 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60402658)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | セラミック粒子添加油 / 焼付き / しごき加工 / 直接観察 / ガラスダイ / 潤滑メカニズム / 加工界面 / 接触状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
電気自動車,ハイブリット自動車に欠かせない電池容器のプレスによる大量生産が急務であり,それにはプレス加工に用いられる環境負荷の大きい塩素系物質が添加されている潤滑油の代替えが望まれている.プレス加工のなかでも,成形品の表面拡大率と金型面圧が高く,焼付きの生じやすいしごき加工が問題である.本研究では,塩素系潤滑油の代替えとなれそうなセラミック粒子添加しごき加工油を提案するために添加プレス油による潤滑メカニズムの調査,有効な条件を明確にする.合わせて,加工界面の接触状態のモニタリング,粒子埋設による成形品表面の硬さ向上を試みる. 具体的な目的は,1.しごき加工界面における粒子侵入による直接接触の抑制条件,および,2.それを実現するプレス加工における有効な条件の範囲の明確化であり,前者は,(1)しごき界面の観察装置による直接観察:焼付き抑制に寄与するしごき加工界面の添加粒子の挙動の把握,(2)しごき界面の接触状態の調査である.後者は,主に焼付き抑制に有効な粒子添加油の最低の動粘度,および,成形品表面の高硬度化に有効な添加粒子,添加量の加工条件とそれらの理由を明確にすることである. 2019年度では,1.粒子侵入による直接接触の抑制条件の(1)プレス界面の観察装置による直接観察を実施するための平板しごき加工機を設計,製作した.平板しごき加工では,セラミック粒子添加油を用いたしごき加工のガラスダイと素材の界面におけるセラミック粒子の挙動をカメラにより撮像し,観察することができた.一部の条件において真実接触部と思われる部分へのセラミック粒子の侵入,成形品への埋設,凝集していたセラミック粒子の破砕のような挙動が観察できた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度では,主に1.粒子侵入による直接接触の抑制条件の(1)プレス界面の観察装置による直接観察を実施するための平板しごき加工機を設計,製作した. 平板しごき加工機の設計について.本研究の着手前に実施した据込み加工界面のガラスダイによる直接観察では,軟質な焼鈍されたアルミニウムを100MPa程度まで圧縮できた.同じ材質のまま,更に高いしごき率を得るとともにたわみを減らし観察しやすくするために厚い5mmのガラスダイを用い,広い範囲の界面を観察できるようにダイの傾斜角度を5°に設定した.先の研究で油の粒子挙動を観察できた対物レンズ50倍(既存),高速度カメラ(既存),ハロゲン式照明(既存)を用いて,直動のアクチュエータ(既存)で数%のしごき率を上限として調整できるように設計した.夏頃から製作し,冬頃には始動できた.しかしながら,いくつかの問題が発生した.まずは暗くて見えなかった.高速度カメラのシャッタースピードに対してハロゲン式照明の明るさが足りなかった.照明の足りる範囲で加工速度を遅く,シャッタースピードを下げた.この点の他の改善法には明るいメタルハライドランプ式照明,高感度撮影が可能な高速度カメラへの変更がある.次に,像はかなりぼやけており,粒子が判別できなかった.この解決に長い時間と手間を要し,主な原因はガラスダイの厚さであった.薄いガラスで回折が緩和されて像がより明瞭になり粒子の挙動が観察できるようになった.この対処によりしごき率が1%未満程度となって数%のしごき率でガラスが割れて観察できない状況になった.今後の改善法には,ダイ周辺の剛性を上げることなどがある. 以上のように,低いしごき率ながら界面を観察できる装置が開発でき,一部の条件において真実接触部と思われる部分へのセラミック粒子の侵入,成形品への埋設,凝集していたセラミック粒子の破砕のような挙動が観察できた.
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況で示したように,最低限の微小なしごき率で界面観察ができ始めている状態であり,まだ多少の装置改善の余地が残っている.開発した装置では,より硬い材質,高いしごき率,例えばプレス加工の速度である数十mm/sのような高い速度での加工の観察はできない.したがって,高しごき率下の高圧による化学変化は起きにくくなり,くさび効果による界面に持ち込まれる油の量も多くできない状況である.前者は本装置での想定外であり当初の計画通りであるが,より硬い材質と高いしごき率の2つができないことについては,いずれもガラスダイの強度による制約で生じている.他の研究を見ても1%程度のしごき率が可能な範囲であり,改善してその程度を目指すことを再検討する.速度に関しては,アクチュエータの要求は満たしているものの,既存の高速度カメラと既存のハロゲン式照明の能力が不足している.明るいメタルハライドランプ式照明,高感度が可能な高速度カメラ変更で対処でき,全体的な予算をみて置き換えを検討していく. 現状の低いしごき率と速度においても,粒子の直径,材質,添加量や油の粘度といった粒子添加油の潤滑の基本的なメカニズムに関しては解明できる状態であるので,これまでの研究で有効であった条件とそうでなかった条件における界面観察,および,しごかれた表面への埋設の観察,加工荷重の調査を行い,焼付き抑制に寄与するプレス加工界面の添加粒子の挙動の把握を試みる.なお,アクチュエータが大きすぎたために,それに比べてとても小さいしごき荷重の検出ができず,ロードセルのような荷重測定装置の取り付けが必要である.界面の観察の後に,ガラスから金属または,超硬合金などにダイを変えてセンサーを取り付けてプレス界面の接触状態の調査を試みる.
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