2019 Fiscal Year Research-status Report
マルチスケール中性子イメージング法による鉄鋼中ミクロ組織の形成過程の解明
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19K05102
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
大場 洋次郎 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究副主幹 (60566793)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
戸高 義一 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50345956)
篠原 武尚 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主幹 (90425629)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 中性子イメージング / ミクロ組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、マルチスケール中性子イメージング法を用いた非破壊測定を行うことを目的とする。2019年度は、まず中性子イメージング実験結果の解析法の高度化を行った。これまで、中性子透過率スペクトルから構造の情報を得る手法として主にブラッグエッジ解析が単独で用いられることが多かったが、今年度の研究において、これに磁気ブラッグエッジ解析と小角散乱成分の解析を組み合わせ、高精度な解析をする手法を確立した。また、この手法を用いて鉄鋼母相の集合組織と析出物の変化を同時に解析した。さらに、結晶構造を持たない液体とアモルファスにおいては、ブラッグエッジの代わりに波状の中性子透過率スペクトルが観測され、このスペクトルを中性子回折プロファイルによって説明できるとの知見を得た。また、磁気ブラッグエッジ解析の応用として、強磁性であるフェライトやマルテンサイト等の鉄鋼材料において観測される、中性子の磁気回折成分を利用した磁気集合組織解析が可能になるとの新たな知見が得られ、これについても検討を進めた。 一方、J-PARCのエネルギー分析型中性子イメージング装置BL22螺鈿において実験課題が採択された。この実験において、中性子イメージング実験からさらに低q領域の情報の取得を可能にするため、新たに導入したソーラーコリメータの調整を行った。その結果、中性子小角散乱でq=約0.04 nm^-1に相当する領域までの測定が可能になった。ここで、qは散乱ベクトルの絶対値であり、測定可能な実空間スケールの目安となる。また、その場測定用赤外加熱炉の整備を行った。 試料として、マルチスケール中性子イメージング法による解析の単純化のため、鉄鋼よりも安定な面心立方構造を持つ銅合金を用いたミクロ組織形成過程の比較・検証実験について検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マルチスケール中性子メージング法では、従来の中性子イメージング法に加え、ブラッグエッジ解析や小角散乱成分の解析等を組み合わせることが解析の鍵であり、高精度な情報を得るためには、その高度化が必須である。2019年度は、この解析法を高度化し、鉄鋼の中性子透過率スペクトルの測定結果に適用して集合組織や析出物等の情報を取得できることを実証できた。これは当初の計画通りの進捗である。また、液体・アモルファスの構造解析や、磁気集合組織解析等、本手法を応用した新たな解析手法の可能性を得ることができた。これは期待以上の成果と考えられる。 実験の面では、本研究に必要となるソーラーコリメータの調整と赤外加熱炉の加熱試験を終え、いずれも良好な結果を得ることができた。したがって、中性子イメージング実験のための準備が整ったと考えられる。一方、当初から予想されていた通り、鉄鋼材料におけるミクロ組織の変化は、体心立方構造-面心立方構造間の相変態と、析出物の生成が関係する複雑なものである。研究分担者や関連分野の研究者とのディスカッションを通じて、最初はより単純なミクロ組織の変化が予想される銅合金を用いて比較・検証実験を行う必要があるとの見解が得られた。また、具体的な試料および実験条件について検討を行い、現在試料を準備中である。これは、当初想定された状況の範囲内であり、おおむね順調である。 以上のことから、本研究の進捗状況は、おおむね順調であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究結果に基づいて、J-PARCのBL22螺鈿に課題を申請し、実験を行う。最初に銅合金の実験により知見を集め、より複雑なミクロ組織変化を生じる鉄鋼の解析へと発展させる。解析の面では、データサイズの大きな中性子イメージング実験結果を、より高速に解析できる環境の整備を進める。以上により得られる結果を基に、本研究の目的であるミクロ組織の形成メカニズムについて検討する。特に、表面効果を受けない試料内部において、フェライトの成長挙動を定量的に評価し、従来の核生成理論やオストワルド成長等の理論を検証する。また、2019年度に得られた成果について補足データの取得を進め、研究発表を行うと共に、今後の成果についても随時発表を目指す。
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Causes of Carryover |
2019年度は、実験準備が順調に進み、当初計画において購入を予定していた一部のジグ等の購入が不要となったことにより、次年度使用額が生じることとなった。 2019年度の研究において、磁気ブラッグエッジ解析に対する新たな検証が必要だと判明したので、2020年度分経費の一部(消耗品費と旅費)の支出計画を見直しを行い、次年度使用額と合わせて、2020年度に実施する磁気ブラッグエッジ解析の検証に使用する計画である。
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Remarks |
日本中性子科学会奨励賞受賞
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Research Products
(6 results)