2019 Fiscal Year Research-status Report
シクロデキストリンによる元素選択的貴金属回収メカニズムの解明
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19K05109
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
吉田 啓晃 広島大学, 理学研究科, 助教 (90249954)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シクロデキストリン / 包接 / 貴金属回収 / 銅 / シンクロトロン放射 / 軟X線 / 吸収スペクトル / ヘリウム雰囲気 |
Outline of Annual Research Achievements |
「シクロデキストリンによる元素選択的貴金属回収メカニズム」を解明するため、シクロデキストリンに包接された金属錯体の吸収スペクトルを水溶液中で測定し、包接時の化学結合状態を明らかにすることを目的として研究を進めている。 令和元年度は、まず「ヘリウム置換型実験槽」を製作した。軟X線吸収スペクトルを測定する際には、空気中の酸素分子や窒素分子による軟X線の吸収を防ぐために、測定試料を入れた実験槽の中をヘリウムガスで置換する必要がある。ヘリウムガスの導入部と排出部を備えた実験槽内に測定用試料を固定するための台を設け、粉末のシクロデキストリンを試料として台上に設置し、ボンベからのヘリウムガスを導入した。実験槽内に酸素濃度計のセンサーを組み込み、酸素濃度が0.0 % まで到達することを確認した。 ヘリウム雰囲気下の状態を保ったまま、広島大学放射光科学研究センターのシンクロトロン放射光源HiSORからの軟X線を高分解能分光器で分光し、入射部に新たに設置した厚さ150 nmの SiN 薄膜を透過させて実験槽内の試料上に照射した。試料電流測定法による吸収スペクトルの測定を行い、α-,β-,γ-シクロデキストリンの酸素K殻(1s)吸収スペクトルの測定を行った。 次に、銅イオン包接したシクロデキストリンを試料として作製し、同様の測定を行った。酸素K殻(1s)吸収のエネルギー領域だけでなく、銅L殻(2p)領域についても吸収スペクトルの測定を行い、α-,β-,γ-シクロデキストリンによる包接のしくみの違いについて調べた。 これらの結果をまとめて、第33回日本放射光学会年会において「銅イオンを包接させたシクロデキストリンの軟X線吸収分光」という講演題目で発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、まず放射光利用実験を行うための実験装置の根幹となる部分の製作から始めた。「ヘリウム置換型実験槽」の製作と実際のヘリウムガス置換による酸素濃度の測定から十分な性能を保持していることが確認された。また、固体試料を用いて放射光の照射実験を行い、この装置を用いた吸収スペクトルの測定が可能であることを実証した。このような状況を踏まえて、研究は概ね順調に進捗しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、水溶液中での測定を目指して液体循環システムの整備から始める。本研究で調べる反応は水溶液中で起こるために、液体の吸収測定は不可欠である。一方、光照射で反応が起こるとさまざまな反応生成物が生成するために、これらの情報を取り除くためには、光照射位置に常に新鮮な試料が到達するための液体循環システムが必要になる。シクロデキストリンによる貴金属イオンの包接を起こす反応容器と、放射光による吸収測定を行うヘリウム置換型実験槽をチューブで結び、送液ポンプを用いて液体循環システムを構築する。 次に液体試料測定のための特別な試料ホルダーの製作を行う。初年度に実施した固体試料の測定の場合では傾斜した台に導電性テープで張り付けるだけという簡単なものであったが、液体を流すための滑り台のような構造を持った試料ホルダーの形状を検討して適切なものを製作する。 最後に吸収計測システムの改造を行う。固体試料の吸収測定の場合は、試料をアースから浮かせて光電効果に伴う試料への流れ込み電流を測定することで吸収スペクトルが得られるが、液体試料の場合はこの方法が使えない。そこで、光吸収後に放出される発光を観測することによって吸収スペクトルを得る。このための検出器とその空間的配置を検討して、実際にヘリウム置換型実験槽内に設置し、まずは「水」を測定試料として軟X線吸収スペクトルを測定する。水以外の粘性の異なるいくつかの液体試料についてもテスト測定を重ねて、送液条件の最適化を行う。これらの整備を終えた後、3年目に目的とする金などの貴金属を包接させたシクロデキストリンの軟X線吸収スペクトルの測定を実施する。
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Causes of Carryover |
主となる実験装置の製作にあたって、想定外で急遽発生した不要物品等を入手し再利用することにより、まず試験的な装置を作ってヘリウム置換実験や光の照射実験を行い、課題や問題点がないかを確認する作業を優先した。この装置での問題点も明らかになりつつあり、それらを踏まえて今年度に改造された実験装置の製作を行う。また、当初の計画通りの試料液体循環系および発光観測による吸収測定装置の整備も並行して今年度に行う。
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