2021 Fiscal Year Research-status Report
シクロデキストリンによる元素選択的貴金属回収メカニズムの解明
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19K05109
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
吉田 啓晃 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 助教 (90249954)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | シクロデキストリン / 包接 / 貴金属回収 / ガルバニック置換 / 析出速度 / 金錯イオン / 可視紫外 / 吸収スペクトル |
Outline of Annual Research Achievements |
「シクロデキストリンによる元素選択的貴金属回収メカニズム」を解明するため、貴金属錯体のシクロデキストリン水溶液中での包接の有無や、包接時の電子構造を明らかにすることを目的として研究を進めている。 令和3年度は、ガルバニック置換反応に着目して研究を進めた。これは標準酸化還元電位の差によって異種金属間で自発的に起こる反応である。 4臭化金酸カリウム(KAuBr4)を水に溶解して作成した溶液にNi板を浸漬すると、AuBr4-がNiとガルバニック置換し、Auが析出される。その際に赤褐色の溶液が透明に変化する。そこで、まず可視・紫外吸収スペクトルの時間変化を調べ、析出速度を求めた。KAuBr4溶液の吸収スペクトルには、250nm付近に強いピーク、377nm付近に弱いピークがあり、これらはそれぞれ AuBr4-のeu(π)→b1g(σ*)、b2u(π)→b1g(σ*)遷移に帰属されている。解析には 250nmピークの吸光度の値を用いた。その後、この反応系にシクロデキストリン(CD)を予め添加しておいて、水溶液中での金錯イオン(AuBr4-)の各種CDによる包接の有無について調べた。 KAuBr4溶液のみにNi板を浸漬した場合は3時間で透明になったが、予めβ-CDを添加しておくと析出速度が遅くなり、透明になるまで10時間を要した。γ-CDを添加した場合でも同じ程度の時間を要した。したがって、β-,γ-CDを添加することにより、析出速度が1/3~1/4程度に遅くなることが分かった。この析出速度の変化が CDによる金錯イオン(AuBr4-)の包接に起因するものであることを示すために、包接を起こさないグルコースを反応系に同量添加し、同様の実験を行った。グルコースを添加した場合は析出速度がほぼ変化していないことから、析出速度の変化は各種CDによる包接に起因するものと結論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画の3年目は、水溶液中での金錯体のさまざまなシクロデキストリンによる包接の有無について、ガルバニック置換反応を利用することによって調べる手法の確立を行った。この手法を白金など他の貴金属にも適用していくことになる。一方、包接体の電子状態を調べるための手法として、滴下真空乾燥法により作成した薄膜試料を用いることが最適であるとの結論を得て、軟X線吸収分光、軟X線光電子分光、硬X線吸収分光などさまざまなシンクロトロン放射光実験を開始している。 2年間以上に及ぶコロナ禍により、多くの国内外の学会・研究会等が中止や延期になり、本研究で得られた成果に関しての詳細な議論を行う場が著しく制限されてしまった。そのような状況下で、研究はやや遅れており、当初計画の研究成果を得るために1年の延長申請を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
4年目(延長年度)は、シクロデキストリンによる貴金属回収メカニズム解明のための実験を精力的に行う。 金の場合は臭素化合物カリウム塩 KAuBr4を用いたが、白金の場合も同様に KPtBr4を原料物質として用いる。これらの水溶液中にα-,β-,γ-シクロデキストリン(CD)を添加し、水溶液中で包接が起こっているかどうかを、金に対して行ったのと同様にガルバニック置換を利用して、可視紫外吸収スペクトルの測定によって調べる。その後、ガラス基板上に滴下真空乾燥して得られた膜状の試料を試料槽内に設置し、エネルギー選別されたシンクロトロン放射光を照射して、軟X線吸収分光、軟X線光電子分光、硬X線吸収分光などさまざまな実験を行い、電子構造に関する知見を得る。また、CDの有無によるガルバニック置換の反応速度の変化を調べることにより、「徐放のしにくさ」(すなわち、「包接の強さ」)についての知見が得られる。 これらの結果を総合的に検討することにより、本研究の主目的であるシクロデキストリンによる元素選択的貴金属回収メカニズムの解明を行う。
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Causes of Carryover |
世界的なコロナ禍(日本を含む)により国内外の学会が中止または延期になった。イタリアで開催予定だった国際会議 "20th International cyclodextrin Symposium" 、シクロデキストリンに関するさまざまな研究成果について討論を行う国内学会である「シクロデキストリンシンポジウム」など、国内外の学会への出席に伴う旅費の使用が見送られた。これらは令和4年度に開催されたものに対して順次使用予定である。(海外で開催の学会参加に関しては、国や所属機関による規制等が解除されてから行う。) また、金や白金などの高額試料を用いる前に、さまざまな実験手法の確立のため、より安価な3d遷移金属化合物を用いた実験を優先して実施してきたために次年度使用額が生じた。これまでの研究成果からガルバニック置換反応を利用するなどの手法も確立され、令和4年度は当初の計画にある白金などの高額な貴金属試料の購入、およびそれらを使った各種実験の消耗品の購入などに主に使用する予定である。
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