2019 Fiscal Year Research-status Report
遷移金属類の単核サイトに基づく新奇な触媒機能を有するゼオライト触媒の創製
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19K05154
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
今井 裕之 北九州市立大学, 国際環境工学部, 准教授 (70514610)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ゼオライト / 遷移金属元素 / 脱水素反応 / ブタン / 貴金属元素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ゼオライトの骨格構造の特異性を利用して、遷移金属元素をゼオライト中に単分散させることで、新奇な触媒反応特性を持つゼオライト触媒を開発し、アルカンの脱水素反応に応用することを目的とする。ゼオライトは、ケイ素と酸素が規則的に配列してできた結晶で、一部のケイ素を他の金属元素に置き換えることで、酸触媒特性や酸化反応触媒特性など、通常の金属酸化物触媒とは異なる、特異な触媒反応を示すことが知られている。本年度は、遷移金属元素として脱水素能力を持つ亜鉛元素をゼオライト中に単分散させた、ゼオライト触媒の合成を行った。合成したゼオライト触媒は、n-ブタンの直接脱水素反応に応用し、触媒性能を検討した。 亜鉛含有ゼオライトの合成では、ゼオライト合成原料に亜鉛元素を導入する前に、有機シランと有機構造規定剤の混合水溶液をあらかじめ加熱して予備的に反応を起こしておくことが重要になる。このため、予備加熱の温度と時間の検討を行った。温度を60℃から80℃に変化させ、時間を6時間から48時間に変化させた検討のいずれにおいても、亜鉛含有ゼオライトを直接合成することができた。しかし、加熱時間がより短い場合はゼオライトへの結晶化が進行せず、非晶質のシリカと酸化亜鉛の混合物となった。結晶化したゼオライトをn-ブタン脱水素反応に応用した結果、いずれの合成ゼオライトでも、一段脱水素したブテン類と二段脱水素したブタジエンが生成物として得られた。予備加熱の温度の違いによる触媒性能への影響はほとんど見られなかった。加熱時間の影響では、時間が長いほど、生成物分布に大きな違いは見られなかったが、脱水素性能の向上が見られた。一方で、48時間まで加熱した場合、脱水素性能の向上は見られたが、ブタジエンの生成が減少する結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ゼオライトの骨格構造の特異性を利用した、遷移金属元素含有ゼオライトの合成法の開発と、アルカンの選択的な脱水素反応への応用を目的としている。そのため、本年度は、亜鉛含有ゼオライトの直接合成において、合成条件がゼオライトの結晶化および亜鉛の導入状態に与える影響を検討した。そして、アルカンの脱水素反応における触媒性能への影響を検討した。 ゼオライトの合成条件の中で、特に、金属元素の導入の前段階での、ゼオライト原料の処理がゼオライトの結晶化に及ぼす影響および脱水素反応における触媒性能への影響について知見を得ることができた。亜鉛含有ゼオライトは、ゼオライト原料の予備加熱と、続く水熱合成を通して、ゼオライトへ結晶化しているため、合成の最初の段階である予備加熱の結晶化への影響を把握しておくことは、今後のゼオライト合成における重要な情報になる。その上、予備加熱の条件が、合成ゼオライトの触媒性能へも影響を及ぼすことは、合成ゼオライトの物性分析からは違いが見つからなかったことからも、今後の触媒設計において、合成した材料を分析して得られた情報以外のファクターが触媒性能に影響を与えていることが予想され、分析手法や触媒設計の再検討など重要な情報となった。 そして、予備加熱を行うことで、従来法よりもゼオライトの結晶化が進行すること、また、アルカンの脱水素反応における触媒性能が向上することが分かった。一方で、当初の想定よりも、ゼオライト合成条件が結晶化や触媒性能に及ぼす影響が大きく、また、合成条件と結晶化や触媒性能との相関性の明確化が困難となった。相関性を明確にするために、分析手法の再検討が必要になる。以上より、全体的に概ね順調に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度において、ゼオライトの合成条件が、金属含有ゼオライトの結晶化および脱水素反応における触媒性能に影響を与えることが見出された。また、金属元素を導入する前のゼオライト原料の予備加熱と、続く水熱合成を通した二段階のゼオライト合成過程が、ゼオライトに導入する金属の量の増加および脱水素性能の向上に重要になることが分かった。これらの結果を踏まえて、まず、ゼオライト合成条件がゼオライト結晶化やゼオライトの物性に与える影響の詳細を引き続き検討する。これは、ゼオライト合成条件によって、脱水素性能が変化したにもかかわらず、ゼオライトの結晶性、導入金属元素の量や状態に大きな違いが見られなかったため、分析手法を再検討して、合成ゼオライトの物性分析を行い、合成条件と物性および脱水素性能の相関性の明確化を目指す。 また、さらなる触媒性能の向上のため、合成ゼオライトへの貴金属の複合化を検討する。貴金属元素をゼオライト全体に単分散させることで、触媒性能および貴金属の利用効率を向上させ、さらに、ゼオライト中の金属元素と複合化させることで、単独の金属元素とは異なる物性を持つ金属複合体の形成が期待される。加えて、金属複合体をゼオライトの微小細孔内で構築することで、触媒反応中での過剰な反応によるサイズの大きい分子の生成や、金属複合体の凝集の抑制が期待される。複合化する貴金属の種類(無機化合物や有機化合物)、複合化手法、複合化した後の処理条件など、複合化の条件を変えて、それぞれが合成される金属複合体の物性および触媒性能へ及ぼす影響を検討する。
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Causes of Carryover |
(理由)本年度の初期に、合成ゼオライトの酸塩基性や金属の状態など、本研究で合成するゼオライトの基本性質の解析に使用予定だった分析装置に不具合が見つかった。本装置は、既設の分析装置である。メーカー引き取りの上、装置内部の詳細検査が必要で、まず、装置の状態を把握するための検査結果が出るまでに時間を要した。検査結果から、装置内部の基盤の交換が必要となったが、装置が旧型のため、基盤が市場に出回っておらず、入手までに時間を要し、装置が整備されて返還されるまでに、さらに時間を要した。また、整備が完了するまでの間、市場に出回っていないため、基盤の価格が不明で、また、装置の整備中に、新たな部品交換が必要になる可能性もあり、整備価格に流動性があった。このため、装置の整備を優先としたことで、購入予定品のスケジュールが変更になり、使用額に影響した。 (使用予定)本年度の成果を踏まえた実施計画を進めていくため、まず、ゼオライトの合成条件の再検討ならびに貴金属元素との複合化、また、触媒性能評価のための使用を予定している。また、触媒の物性評価および反応機構の解明のため、分析用の装置とその周辺装置の購入を予定しているが、研究進展のために適した仕様・性能を有する装置を選定する必要がある。
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