2020 Fiscal Year Research-status Report
遷移金属類の単核サイトに基づく新奇な触媒機能を有するゼオライト触媒の創製
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19K05154
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
今井 裕之 北九州市立大学, 国際環境工学部, 准教授 (70514610)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ゼオライト / 遷移金属元素 / 脱水素反応 / 貴金属 / アルカン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ゼオライトの骨格構造の特異性を利用して、金属元素をゼオライト中に高分散させることで、新奇な触媒反応特性を持つゼオライト触媒を開発し、アルカンの選択的な脱水素反応に応用することを目的とする。これまでに、亜鉛を単分散させたゼオライトがn-ブタンの脱水素反応に活性を示すことを見出しており、本年度は、脱水素能を持つ貴金属元素をさらに複合させることで脱水素能の向上を検討した。また、反応原料に用いるアルカンの種類を変えて、アルカンの脱水素反応への適応性を検討した。 亜鉛含有ゼオライトに含浸担持法により貴金属を複合させた。中でも、白金を複合させることでn-ブタンの脱水素反応活性が劇的に向上することを見出した。金属を含有しないゼオライトに白金のみを含浸担持した触媒、また、白金と亜鉛を共含浸担持した触媒では、白金を担持していない亜鉛含有ゼオライトが示す脱水素活性よりも低く、亜鉛含有ゼオライトへの白金の複合が高い脱水素活性の発現に重要となることが示された。各種分析から、複合した白金はゼオライト上で高分散しており、粒子状に凝集していないことが判明した。また、白金は水素還元により活性化されるが、還元温度が脱水素能に大きく影響し、高温ほど白金がより還元状態になり、脱水素活性が向上する傾向が見られた。一方で、より高温では亜鉛が還元状態になるとともに触媒から脱離してしまい、脱水素活性が低下した。また、反応原料にn-ブタンと同様な分子構造を持つイソペンタンを用いて、白金を複合した亜鉛含有ゼオライトの脱水素活性を評価した。イソペンタンの二段脱水素で生成するイソプレンが直接的に得られ、他には、イソペンタンの一段脱水素されたオレフィン類が主に得られたことから、アルカンの異性化などの分子の骨格構造を変化させる副反応よりも、単純な脱水素反応を優先的に進行させることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ゼオライトが持つ構造の特異性を利用した、金属含有ゼオライトの合成法の開発と、アルカンの選択的な脱水素反応への応用を目的としている。これまでに、亜鉛含有ゼオライトの合成において、水熱合成の温度や時間などの合成条件がゼオライトの結晶化および亜鉛の導入状態に影響を与え、そして、n-ブタンの脱水素反応における触媒性能に影響を及ぼすことが判明した。本年度は、開発した亜鉛含有ゼオライトを基に、貴金属元素を複合したゼオライト触媒を合成し、合成条件がアルカンの脱水素反応における触媒性能へ与える影響を検討した。 複合する貴金属元素の中で白金が最も脱水素反応に効果を発揮し、亜鉛含有ゼオライトに白金を複合した場合に非常に高い脱水素活性を示すことを見出した。このことは、ゼオライトを基盤にして複数の金属元素を複合することで、触媒性能の飛躍的な向上および新たな触媒性能の発現が可能であるとの非常に重要な情報が示された。亜鉛含有ゼオライトに白金を複合することで亜鉛および白金がなりえる状態および新たな触媒性能を発現するゼオライト内のサイトの詳細については、各種の分析手法を組み合わせて、今後解析を進める必要がある。また、開発した触媒がn-ブタンだけでなく、イソペンタンの二段脱水素にも適用できることが判明し、異性化や分解などの副反応が抑制できることで、アルカンの脱水素を選択的に進行させられることを見出せた。 一方で、世情の急変により実験室の入室が制限され、実験自体を暫時停止せざる得ない状況に遭遇した。このため、当初の予定よりも、大幅に実験内容を変更・縮小して、期間内に実施可能である実験に集中することにした。予定よりも少ない実験量となったが、新たに次年度に繋げられる実験結果を得られていたことから、全体的に概ね順調に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度において、亜鉛含有ゼオライトと白金の複合化がn-ブタンの脱水素活性を飛躍的に向上させることが見出された。これは、白金単独でも、白金と亜鉛の単純な複合でも発現しなかった効果で、ゼオライトを基盤とした複数の金属元素の複合が新たな触媒性能の発現のカギとなると言える。また、金属の複合および活性化の条件がアルカンの脱水素活性に影響を及ぼすことが分かった。これらの結果を踏まえて、まず、亜鉛含有ゼオライトと白金の複合化により形成する触媒反応サイトの詳細な情報の獲得を検討する。これまでの分析で、亜鉛と白金のそれぞれの断片的な情報を得ているが、金属粒子の物理化学的な性質について、それぞれの金属が単独で存在する場合と比較して決定的な違いを見出すには至っていなかった。特に、金属の複合により形成される金属種の種類(合金、金属複合体など)が判明していなかったため、分析手法の再検討と複数の分析手法の組み合わせにより、形成種の詳細・物性および脱水素活性に及ぼす影響の明確化を目指す。 また、本年度では分岐したアルカンであるイソペンタンを反応原料として、二段脱水素が可能であること、また、異性化や分解が抑制できることにより、脱水素化合物の選択的な生成が可能であることを見出している。そこで、反応原料に用いるアルカンの種類による脱水素活性を評価する。アルカンの鎖長や分岐など分子構造が脱水素活性に及ぼす影響を検討し、特に生成物の構造とその分布の検討から、ゼオライト触媒で起こる反応機構およびゼオライト触媒の作用機構の解明を検討する。
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Causes of Carryover |
本年度初期から緊急事態宣言下にあり、大学への原則的に入構禁止やその後も入構制限が続き、しばらくの期間、実験自体の実施が不可能になった。制限付きでの入構が許可された後も、館内の滞在時間や日数に制約があることから、一日の中で時間がかかる実験や一定期間連続で実施する必要がある実験などが実施不可能で、現実的に実施可能な実験が極端に制約されていた。また、学会などの人の密集が予想されるイベントが中止・延期となり、さらに、外出・移動自体が困難な状況であった。これらのことから、各予算執行予定のスケジュールが変更になり、使用額に影響した。 本年度の成果を踏まえた実施計画を進めていくため、ゼオライトと貴金属との複合化の検討および触媒性能評価のための使用を予定している。また、触媒の物性評価および反応機構の解明のため、分析用の装置の周辺機器の購入を予定しているが、研究進展のために適した仕様・性能を有する装置を選定する必要がある。研究の進捗具合によっては、特に触媒性能評価の種類を増やすために、反応装置を新たに構築または改築することも考えており、そのための備品購入を考えている。
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