2021 Fiscal Year Research-status Report
遷移金属類の単核サイトに基づく新奇な触媒機能を有するゼオライト触媒の創製
Project/Area Number |
19K05154
|
Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
今井 裕之 北九州市立大学, 国際環境工学部, 准教授 (70514610)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ゼオライト / 遷移金属元素 / 脱水素反応 / 貴金属 / アルカン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、金属元素をゼオライト骨格中への導入により高分散させることで、特異な反応特性を持つゼオライト触媒を開発し、アルカンの脱水素反応に応用する。これまでに、亜鉛をゼオライト中に単分散させ、白金を複合した触媒がn-ブタン、イソペンタンの脱水素反応に高い活性を示すことを見出している。本年度は、触媒反応の原料として用いるアルカンの炭素数を変えて、脱水素反応における影響を検討した。 亜鉛含有ゼオライトに白金を複合させた触媒を用いて、炭素数の異なる直鎖のアルカンを反応させたところ、n-ヘキサンからはベンゼンが、n-ヘプタンからはトルエンが、n-オクタンからはキシレンとスチルベンゼンが選択的に生成した。また、環状アルカンからは分子の骨格構造を維持したまま脱水素により芳香族化合物が生成し、直鎖のオレフィンからはアルカンと同様な生成物分布が示された。一方、分岐アルカンを原料に用いると触媒活性は顕著に低下し、さらに、分岐数が多くなるにつれて触媒活性の低下が見られた。本開発触媒では、炭素数が大きい直鎖のアルカンでは脱水素によりオレフィンを生成した後に環化が迅速に進行すること、このため、原料のアルカンと同じ炭素数をもつ芳香族化合物が選択的に生成することを見出した。反応中に炭化水素の分解や過剰な重合が抑制されることで、副生成物の生成を減らすことができ、炭素資源の有効活用が期待される。本開発触媒が示したアルカンの脱水素環化は、金属を含まないゼオライトに白金のみまたは白金と亜鉛を担持した触媒、また、ゼオライト中の金属がニッケルやコバルトでは反応が進行せず、加えて、ゼオライト中の金属がアルミニウムやガリウムでは分解が優勢となった。これらのことから、亜鉛含有ゼオライトに白金を複合させた触媒中で、特異的に高いアルカンの脱水素環化能力が発現することが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、これまでに、亜鉛含有ゼオライトの開発および担持法による白金を複合した触媒の開発に成功し、本開発触媒がアルカンの脱水素反応に高い活性を示すことを見出している。本年度は、本開発触媒が適用できる範囲を明らかにするために、種々の炭化水素を用いて、反応活性および生成物分布の点から原料の分子構造と触媒性能の関係性を調べた。アルカンの脱水素反応に高い活性を示す白金を複合した亜鉛含有ゼオライトを触媒として用いて、炭素数が6~8の各種の炭化水素(鎖状アルカン、分岐アルカン、環状アルカン、鎖状オレフィン)を反応させることで反応原料の分子構造の触媒性能への影響を検討し、炭素数が6以上では原料炭化水素の脱水素に続いて、環化が迅速に進行することを新たに見出した。また、原料炭化水素の炭素数に依らず脱水素環化が優先的に進行する一方で、分岐構造による触媒活性の顕著な低下が見られ、原料の分子構造が脱水素環化における触媒性能に大きく影響を及ぼすことが明確となった。さらに、ゼオライト中に導入する金属の種類により触媒性能が大きく異なること、特に酸性質(ブレンステッド酸点の有無)が生成物分布に大きく影響することを見出せた。 一方で、世の中の状況から大学構内(実験室)への入構制限が一定期間実施され、その間は実験自体を停止せざる得なかった。このため、当初想定した実験内容を適宜変更して、定常的に実施可能である実験に集中することにした。検討すべき実験内容は残ったが、次に繋げられる実験結果を適宜得られていたことから、全体的に概ね順調に進行していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度において、白金を複合した亜鉛含有ゼオライト触媒が、炭素数が6~8の直鎖アルカンの脱水素の後に環化を促進することが見出された。直鎖アルカンの脱水素環化は、白金単独でも、白金と亜鉛の典型的な複合体でもほとんど進行しなかったことから、ゼオライト中に導入する金属を活用することが新奇な触媒性能の発現のカギと言える。また、原料炭化水素が直鎖と分岐体では、脱水素環化における触媒性能に顕著な差異が見られ、反応原料の分子構造が反応機構に大きく影響することを見出している。これらの結果を踏まえて、まず、分子構造の異なる炭化水素を網羅的に用いて脱水素・脱水素環化を実施し、炭素数による脱水素と脱水素環化の反応機構への影響を明確化させ、さらに、脱水素・脱水素環化における分岐体の炭素数や分岐構造の生成物の構造への影響の明確化を目指す。 また、触媒反応前の触媒の活性化処理において、処理条件により触媒性能の向上が見られたことから、前処理条件により発現・変化する触媒活性点の詳細を各種分析手法を組み合わせることで検討する。特に、ゼオライト中の金属の電子状態や複合している金属(白金)との結合状態、ゼオライト中での金属の移動具合に着目して分析を進める。これにより、特に前処理に用いるガス種がゼオライト中の金属に及ぼす影響、および新たに形成される金属種を明らかにできると考える。
|
Causes of Carryover |
(理由) 2020年度初期から緊急事態宣などで、大学への入構禁止や入構制限が断続的に行われ、一定期間、実験を進めることが不可能となった。また、館内の滞在できる時間や日数に制約が課されたことから、時間的に実施可能な実験が限られてしまった。加えて、学会などのイベントが中止・延期となり、また、出張などの移動が自粛となった。これらのことから、各予算執行予定のスケジュールが大幅に変更になり、年度内の使用額に影響した。 (使用計画) 本年度の成果を踏まえて、実験計画の再策定を進め、実施を予定している。特に、金属含有ゼオライトと貴金属との複合化および複合における物性の変化の検討および複合状態が触媒性能に及ぼす影響の検討を予定し、それらの実験のための予算使用を予定している。触媒の物性を評価するためには、各種の分析機器の使用が必要となり、学内の共有設備を利用するための予算使用を考えている。また、触媒性能評価で用いる炭化水素は揮発性であることが多く、各種の炭化水素を揃えて、安全に保管するための設備が必要になると考える。
|