2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K05203
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
齊藤 健二 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (60397669)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 無機多孔結晶 / 金属酸化物 / 触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゼオライトは、規則的ナノ空間と高い化学的安定性を兼ね備え、化学工業を始めとした幅広い分野で実用化されている無機結晶である。一方、その主骨格構成元素はSiやAlに限られ、大きなバンドギャップを有するため、水分解光触媒等の次世代テクノロジーに応用することは大変困難である。本研究では、ゼオライトのような結晶性ナノ空間を有しながら、ゼオライトにはない触媒性能を示す無機多孔結晶を創製することを目的とする。先行研究では、独自の戦略により新物質の多孔結晶(H2Ta4O11)を合成した。本物質は、光触媒的水素生成に活性を示すだけでなく、H+が存在する面内ハニカム空間に内包された水素を重水素へと触媒的に変換することもわかった(H2-D2変換)。H2-D2変換は通常、金属触媒存在下で進行するため、結晶中に創出された特異なナノ空間が関与していると推察される。そこで、面内ナノ空間がH2-D2変換に与える影響を調査することを主な目的とした。 合成前駆体として用いたCu5Ta11O30の結晶構造では、TaO6八面体のみの層と、TaO6とCu+が共存した層が交互に結合している。後者の面内方向では、Cu+が籠目状に分布しているため、Cu+のH+への置換によって目的とするナノ空間構造が得られると考えられる。また、Cu+を除去することで生じる孔の形状はH2Ta4O11のものと酷似しているため、面内の空間構造に焦点を絞って考察することが可能である。 Cu5Ta11O30は、固相法をベースとした手法により単一相で得られた。本物質をH2Ta4O11合成で行ったものと同様の方法で処理したところ、多量のCu成分が粒子内外に残留することがわかった。しかし、硝酸中で水熱処理しただけの生成物を分析すると、H5Ta11O30と想定される物質が得られた。本物質の生成メカニズムを調査すると共に、物性を評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、高純度のCu5Ta11O30を合成すること、および本物質をH5Ta11O30へと化学変換するための効率的なルートを調査することを目標とした。 まず、フラックス剤のCuClおよびCu源のCu2Oの仕込み量を主なパラメーターとし、Cu5Ta11O30をフラックス合成した。最適条件で得られた生成物をXRDで分析すると、目的とする組成のタンタル酸銅が単一相で得られていることがわかった。 次に、H5Ta11O30への物質変換を試みた。H2Ta4O11を合成した際の手法を用いると、生成物中に多量のCu成分が残存していた。一方、Cu5Ta11O30を硝酸中で水熱処理すると、Cu5Ta11O30に類似した結晶構造を有しながら、Cu成分がSEM-EDSでは一切検出されなくなった。ラマン測定を行なったところ、結晶構造中にH2が内包されていることが判明し、内包量はH2Ta4O11中のものとほぼ同等であった。種々のコントロール実験を行なった結果、H5Ta11O30は次の生成メカニズムにより得られることが示唆された。1)Cu5Ta11O30中の一部のCu+が空気酸化されてCuOが生成する、2)電荷補償により酸素欠陥が生じ、Ta5+の一部もTa4+へと還元される、3)Ta4+がプロトンを還元し、水素分子がCuの欠陥サイトに内包される(Ta5+が再生する)、4)結晶中のCu+が硝酸を還元し、Cu2+として系外に放出されると共に、H+の挿入とTa4+の生成も誘発する。水熱条件下、3)と4)が継続的に進行するため、最終生成物はH5Ta11O30となる。 以上のように、従来法よりもスループットの高い合成ルートを見いだした。よって現在までの進捗状況は、おおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
H5Ta11O30と想定される新物質が得られたが、構造の妥当性等を判断する必要がある。さらに、SEM-EDSよりも感度の良い方法でCuの残存を確認すること、およびH2-D2変換をはじめとする触媒性能を比較検討することも重要な課題である。そこで、生成物のリートベルト解析、Cu5Ta11O30の水熱処理後に生成したCu2+の比色定量(またはH5Ta11O30の溶解とICP-AESによる定量)、さらにはH2-D2変換や水分解反応を今後検討する予定である。また、H2Ta4O11中のd0電子金属イオンの同族元素への置換等、多角的な視点から高性能な無機多孔結晶触媒を開発することを検討する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由として、装置の故障が相次ぎ、研究を断続的に停止せざるをえなかったことが挙げられる。次年度の使用計画としては、研究推進のための消耗品費および研究発表や交流のための旅費に関して、当初の計画通りに支出する。
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Research Products
(5 results)