2019 Fiscal Year Research-status Report
クライオ電顕構造に基いた高機能超耐熱性ペプチドナノチューブの創製
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19K05210
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
田村 厚夫 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (90273797)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | レアメタル / ペプチド / ナノファイバー / 耐熱化 / クライオ電顕 |
Outline of Annual Research Achievements |
クライオ電顕の登場で、今まで他の手法で不可能であった非結晶性ナノファイバーの原子レベルでの構造解析が可能となった。申請者の独自技術によって創製してきた人工設計ペプチドナノチューブにこの構造解析法を初めて適用し、得られた構造に基いて新たな精密設計を行うことで、超耐熱性という形質を付与する。これにより、常温でほどよく機能するという生体物質の性質を超えて、高温高機能となる機能性生体ナノ材料を創製することは可能なのかという問いに答えるべく研究を推進する。このような材料の創製は、生体物質に本来備わっている高い選択性などの高機能を、より高速にさらにはより過酷な条件化で発揮することにつながり、生体機能を新たな局面で発揮させる新技術となることが期待される。 そこで、まずペプチドナノチューブ構造が100℃に達する高温でも安定で機能するという、生体分子にとって過酷な超耐熱化を達成することを第一目標とし、その達成に至った。実際は、90℃程度のものから120℃を超えるものまでを達成した。後者は、示差走査型熱測定においてによって加圧下で得たものであるが、装置の限界温度に達するものであった。また、円二色性から、二次構造(この場合、αヘリックス構造)の転移と分子集合を伴う協同的転移であることを明らかにした。つまり、これらは、αヘリックス構造を骨格構造とし、分子の自己集合によって高分子化し、ペプチドナノファイバーとなることで耐熱性を獲得したものである。以上の手法で得られたペプチドナノファイバーは、そのままではクライオ電顕で必要とされる高い均一性を備えていなかった。そこで、形成条件および形成法に多くの工夫を加え、非常に均一度の高いファイバーの生成にも成功し、クライオ電顕の観測に資するに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
αへリックス型ペプチドを自己集合させることで、安定性の飛躍的向上を目指した所、実際に100℃でも安定であるという目標の達成を数種類のサンプルで果たした。測定は、円二色性および示差走査型熱測定を用いた。特に、示差走査型熱測定において、典型的な天然タンパク質で見られるゆるやかな熱吸収の山と比較、ヘリックスナノファイバーは90℃付近で非常に鋭い熱転移を示して変性するものから、120℃以上(加圧しているため沸騰はしない条件)までαへリックス構造を保持しその後急激に構造を失うものを得た。100℃を越える高い耐熱性については、天然では温泉などの特殊な環境に適応した高度好熱菌が保有するタンパク質で見られることはあるが、このペプチドはわずか21アミノ酸残基で構成されたものであること、またそのピークが遥かにシャープであること(これは協同性が高いこと、即ち多分子が一斉に構造転移することを示唆する)ことが類を見ない現象であると言える。この結果をもとに、ペプチドでも分子集合させることで超耐熱化が可能であることを示した。また、円二色性によって、二次構造(αヘリックス構造)の構造転移が共同的に進行することも明らかになった。さらに、原子間力顕微鏡でそれぞれの温度範囲での形態を観測した所、線維状である温度域と超えると、球状凝集体が形成していることがわかった。つまり、100℃を超える耐熱性は、分子の集合形態が関与していると推察される。以上より、分子の構造と集合との相関が明らかになってきたことから、研究は順調に進展していると認められる。
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Strategy for Future Research Activity |
構造面で、100℃に達する高温でも安定であるナノファイバーを実現したことから、今後は、機能面として、①高速メタル結合センシング、②高速酵素反応、の2つの機能の実現を目指す。これらの達成は、過酷な環境条件化で高速に機能する実用性も併せ持った新しい機能性生体ナノ材料の創製につながることとなる。 特に、本年は①のセンシングについて取り組む。以前、我々はαへリックス型ペプチド(ナノファイバーではない)で、金(Au)との選択的結合能を持ったものの開発に成功している。これは、金錯体イオンを含む溶液にペプチドを添加すると、5日後に赤色を呈色するセンサー能を有している。これは、無色透明の金イオンがペプチドに結合し、さらにこのペプチド/金属複合体が自己集合した上、ペプチド内のアミノ酸による還元反応を受けて金ナノ粒子となることで呈色したものであるさらに、この溶液を遠心分離またはろ過すると金粒子のみ沈殿し分離可能であることから、このペプチドは呈色によって「金の存在をセンシング」し、金を集合させることで「回収可能な状態にする」という2つの重要な機能を一石二鳥で併せ持っている。ただし、この呈色には数日を要し実用的ではない。また、回収溶液(塩酸などでメタルを抽出した溶液)を中和した段階で、中和熱で高温となるなど過酷な条件が想定される。そこで、高温でこの反応の実行が可能となれば、溶液を冷却する必要がないばかりでなく、ナノ粒子形成反応が高温下で加速するため、短時間でのセンシングが可能となる。さらに、環状型ペプチドのナノチューブ構造を含めると、金以外の白金、パラジウム、ロジウム、イリジウムなどのレアメタルについて結合と集合が可能である。これらのうち、特に産業利用価値の高い白金族レアメタルを対象にし、選択的にセンシング/リサイクル可能な実用性につながる独自技術に昇華させる。
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Research Products
(14 results)